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    amak 安赤 あむあか

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    きっとれーしゅー期

    「零くん、これは」
    「ああ、今夜辺り雪になるらしいから出したんですよ、炬燵」
    「コタツ…!」

    都内某所のマンションの一室。
    いつもはシンプルな家具が置かれているだけの男の部屋に、この日は可愛らしいオレンジ色が広がっていた。
    ふかふかと柔らかそうな布団。その上にある木板には、カセットガスとガスコンロが置かれている。
    赤井秀一の身体には日本人の血が流れてはいるが、彼自身が日本に居た期間は非常に短い。人生の大半は海外暮らしの彼にとって、日本が誇る暖房器具は、それはもう、輝きに輝いて見えた。
    今夜の夕飯は鍋にしようと昼食時に言っていた通り、土鍋で出汁を取りながら白菜をザクザクと刻む降谷に、赤井秀一はキラキラとした瞳で駆け寄った。

    「零くん、コタツだ」
    「知ってますよ。僕が出したんですから。ほら、室内ではジャケットを脱いで下さい」
    「今朝はなかった。帰ってから出したのか?」
    「今日は僕の方が終わるの早かったでしょう?帰ってきてすぐ出したんです。電源は入ってるから、今日はあそこでご飯ですよ。先お風呂入っちゃって下さい」

    片手間にジャケットを脱ぎながらも、ソワソワと隣から離れない赤井に苦笑しながら、降谷は椀と箸を食器棚から取り出し準備を進める。

    「コタツで?食べていいのか?」
    「その為に出したんですから。ほらもう、早くお風呂!」
    「風呂も入るしうがいもする。だから零くん、お願いがあるんだ」
    「なんです?」
    「持ち主を差し置いてこんなことを言うのは非常に失礼なんだろうが…」

    腕にジャケットをかけた状態で真剣な目を向けてくる赤井に何事かと手を止め問えば、返ってくる答え。おずおずと、少しの不安と期待を湛えた瞳で見つめながら、赤井は口を開いた。

    「今年の初コタツの権利、俺に譲ってもらえないだろうか…?」
    「テ゛ス゛…ッ!!!」
    「本当か…!愛してるよ零!」

    言うや否やピャッとキッチンを後にした赤井に、降谷は唇を噛み締めて衝動に耐えていた。

    「愛してるって…!大袈裟か…!かわいいか…!馬鹿か…ッ!!」

    しばらく震えていた彼は、先ほどの赤井の様子を思い出すなりハッとして、浴室に行き「ちゃんと洗って温まらないと俺が先に入るからな!髪もきちんと乾かすこと!」と声をかけ、再び鍋へと意識を向けた。

    そうして待つこと三十分。鍋もすっかり出来上がり、食器類も全て卓上へと運び終えた頃。
    小さく聞こえていたドライヤーの音が止み、リビングへと続く扉が開き赤井が顔を出した。

    「零くん」
    「髪は乾かしました?」
    「ああ。しっかり乾かしたし電気も消してきた。うがいもした」
    「よし。丁度良かったですね。鍋も出来上がりましたし、食べましょうか」

    土鍋を持って炬燵へと向かう降谷の後ろを、カルガモよろしくついて来る赤井にグッと衝動を耐え、ガスコンロの上へと鍋を置いた降谷は赤井を振り返り口を開いた。彼の目は相変わらずキラキラとしている。

    「さ、いいですよ。どうぞ」
    「!ああ…っ」

    ゴクリと喉を鳴らして布団を持ち上げ、その長い脚をゆっくりと炬燵の中へと収めていった。
    膝の上へ持ち上げていた布団を乗せ、一拍。

    「零くん…」
    「ん?」
    「Amazing…君の国は素晴らしいな…」
    「ははっ!そうでしょう。魔力すら有すると言われていますからね、炬燵は」

    背中を丸めて手まで突っ込んでいる赤井に笑いながら、降谷はその隣に入り込む。

    「零くん?」
    「貴方、脚長いから当たるでしょう?隣に座る方が無難です」

    肩が触れ合うその位置を大義名分のもと手に入れた降谷もまたご機嫌に脚を潜らせ、食器を互いの前へと置いた。
    両掌を合わせ、二人で声を揃えて唱える。

    「いただきます」
    「いただきます」

    降谷の手によって開けられた鍋から、湯気がぶわりと上がり出汁の香りを漂わせた。
    こうして二人で食卓を囲むようになってから、初めて食べる鍋だった。
    柔らかく煮込まれた白菜、くつくつと揺れる豆腐、甘いネギ、出汁を吸ったエノキ、火の通った豚肉。
    いつもは野菜嫌いを全面に押し出す赤井秀一が、炬燵マジックにかかったのか文句も言わずもぐもぐと食べ進めている。
    黙って白菜を咀嚼する彼に感動しながらも、降谷は第二弾の肉を入れるべく膝で立って鍋を覗いた。

    「赤井、つみれ入れるから一回蓋閉めますけど、その前に何か食べたいのあります?おネギ、お豆腐、お肉、白菜、きのこ」
    「お豆腐」
    「ッ」
    「どうした?」
    「いえ!なんでも!!お豆腐ですね!!」

