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    時雨子

    フェリディミ

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    時雨子

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    今日ダメダメだったんで8月ぐらいに没った文章を再編集しました。



    近い。いや、前からこうであったか?
    肩を抱く、腕を絡ませてまとわりつく、頭や肩を顎置きにされる。
    そんなことは別段、自分たちの間柄で特別なことではない。
    餌付けでもするかのように肉を刺したフォークを向けてくる。まあ、このくらいは良いだろう。たった二節しか変わらんくせに妙な弟扱いをしたがる延長線だ。
    胸に抱きこんで頭を撫でてくる。開いてしまった体格差でまるでぬいぐるみ代わりにでもされたようだ。いい加減諦めた。
    二人で床の上に座り込み夜更けまで話し込んでいたら、途中で寝入った俺を寝台まで勝手に運んでいた。そして目が覚めたら抱き枕にされていた。寝汚く狸寝入りを続ける男を無理矢理起こせば、とろりとした瞳でまだこうしていたい、と甘えた声でねだられた。これはどうなのだろうか。
    寝ぼけたまま頬に接吻をされ、もうその後は遠慮も何もなくなって時おり戯れの様に頬や額に接吻される。……これは、どうなのだろうか。

    ……返してやった方がいいのだろうか。柄にも無いことを、と思うが冷たく距離を置いてきた時期への後めたさがある。
    だから、だ。他に何かやましい心があったわけでは無い。
    そう思い立ったのが、自分の部屋の寝台を当然の様に占拠してゴロゴロと猪が寝転がっていた時だったのも、たまたまだ。
    身長差のあるこいつにさりげなく接吻を返してやるのであれば丁度良かったのもある。
    特に何も考えずに覆い被さって髪を掻き分け、潰れて痛ましい傷痕の残る右目に唇を落とした。
    しかし、唇を離すとディミトリが驚いたようにその片方だけ残った目を丸くさせていた。
    「え……あ、………え?」
    なんだ、その反応は。
    「……お前、人にはやっといて自分にされるのは嫌だったのか?」
    それなら悪いことをしたな、と思いのほか不貞腐れた様な声が出てしまった。これはさっさと忘れてこの場を流すに限る。
    だから身を起こして背を向けて離れようとするのに、がしりと腕が腰にまとわりついた。
    「い、嫌ではない!え、と……だから……その……お前が気を悪くしていたなら……いや、そうじゃなくて……」
    仕方なく振り向くと、ディミトリは自身で己の行動にも言葉にも戸惑い、狼狽していた。何だかよく分からない呻き声が漏れている。
    明らかに挙動不振な反応に、急に気付いた。……これでは、まるで。いや、まさか。
    「……お前、俺のことが好きなのか?」
    半信半疑で問いかける。自意識過剰なのではとは思うがそれならそれでいい。
    その問いかけにあたふたしていたディミトリが動きを止めてキョトンと見つめてくる。
    「……?もちろん好きだが」
    対するディミトリは何を問いかけられたのかよく分かっていないようだ。これはもしかして、重症なのだろうか。
    「いや、ディミトリ。理解しているか?」
    「何をだ?」
    言葉より行動で説明した方が手っ取り早いだろう。まとわりつくディミトリの腕を外して手の甲へ接吻を一つ。そのまま指を絡めて寝台へ再び寝転がらせ、真正面から顔を寄せる。鼻先を触れさせ合うと、さすがに何をやろうとしているのか分かったようだ。戸惑うように目を泳がせた後にギュッと目を瞑り、唇を引き結んだ。
    その様子を見て、ハァ、と溜め息をつく。嘘だろう、とも思う。
    物心付いた時から、ずっと好きだ。愛だとか恋だとか知らない頃から。接吻でそれが伝えられるのであれば、相手は男だとかそんなことは些末な問題とすら思える。忠誠を捧げて証明し続けることも、親友として隣に立つことも、ディミトリのためでディミトリが望むならそれら全ては同価値だ。
    だが、それは自分の想いであってディミトリにそんな素振りは無かったはずだ。何がきっかけなのかさっぱり心当たりが無いが、目の前の反応は覆しようが無い。一瞬迷ったが、結局ただの友愛のしるしのよう額に唇を掠めさせた。
    「少しは抵抗しろ」
    髪をガシガシと掻きながら横目で睨みつけると、ディミトリが自身の不可解な行動にやっと気付いたようだ。
    「あ、そ、そうだな」
    それきり無言になって硬直している。動かない表情の下ではあれこれと益体も無いことを考えいるのだろう。再度長いため息をついてから正面へ向き直る。
    「……ディミトリ」
    一言だけ、責めるように名前を呼ぶ。なんとも間の抜けた答えが返ってきた。
    「……お前のこと、好きかもしれない」
    「お前、ちゃんと考えているのか」
    「考えて……いや、すまない。そもそもこんな感情をお前に向けてること自体、迷惑だったな」
    時々こいつは何故こうも物分かりが悪いのだろうと思う。一応、愛の告白という状況になっているのに、色気の欠片も無い。
    「お前はいつもそうだ。俺がいつそんなことを言った」
    「いや、お前、いくらお前が優しいからと言ってそこまでは……」
    「ディミトリ」
    またくだらんことを言い始めようとする男の唇に指をあてた。それだけで恥じらうように頬が色づいた。
    「……俺には、長年苦慮していることがある。お前への想いをどう伝えたら分かってもらえるのか、どう名前を付けて差し出してやればいいのか」
    指の下の唇が動く。
    「いや、おま、んむ」
    なおもくだらん言葉を吐こうとする様子に下唇を押し上げて塞いでやれば、どうにも間抜けな顔になって、おかしくなってきてしまう。だから、思わず笑みを零しながらディミトリに問いかけてみることにした。
    「お前はどう思う?俺はもう、考えるのに飽いてきた」
    ディミトリをじっと見つめると、面白いほどにその顔が朱に染まっていく。もはやそれだけで答えのような気もするが、幾年も持て余してきたものなのだから、今このひと時を待つことなど大した苦労ではない。むしろ自分の言葉で表情を乱すのは見ていて気分がいい。
    内心は面白いと思っているのを顔に出さないように黙って待っていてやれば、耳たぶまで熱を持って首筋にまで広がる頃、ようやく答えが返された。
    「フェリクス、俺は――」
    緊張で強張った手のひらの感触を後頭部に感じながら、口移しで、体温と共に。

    2021/01/14
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