砂礫の楽園2/2 村に着くと、かつての仲間たちが笑顔で迎え入れてくれた。
村の入り口と車を特殊な迷彩で隠し、ジープの轍の跡を消して。
二人は村に足を踏み入れた。
「 おかえり!」
「 おかえりなさいなんだよ!」
「 久しぶりじゃの〜!」
わっと周りを取り囲む村人たちに笑顔を返して、視線を上げる。
「 久しいな、千空。……ウィングフィールドの連中が躍起になって君を探している。
粗方のことは把握しているから、安心しろ。
ひとまず奥で休むといい」
視線の先。喧騒から少し離れて、よく通る、凛とした声が割り込んできた。
どこまでも理性的に、冷静に過不足なく現状を報告する少女に、頷いて礼を返す。
「 コハク、……ぁ。悪りぃな」
「 なに、他ならぬ君のことだ。構わんさ。……念のため、司が哨戒に出ているが大事なかろう」
「 お〜、そりゃおありがてぇ。……んじゃ、俺たちはちぃっと休ませてもらうわ」
そう告げて、奥の建物に進もうとしたところで、不意に呼び止められた。
「 待て。……大体の事情は了解しているが、紹介くらいしてもバチは当たるまい?
何しろ我らがリーダーの伴侶だ。挨拶くらいさせろ」
思いがけない言葉に目を剥く。
何がどうしてそんな話になったのか。
「 ……なんだ、違うのか?」
ニヤリと意味深な笑みを返されて、苦虫を噛み潰すと、誤魔化すようにうるさげに髪を掻き上げた。ああくそ、と口の中で小さくひとりごちる。
「 ……〜、違わねぇよ。コイツはゲン。
地獄までの道行を誓った、俺の伴侶だ」
その言葉に、コハクはにっこりと満面の笑みを浮かべた。
「 そうか!初めましてだな、ゲン。私はコハク、この村の長のようなことをしている。
そしておめでとう!
……君たちの道行に祝福を!
落ち着いたら祝言と行こう!
せっかくのめでたい話だ。……皆、喜ぶ」
君のことだから、〜、いいわそういうの面倒くせぇ、などと言うのだろうが、そこは諦めて村の皆の娯楽になってくれ。
悪気も飾り気もなくそう言われて苦笑する。
……こういうところは、昔から変わらない。
「 司とはうまくやってるか?」
「 ああ!心配いらん!帰ったら顔を見せてやってくれ……と、そうか、野暮だな。明日でいいぞ!今日は二人ともゆっくり休め」
あまりにもあからさまな気の使われ方をして、なんだか逆に据わりが悪い。
隣のゲンはというと、これだけ他人と接するのが初めてなのか終始キョトンとしていた。
通された寝室は、一人寝には大きなベッドがひとつ、設えられており、窓際には甘い香りのする白い花が飾られていた。
ハッとしてベッドサイドのチェストを開けると、大量のゴムとローションが備え置かれている。
……コハク、テメー……。
露骨すぎる配慮に頭を抱える。
言いたいことはわかる。
いくらここが安全でも、こんなご時世だ。
いつ何があるかわからない。
だから、想いを重ねた相手がいるなら、後悔のないよう、存分に愛し合ってほしい。
……そういう意図なのだろう。
「 ドクター?」
「 ……〜、名前でいい……じゃねぇな、名前がいい。名前で呼んでくれ」
「 名前…… 」
「 千空。……俺は、石神千空だ」
「 ……せんくう、ちゃん…… 」
呼び捨てにはまだ抵抗があるのか、どうやら親しい人を呼ぶ時の接尾語として、それをチョイスしたらしい。
ひょっとしたら、道中で行き会った親子連れに影響されたのかもしれない。
愛おしげに、楽しげに名を呼ぶその姿を、ずっと目で追っていたゲンの様子が脳裏に浮かんだ。こちらとしては、呼ばれ慣れないため少しムズムズするが、この際気にしないことにする。
「 おう。……とりま、寝るか。テメーもずっと車の移動で疲れたろ?」
コハクの言いたいことはわかる。わかるが、ゲンはまだ、感情を獲得したばかりのこどものようなものだ。