    プルプルと身体を震わせながら穴あきおたまで豆腐をよそった降谷。
    椀に入れられた豆腐に夢中の赤井は、自分が降谷の言葉を復唱して『おとうふ』と言ったことに気づいていない。
    スエット姿でさえスマートな男の口から紡がれる『おとうふ』の破壊力に、ボチャボチャとつみれを投入しながら降谷は心の中で表彰状を送った。
    その後何度か同じやりとりを繰り返し、赤井の口から『お肉』『おネギ』を聞き出して満足した彼は、具材の旨味が染みた優しい味の雑炊を〆に作り、赤井を大変に満足させた。





    炬燵導入日から幾ばくか経ち、得意げな顔の降谷が教えるおこたみかんやおこたアイスという冬の幸せを堪能していた赤井は、今日も今日とて炬燵で暖をとりながら、むいむいとみかんを剥いている。
    机の上には降谷作チラシ製のゴミ箱があり、その中に細かくなった皮が底が見えぬほど入っていた。
    剥いては千切れ、千切っては捨てを繰り返す赤井の隣で、降谷はバラエティ番組を見ている。
    皮だけでは飽き足らず白い筋まで綺麗に取った赤井は、それを一つずつ食べ始め、最後の一つを食べ終えたあと、眼前の籠を見てしばし固まった。
    頻繁に取りに行くのも面倒だからと、降谷が籠に積んでくれていたみかんが、姿を消していた。
    卓上のカラフルなゴミ箱を見れば、中には大量の残骸。どうやらみかんを完食したのは自分らしいと判断した彼は、降谷にバレぬよう眉を潜めた。
    最後の一個を食べた方が、次の分を補充すること。
    それは二人の間で決めたルールだった。
    だがしかし、こたつを利用した人間ならば誰もが理解できることだろう。此処から出たくない。彼もまた同じ心境であった。
    みかんは食べたい。コタツからは出たくない。取りに行かなくてはみかんは食べれない。取りに行くにはコタツから出なければいけない。でも、出たくない。ぐるぐると葛藤していた赤井の耳に、終わった、という声が届いた。
    どうやら降谷の見ていた番組が終了したらしい。
    此処で赤井はピンときた。幸い己が座る位置よりも、降谷が座る位置の方がみかん箱に近い。
    赤井はスッと目を細め、降谷に微笑みかけた。

    「零くん」
    「嫌です」

    取りつく島もなかった。

    「…まだ何も言っていない」
    「みかん取ってこいって言うんでしょう?嫌ですよ。最後の一個食べた人っていう約束です」
    「出たくないんだ…」
    「僕だって出たくないですよ。寒いんですから」
    「零くん」
    「駄目です。何と言おうと僕は取りにいきませんからね」

    話すことはないと言わんばかりにツンと顔を逸らした降谷を諦め悪く見つめる赤井。両者が一歩も引かず、室内に流れるテレビCMが2本分移り変わったのを聞き終えた頃、一人が不意に口を開いた。

    「でも…」

    声の正体は降谷で、何やら楽しそうに目元を歪め、赤井を振り返った。

    「貴方が上手にオネダリ出来たら、考えてあげなくもないですよ」
    「君はまたそういう…」
    「何ですか。良いでしょう?貴方は炬燵から出る必要がなくなる。僕は恋人の可愛いオネダリが聞ける。ウィンウィンの関係です。貴方には50:50と言った方が良いですか?」

    にこにこと微笑みながら身体を寄せてきた降谷に、赤井は小さくため息をつく。

    「オネダリといっても、どうすればいいのか」
    「まずは敬語で言ってみるなんてどうですか?」
    「まずは…って」
    「チャンスは何度でも与えますよ?」

    るんと音がしそうなほど楽しげな降谷は、頬杖をつきながらにこにこを通り越しにまにまと赤井を見つめてくる。
    敬語…と少し考えながら机に頭を預けた赤井は、すっと降谷を見上げ、口を開いた。

    「零くん、おみかん取ってくれ」
    「ハ?」
    「だから、おみかん」

    敬語だろう?と首を傾げる赤井を瞬きもせず、大きな目をこぼれそうなほどに開いて凝視する降谷。
    彼の中にはかつてないほどの激情が渦巻いていた。
    あの、赤井秀一が、おみかん。
    おみかん!!!!!

    「貴方…」
    「ん?」
    「そうやって言えば俺が言うことを聞くと思っているんだろう甘い男だな赤井秀一いいいいいい!!!!!!」
    「君には負けるよsweetie」

    籠を持ってみかんの箱へと走る降谷の後ろ姿に、クスクスと笑い声を上げて手を振る赤井。
    もちろん、当然、言うまでもなくわざとである。
    何が刺さっているのかは理解していないが、刺さることは理解してやっている。
    この後、ちゃっかり自分の分のアイスを持ってくる降谷とアイスが食べたくなった赤井の攻防戦が勃発するが、それはまた別の話。
    夜は立場が逆転し、どうにも降谷に敵わない赤井になってしまうのも、また別の話。
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