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    kusekke_ura

    女体化だったりパロだったり。
    色々とごちゃまぜです。

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    kusekke_ura

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    とあるモブと桃農家の話。
    ※男体妊娠を含みます※

    果物直売所の並ぶ街道に最近できた直売所がある。
    その小さな直売所は桃と梨をメインとしていて、美人系黒髪イケメンと可愛い系茶髪イケメンの青年二人が営んでいた。あまり似ていないけれども、ご兄弟だろうか…。それはともかく、愛想の良い言葉に訛のある茶髪の青年に勧められるがままにとりあえず商品である桃を購入し、食べた。美味しい。硬さも甘さも丁度いい、飽きの来ない味だった。なのでその年は桃〜梨とその店で買うことに。お店に行くと高確率で何やら口論している彼等。最初は入店するのも憚れる程に険悪なムードだったけど、日を追う事に楽しそうに言葉の応酬をする彼らは、なんだかとっても楽しそうだった。

    翌年、桃の季節にオープンしたその店を訪ねると、二人の左手薬指にはお揃いの指輪が輝いていた。兄弟じゃなかったのか!思わず「おめでとうございます!」と上擦った声で言えば、二人は照れながら礼を返し、桃を一個オマケしてくれた。昨年とは打って変わって仲睦まじく寄り添い店を営む(でもたまに口論しているけど、それは犬も食わないなんとやらなので無視した)彼等に幸せをおすそ分けしてもらっているようで、今年も果物はここの直売所を利用することに決めた。
    しかし、秋風の吹き始めた梨シーズンの後半、彼等の店は突然閉店した。下ろされたシャッターに張られた紙には”ご利用の際は此方まで”との文字と、HPのURLが。急いでスマホを取り出しページを開けば、ネット通販のみでの販売の告知が。もちろん直ぐに申し込みをした。何があったんだろう。あんなに幸せそうに笑っていたのに。とにかく心配だったけれど、届いた梨は相変わらずみずみずしくて美味しくて、少しだけ安心した。

    翌年、桃のシーズンにお店がオープンすることをHPで知りその日に合わせて訪ねた。扉の前に立っただけで中から聞こえてくる二人の賑やかなおしゃべりの声にほっと胸を撫でおろし店内に入れば、なんと、茶髪の彼のお腹が膨らんでいたのだ。幸せそうな表情で膨らんだお腹を両手で擦る彼に思わず「おめでとうございます」と叫んでしまった。「ありがとうにゃあ」ふわりと笑ったその顔は昨年までの犬っぽい無邪気さを残すものではなく、しっとりと落ち着いたものになっていて、思わずドキドキしてしまった。そして買い物ついでに話を聞けば、去年の閉店理由は彼のつわりが酷く店に立てず収穫量もばらつきが出てしまったために通販のみに踏み切ったのだという事を教えてくれた。二人は照れ笑いをしながら、今年も桃を一個オマケしてくれた。彼のお腹がどんどん大きくなるのを見に、果物が切れれば彼等のお店に足を運んだ。梨シーズンの中盤、かなり大きくなったお腹を撫でながらそろそろ里帰り出産をするという彼に、近所の安産の神様の祀られている神社で買ったお守りを贈り、彼のお腹のように丸々とした梨を買って店を後にした。

    そして翌年の桃のシーズン。店のオープンをネットで知ると、一目散に駆けつけた。
    並んで出迎えてくれた、相変わらずイケメンの二人。茶髪の彼のお腹はスッキリしていて、代わりに黒髪の彼の背中には、ちっちゃな赤ちゃんがおんぶされていた。
    「おめでとうございます‼︎」思わず叫んだ声に、寝ていた赤ちゃんがビクリと体を跳ねさせ泣きながら起きてしまった。黒髪のパパは慌てて赤ちゃんのお尻をポンポンと叩きながら、あやすために体を揺らし外に飛び出していった。すみませんと何回も頭を下げて謝れば、茶髪のパパ(ママ)は、いつもの事だから気にするなと笑って今年も桃を一個オマケしてくれた。
    梨のシーズンが終盤にかかる頃には、赤ちゃんは歩行器に乗り店内を駆け抜ける程に成長していた。
    ふわふわの黒髪に、オレンジとブルーの混ざった不思議な瞳。
    きゃっきゃと大声で笑う、両親にそっくりな、元気な赤ちゃん。
    「元気いっぱいですね」
    「声がふといんは、父親譲りじゃの」
    「笑い顔はお前だな」
    赤ちゃんがいると、自然と会話も弾んだ。
    来年の桃のシーズンには、この子はきっとこのむちむちの脚で自分で立って歩いているんだろうなぁと一年後に楽しみをもらい、この年の直売所とはお別れをした。

    異変が起こったのは、それからすぐの事だった。

    大きな鬼の目撃情報が、世間を駆け抜けた。
    最初は酔っ払いの見間違いだとあしらわれていたそれは日に日に目撃者数を増やした。
    実害がない為警察が動けないでいる中、事件が起こった。
    民家の塀や庭にあった車が壊されていたのだ。
    重機の入れない狭い路地の住宅地。なのに、人の力でやったとは思えない程の惨状だったという。
    鬼の影に破壊行動。事件は毎晩のように起こり、人々の不安が募り始めたある日、刀や槍を持った数人の人影が深夜の町を駆け抜けた目撃情報と共に、鬼の目撃情報も破壊行動もパタリと止んだのだった。

    平和が戻った。

    でも何故か心に一つだけ引っかかる事があった。あの直売所の家族だ。

    目撃された刀を持った集団の中に、あの夫婦に似た人影があったという噂を聞いたのだ。
    嫌な胸騒ぎがした。
    とにかく急いで仕事を終わらせ、一目散に直売所へと車を走らせた。
    シーズンが終わり閉められた店のシャッターには
    【閉店 永きのご愛顧、ありがとうございます】
    との張り紙があった。
    急いでスマホを取り出し直売所のHPを見たが、そこにも同じ文章が貼られているだけ。通販ページや農園紹介の写真も全て消えていた。
    もう彼等には会えないのかと、彼等が丹精込めて育てた桃や梨をもう食べられないのかと、年甲斐もなくわんわん泣きながら家に帰った。

    それから数年たったある日、帰宅し家のポストを覗けばそこには一通の手紙が入っていた。
    宛先も差出人も書いていない、ピンク色の封筒。
    不思議と怪しむ気にはなれなかった。とりあえず家に入り、封を開け、その中身を取り出す。
    それは日本庭園を臨む縁側で幼稚園児くらいの子どもが笑顔で桃を頬張る姿をとらえた写真で【わしら、元気でやっちゅうよ】というメッセージが添えてあった。
    艶やかな黒髪は先端がぴょこりと跳ね、くりくりとした大きな瞳はオレンジとブルーが混ざった不思議な色をした子ども。
    「あの子だ!」
    両親にとてもよく似た愛くるしい笑顔の、直売所の赤ちゃんだった子だった。
    満面の笑みの子どもの瞳には、小さくだが、カメラを構えた茶髪の彼と、その子の口元を拭くべく布巾を持った黒髪の彼の姿が写っていた。
    よかった、みんな元気だった。
    抱きしめた封筒からふわりと香った優しい桃の香りに、あの家族の笑顔を思い出し、ほんの少しだけ泣いた。

    おしまい。
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