それを、こちらの都合で好きにしてしまうのは躊躇われた。
たとえ、明日を知れない身だとしても。
だからこそ、相手の意思を尊重したい。
「 ねぇ、千空ちゃん。千空ちゃんは、コハクちゃんやみんなに、俺を伴侶だって言った。
伴侶……同じ道行を一緒に連れ立って歩く人。連れ。考えを同じくする仲間。……配偶者。わからなくて、脳内データを参照したけど、やっぱりわかんない」
「 ……そうか。悪かったな、勝手にんなこと言って。あんま深く考えんな」
「 ねぇ。……千空ちゃんにとって、俺はどれ?」
曖昧に流そうとした部分に切り込むように。
夜空の色の目が、真っ直ぐこちらを見上げた。
「 家族だ。一生、一緒にいたい……家族」
噛み締めるようにそう伝えると、瞳を大きく見開いて。
それからゆっくり、しあわせそうにわらった。
「 ……うれしい。なんだろう。この気持ち。うれしい。ありがとう、千空ちゃん。
すごく、うれしい」
その表情が、あまりにいとおしくて。
抱きしめてキスをした。
たからものにふれるように、そっと。
額に、頬に、くちびるに。
白い頬が、うっすらと。
春の花のような色に染まる。
「 ……ねぇ、干空ちゃん……俺、どこか壊れちゃったのかな?脈拍異常、呼吸不全、体表温度上昇、心拍数の異常な増加……アドレナリンの過剰分泌による思考のノイズ……こんなこと、初めてだ…… 」
どくん、どくんと伝わる鼓動と体温。
ゲンが生きている、証。
「 ……それに、さっきから……千空ちゃんに触れられてるところが、痺れたみたいになって……あつくて……おなかの下に、熱が溜まって……熱暴走みたいになってて……ねぇ、俺…… 」
あまりに詳細に実況されて、ついに耐えきれなくなる。
「 ……〜……ちぃっと、黙りやがれ…… 」
ようやくひと言、絞り出すように告げて。
それ以上の言葉を封じるように、深くくちづけた。
「 ……ん……ふ……ぁっ…… 」
そのままなるべく優しく、ベッドに押し倒す。ゲンは時折あまい吐息をこぼしながら、おずおずと背に腕を絡ませた。
何度も、繰り返しくちびるを重ねていると、ゲンの側からもそれを模倣してキスを返してくる。身体の下の細い腰が、それだけでぷるぷると震えていた。
おそらく、命令に従うことしか教えられていなかったため、その他の感情が未発達で、快楽に耐性がないのだろう。
キスを繰り返しながら、服を緩めて。
下穿きを抜き取ると、ほんのり赤く染まったしろい脚が晒された。
メンテナンスで幾度も見た身体だと言うのに、不自然なくらい心臓が波打っている。
急にひんやりした外気に触れて驚いたのか、びくんとゲンの腰が跳ねて。
ややして、だらんと脱力したようになった。
……達してしまったようだ。
戸惑うゲンを宥めるように背を撫でながら、ゆっくりと身体を開いていく。
「 ……っ、あん……、は……、んぅ……せん、く……ちゃ……、これ……なに……からだ、あつい…… 」
指先が、くちびるが、肌に触れるたび、ゲンはぴくぴくとしろい肢体をふるわせた。
今までに経験のない感覚に戸惑いながら、必死に脳内の知識を検索しているようだ。
「 ……オーガズム……性的快楽……かいらく……これが、きもちいいって、こと……?」
……爆弾発言もいい加減にしてほしい。
無自覚に煽られて、先ほどからこちらは既に痛いくらいに張り詰めてしまっている。
……くっそ、ちんこ挿れてぇ……。けど、まだだ。まだ、コイツの準備が出来てねぇ。
「 ……どう思う?」
ちゅ、と色の薄い乳首を吸い上げてやると、ビクビクと大きく身体が跳ねた。
「 ひぃ……ん……ッ、ぁ、あ……そこ……そこ、ダメ……ジンジンして、……あ、あああ!」
ぎゅっと背にしがみついて。ゲンは何度目かの絶頂を迎える。……どうやら、ここは一際敏感らしかった。
