……なんやかんやと一区切りついて。
ようやく、周囲はだんだんと落ち着きを取り戻しつつあった。そんな折、いつものようにヘラヘラ笑いながら、ゲンが冗談めかして告白してきた。
「 前にも言ったと思うんだけど、俺、出会う前から、割と千空ちゃんのこと好きだったのよ。……特別な意味で。
いい区切りだし、せっかくだから伝えておきたくて。まぁ、」
そこで一拍置いて。
道化た笑みを浮かべると、いつかと同じ言葉を口にした。
「 千空ちゃんは気持ち悪いとか言うだろうけどね〜 」
双方に退路を確保しての告白たぁ、お優しいこった。
振られても気まずくならない空気づくりなど、至れり尽くせりでご苦労様と言いたくなるレベルだ。小賢しい。
だから、速攻で退路を塞いでやった。
「 おう。奇遇だなメンタリスト 。……じゃ、付き合うか」
いらえに、空気が凍る。正確には、ゲンの表情が。
とどめとばかりに、耳元に囁いてやった。
「 俺も、テメーが好きだ」
その時のゲンの顔ときたら……今思い出しても笑いが込み上げて来る。
交際を始めたというニュースは、なぜか瞬く間に村中に広まって。
よくわからないうちに、祝言とか言う話になった。
あまりの展開の速さに、ゲンは目を白黒させていたが、最終的には腹を括ったようで、大人しく隣に控えている。
杠渾身の白無垢が、しろい肌によく映えた。
……というか、これは先に杠自身が着るべきじゃねぇのかと小一時間問い詰めたくはなったが、彼らには彼らのペースがある。
首を突っ込むのは、野暮というものだろう。
婚礼の儀が終わり、そのまま披露宴に雪崩れ込む。皆思うまま酒を飲み、村長の婚礼を祝ってくれた。
「 ところでさあ〜、ゲンは、千空のどこが好きなの?」
銀狼の問いかけに、辺りがざわつく。
「 全部好きだよ♡」
にこにこと、満面の笑みとともに返された言葉に、冷やかすように周囲がどよめいた。
それを笑顔で受け流して、隠れるようにしながらじっと、隣の花婿の顔を凝視する。
── ……あ〜……千空ちゃんの羽織袴、ジーマーでゴイスーにカッコいい……見惚れちゃう……。
あと、実は……俺、千空ちゃんの強引なとこも、ゴイスー好きなんだよね……。
どきどきしちゃう。
そう胸中でひとりごちていると、揶揄う気満々だった銀狼は、すっかり毒気を抜かれてしまったらしく。
今度は、千空に同じ質問をした。
「 千空は、ゲンのどこが好きなの?」
「 便利なとこ 」
ニヤリと笑って、即答。情緒や浪漫のカケラもない回答に、とうとう新郎新夫を揶揄うのを諦めたらしく。
銀狼はすごすごと席に戻ると、兄たちと共に酒を飲み始めた。
別に嘘は言っていない。
頭がよく、気が利いて、根気があり、こちらの意図を適切に汲み取り、状況に応じて空気をコントロールできるゲンの便利さは、稀有なものだ。最高のパートナーだと思っているし、向けられる思慕も、献身もすべてがいとおしい。
それを、至極端的に言っただけのことだ。
隣に視線を向けると、ちらちらと此方を伺う視線に気づく。
── ……ホントにコイツ、俺の顔好きだな。
そう思いながら、ひょいとあたまを覆う綿帽子を持ち上げて。
人目につかないように、そっとくちびるを重ねた。