みかん 店内ではなぜか「ももたろう」の曲がかかっている。俺はその軽快でチープな音楽を聴きながら、野菜売り場で困惑していた。
どうしてもみかんが食べたいのに、高いのだ。想像の倍くらいするやつしか売ってない。あのみずみずしい、爽やかに甘い果実の味を想像して涎があふれ出る。我慢できなくて、仕方なく一番安い詰め合わせを買った。隣に並ぶいちごの粒が、いつもより大きい気がした。
なぜみかんが食べたくなったかと言うとテレビでやっていたからで、なぜテレビを見ていたのかというと、アイツが帰ってこなかったからだ。騒がしいはずの夜がなんだかさみしいというのは随分癪だった。
出演したドラマの打ち上げと言っていた気がする。横柄な態度を取っていないか、迷惑をかけていないか、そんな心配をしていると、自分は彼のなんなのだという気分になってくる。俺が気にすることではないのだ。アイツだってきっとわきまえる時はわきまえる。
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