騒乱 その日紅井は黒野から晩飯の誘いを受けた。
先の義賊団の事件ののち、黒野は紅井に対する態度を少し変えた。時折紅井を外食に誘い、定例会議の後にはふたりで朝食を摂るようになった。当初は猫柳と繋がっていたことが露見したかと怯え、あるいは自分の不満が丸見えだったかと恥じたが、どちらでもないようだった。
次第に紅井は黒野の教育が第二段階に入ったことを察した。というのも黒野が選ぶ店はいつも雑然としていて、この帝都では珍しく様々な階級の人間が出入りしている。そこで黒野が拾おうとしている情報がなんなのか、紅井は彼の目端のひとつひとつに気を配るようになった。黒野は時折その視線に気づいて笑った。少なくとも紅井にはそう見えた。だからこの日々与えられる機会は、奢りだということを差し引いても、紅井にとって本当に嬉しい時間だった。
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