左右の色を揃えるように交互に吸うと、ゲンは感極まったように甘い声をあげる。
「 あっ、あっ、……あああああんッ!!……ちゃ、せん、く……ちゃ、……あああ!……いい、……いいよぉ……きもち、いい……おかしくなっちゃう、よぉ…… 」
頭がどうにかなりそうなのは、こちらの方だ。もはや凶悪に膨れ上がったモノで、ズボンははち切れそうになっている。
もどかしくそれを脱ぎ捨てると、棚の中のローションとゴムに手を伸ばした。
歯で封を噛み切って、どうにか中のゴムを装着する。それから、ローションを手のひらで少し温めて。
とろとろとゲンの秘所に塗りつけた。
「 ……せん、くちゃ……?くすぐった……ぁん!」
入り口の浅い部分を指が掠めた瞬間、びくんとゲンの腰がふるえる。
どうやら、立て続けに絶頂したために、ひどく感度が高くなっているようだった。
何度か浅いところで指を抜き差しして、じわりと指先を挿入すると、内部の粘膜にささくれた指先が触れた瞬間に、きゅうっとナカが締まった。
「 ……っ、あ……は…… 」
まさか指を挿れただけで達してしまうとは思わず、空いた方の手でゲンの背を撫でながら、ぐちぐちと内部を馴らし始める。
「 ……せん、くうちゃん……せんく……ちゃ……っ、ぁ、ふ……ぁん……っ、あっ、…… 」
絡みつく粘膜を捏ねるようにして、内壁を指で刺激した。途中、引っかかるような箇所があって。そこを指先で擦り上げると、切なげな声を上げながらゲンは腰を震わせる。
内部がすっかりやわらかくなるまで、念入りに馴らして。
くちゅりと指を引き抜くと、先ほどまで千空の指を呑み込んでいたそこは、閉じ切らず、いやらしくひくついていた。
「 ……や、ぁ……、やめ、ないで……せん、くうちゃん……もっ、とぉ…… 」
熱に蕩けたような表情で、先をねだるゲンを抱き寄せて。昂りをあてがうと、優しくくちづけた。
「 ……ぁ。安心しまくれ。
もっと、いくらでもやるよ。……俺は、全部テメーのモンだ。だから、テメーも全部、俺に寄越せ」
好きだ、と耳元に囁くのと同時に、すっかりやわらかくなった箇所に挿入する。
入り口で馴らすように軽く出し入れをしてから、一息に奥まで突き入れると、ゲンの爪が背に食い込んだ。同時に、激しく締め付けられて。破裂寸前だったモノが、薄いゴムの内部で弾けた。
「 ……っ、く」
ビクンビクンと激しく痙攣を繰り返す身体を抱きしめ直して、じわじわと抜き差しを開始する。達したばかりの身体は、内部まで、溶かされてしまいそうなほど熱くて。
絡みつく粘膜や襞を掻き分けるようにして、内壁を擦り上げた。
「 ひゃぁんっ!……っ、あ、あああああッ!せん、くうちゃ……ッ!せん……っ、ちゃ、……ッ!深、ッ、おく……奥に、当たって……あああああっ、……!」
「 ダメっ、だ、め、そこ、らめ……っ、きも、ち、よすぎて、……あっ!あっ!ら、らめえぇぇ、ヘンになっちゃ……おれ、こわれ、ちゃうよぉぉ……っ!!!」
「 ヘンになっちまえよ。……テメーの不調は俺が治す。……だから、安心してブッ飛んじまえ」
未知の快楽に翻弄されるゲンを繰り返し貫きながら、この上なくやさしい声で囁いてやると、一際激しく嬌声をあげて、ゲンは果てた。ぐったりと力を失った身体を抱き寄せて、くちびるを重ねる。
「 ……せんくう、ちゃん」
「 ぁ 」
「 ……きみが、すき…………だいすき…… 」
覚えたばかりの言葉を噛み締めるように、精いっぱい伝えようとする様子が、可愛くて、いとしくて。
「 あ"ぁ。俺もだ」
そう答えると、もう一度、たからものに触れるようにくちづけた。
それは、この石と砂しかない不毛の土地でようやくたどり着いたオアシスのような。
……そうだ、旧時代の言葉で、確かこう言うのだ。
……楽園、と。