「……アンタらが【Ta】か」
窺うように声を顰めて問いかける男に、向かいの席に座ったニ人組の男が頷いた。一方は青年というよりまだ少年の歳だ。
「〜、そんな風に呼ばれてるらしいな。【Ta】。原子番号73番・タンタル。
高密度で硬く、腐食耐性の強い超絶お役立ちなレアメタル様だ。酸化の影響もほとんど受けず、他に染まらねぇ。
おありがてぇことに、人体への親和性も高い。半導体から医療用の人工骨格まで、幅広く使えるシロモノだ」
学者肌なのだろう。滔々と語る柘榴色の眸の少年は、癖の強いペールグリーンの髪をひとつに束ねた、端正な容姿をしていた。整った理知的な面貌から発する言葉は、妙な迫力と説得力がある。……たとえ何ひとつ意味がわからなくても。
「ちょ、クライアントちゃんびっくりしてるからそのくらいにしとこ、アームズ」
戸惑っていると、隣からへらりと笑って黒白の男が会話に割り込んできた。
「〜、んじゃ交渉はテメーに任せるわ、アイズ」
本題から逸れかけていたことに気付いたのか、アームズと呼ばれた少年はそう言って隣の男を振り返る。
「オッケー♬んじゃ、こっからは俺が話を聞くよ」
促されて、彼は重い口を開いた。
「アンタらに作れないものはねぇって聞いた。……頼む。娘が病気なんだ」
「……詳しく聞かせてくれる?」
蒸気機関の研究が華々しく発展を遂げた一方で、その利益を独占する権力者たちによって、社会の格差はいや増した。
権力抗争から弾き出された人々は、互助のためのギルドを作り、それは今やあらゆる分野に根を広げている。
対価と引き換えに汚れ仕事から人助けまで、何でも請け負うエージェント。
彼が今回ギルドから紹介された、この二人もそうだ。
【Ta】。
千の手を持ち凡ゆるモノを創り出す技術者Thousand Arms。
ブレインモンスターと畏怖を込めて呼ばれる、正に知識の化け物だ。
相棒は【Te】。
原子番号52番・テルル。非金属元素。
鉄鋼に添加することで快削性や耐食性を向上させ、記憶媒体や熱電変換素子としても使用される。添加することで他の物質を強化するこの元素よろしく、補佐、対人交渉に特化している。
凡ゆるモノを見通す炯眼を持つ心理学者Thousand Eyes。
アームズがブレインモンスターなら、アイズはコミュニケーションモンスターと言ったところだろう。
こなした依頼は数知れず。ギルドでもトップレベルのエージェントだ。
話を聞き終えると、カツン、と軽くステッキの先で床を叩いて、黒白の男はにやりと笑った。
「……その依頼、確かに引き受けたよ」