テロ事件から数年、犯罪者たちは淘汰されブルームシティは世界一平和な街と称されるようになった。
平和の象徴、ヒューイ・ブラウンは99戦全勝と言う伝説を残してヒーローを勇退。
ブルームシティにはもう二度と悪は蔓延らないと声高らかに主張するヒーロー協会会長。しかし彼は焦っていた。
ヒューイの引退後しばらくして、例のテロ事件の首謀者の男が脱獄し行方を絡ましていたからだ。
再びテロが起きれば市民が不安に陥ってしまう……と言うのは建前で、今まで自分が築いてきた地位を失わないためにはこな仮初の平和を守り続けなければならない。
それなのに、今のヒーロー協会に所属しているヒーロー達は骨のない奴らばかり。
今はまだ影を潜めている犯罪者たちが本格的に動き始めたら、自分の身に危険がおよぶ。それだけは何がなんでも避けなければならないと考えた会長は再びヒューイを自分の支配下に置くために、現在離れて暮らしている自分の一人息子のイタルを呼び戻す。
容姿端麗、頭脳明晰であるイタルをヒューイはきっと気にいるにちがいない。
その目論み通り、ヒューイはイタルに惹かれていく。このまま二人がうまくいけば再びヒューイは自分の駒になる。
と言う会長の考えはイタルには全てお見通しだった。
大切なのは金と名誉。本当は街の平和のことなど何も考えていない父親のことも、偽善だらけのこの街のこともイタルは良く思っていなかった。
綺麗事ばかりで取り繕われた生活に息が詰まったイタルは、ある日スラム街へと足を伸ばす。
世界一平和な街と言うのは、街の権力者たちが作り上げたユートピアで実際のところブルームシティの中には今でも殺人、ドラッグといった犯罪が横行しているスラム街が存在していた。
一歩足を踏み入れたら下水の臭いが漂い、そこら中をどぶネズミが駆け回っているが、ヒーロー協会の会長の息子と言う仮面を外せるこの空間がイタルにとっても救いだった。
奥へ進み、人が一人通れる穴が開いた金網を抜けると一軒の店がある。
バーと言えば聞こえは良いが、扱うのは酒だけじゃない。
カウンターの中には爆弾やナイフ、それに瓶に詰められた大量の白い錠剤など何とも豊富な品揃えになっている。
血のついたボロボロの札を握り締めた男が、酒と一緒に錠剤を注文する。その様を横目で眺めていたら、視線に気付いた男がイタルに近寄り声をかけてくる。
適当にあしらうイタルの態度に腹を立てた男が声を荒げ、懐から取り出したナイフを振り上げた。
しかし、予想していた痛みは起きない。開いた視界が捉えたのは先ほどの男が汚れた床に泡を吹いて倒れている姿。
そして見知らぬ一人の男。肩まで伸びた髪の隙間から覗いたブルーの瞳と目が合った。
この男が自分を助けてくれたことを察し、感謝を伝えるが反応はない。マスクをしているため表情も読み取れない。
お礼に一杯奢ると提案したが、この場所で他人に親切にする人間はいないからか逆に警戒を強められてしまい、男はイタルから離れた席に座ってしまう。
しばらくして、男のグラスが空いたタイミングを見計らいイタルは男の横の席へ移動した。眼光鋭く睨みつけたが、借りを作るのはどうにも癪だったのでその視線に気づかないふりをして男の酒代を支払った。
隣に座ってもお互い言葉を交わすことなく時間が経ったが、沈黙を破ったのは男の方だった。
「あんた、どこかで会ったことあるか?」
「……もしかして俺を口説くき?」
突然の質問に内心驚いたものの、冗談っぽくそう返してやると男は、ちげぇよと大きく舌打ちをした。
イタルはこの男に会ったことはない。それは確かだった。
ただ男がイタルのことをそう思ったのは、ニュースや新聞で自分の顔を見たからだろう。
会長の息子と言うこともあって、こちらに戻ってきてから何度かテレビに露出しているため街のほとんどの人間がイタルの顔を知っている。
もちろん会長の息子がこんなスラム街にいるなんて知られるわけにはいかないので、髪は乱しフレームの曲がったメガネをかけて、わざと汚した服で身なりを誤魔化していたのだが完全にこちら側の人間になりきることは出来るわけがない。
次に来る時はもう少し対策した方がいいかと、ぼんやり考えているイタルの横で、男がまた大きく舌を鳴らした。
今度は一体何が癪に障ったのかと、目を配ると男の視線の先には14インチほどのテレビがあった。
どこから電波を拾っているのか、ところどころ砂嵐を交えながら流れる映像にはイタルの父親が映っていた。
これは先日の祝勝会の際のインタビュー。乱れた音声でもわかる偽善の平和を謳うコメントの数々に反吐が出そうになる。
それは隣の男も同じなようで、まっすぐ映像を見つめる瞳には憎悪の色が滲んでいた。
この街には父親を憎む人間が数えきれないほどいるだろうが、その心の内を息子である自分に話す者はいない。
「この男が憎いの?」
だからこそ、会長の息子と言う仮面を取った今、目の前にいるこの男が父親に対してどんな感情を、憎しみを抱いているのか興味があった。
問いかけに対して反応のない男を気に留めず、イタルは普段自分が父親に対して抱いている心の内を曝け出した。もちろん、赤の他人として。
すると次第に男も口を開いてくれた。
男はヒーロー協会が牛耳るこの街の仮初の平和を憎み、それを怖そうと数年前にテロ事件を起こした張本人だった。
脱獄し自由になった今、今度こそ真の平和を手に入れるため新たに水面下で計画を進めていると言う。
「知ってるか?この男には一人息子がいるって」
「……もちろん。ニュースでも騒がれていたからね。でもその息子が君の計画と何か関係が?」
「どうやら、あの伝説のヒーロー様がそいつに惚れてるんだとよ。これを利用しない手はねぇだろ。前回は弟で失敗しちまったけど、今度はあの時の邪魔者もいねぇ」
「つまり会長の息子を殺すってことか」
「あぁ。あのヒューイ・ブラウンがいる限りこの街は壊れねぇ。だからまずはあいつを壊すんだ。愛する人間を奪ってやってな」
ってところから始まるダス至が見たいです!!
ちなみにこの後この二人はなんやかんやあってワンナイトするよ!!でも朝目覚めたらイタルはもういなくて、ダストくんが一人取り残されるよ!!