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    こもやま

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    こもやま

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    そこのないよる 8章頭くらいのべそ

    ##小説

    天幕の外が騒がしい。
    調査に出ていた連中が帰ってきたのだろう、足を投げ出して休んでいたベリトは起き上がった。

    「だけど!」
    「今日何回吐いたと思ってるのよ。いいから休みなさい」

    吐いた?

    子供を叱るようなウェパルの声がしてまもなく、外の生ぬるい空気と一緒にソロモンが入ってきた。
    よたよたと、数刻前に別れた時とは別人のような危なっかしい足取りだ。


    「おい」
    「大丈夫だから」


    通り過ぎる腕を取っても反応は無い。
    仕方なく回り込んで顔を覗き込むと、触れるのがためらわれるほど目もとが腫れていた。
    どんな悪夢見たらこうなるんだよ、と言いかけたその時、

    「う」

    小さいうめき声をあげてまたソロモンがよろめいた。

    「おい!」

    とっさに引き上げようとするが間に合わず、膝をつくかと思ったが。

    地面が抜けて、真っ暗闇に頭から吸い込まれる。
    二人で落ちたのはベリトが無意識に開いた、底のない夜だった。





    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







    静かな暗い場所で、あぐらをかいてビリビリと本を破っている。
    半分以上は何も書かれていない、まだ新しい物語の本。

    指輪をした村育ちの少年がフォトン探しを始める場面から始まり、
    メギドと出会って、メギドラルやハルマニアを渡り、赤い月を落として、

    「蛆の声がする」

    の一文で終わっている。

    「気に入らねえな、途中の邪本探しはおもしれえけどよ」

    悪態をつきながらページをどんどん破るベリトの傍で、少年は座って待っている。
    手に握って丸めた紙片をそのへんにばらまいてやると、すっと立ち上がって拾いに行く。
    しばらくかけて紙片を集めて、本に戻して、ベリトのところへ持ってくるのだ。

    夢を見ているんだ。俺もテメェも俺の中で。

    少年の物語をビリビリに引き裂いて、細切れにして、何度もとに戻そうがまた破ってやる。
    何度目かなんて忘れた。そうでもしなきゃ、あのままあそこにいたら壊れてしまう。
    倒れる少年に伸ばした手は救済ではなく、自分の世界へ落とすための切っ先だったのだ。

    「テメェも飽きねえな」

    ぺたぺたと歩き回る足音に話しかける。
    紙片を拾うたびに、書かれている物語を追体験しているのだろう。笑ったり怒ったり、悲しんだりする声が聞こえる。
    笑って怒って悲しんで、一冊にまとめてはまたバラバラにされて、一からやり直し。
    この切り取った世界の中で、ただただ同じ場面を繰り返している夢。
    ベリトにとって、意外にも退屈ではなかった。





    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





    そしてまた、紙片を集めて本を完成させた少年がベリトの前に立つ。

    「よし、ご苦労」

    本を受け取ってまた破ろうとすると、

    「待った」

    少年が初めて口を開いた。
    ベリトは驚きはしない。むしろニヤリと笑って返事をする。

    「ったく何百回目だ。ようやく気がついたかよ」
    「手を出せベリト!」
    「フン」

    少年はぱっと屈み、じゃれ合うようにしてベリトの手から小さな紙片を奪い取った。
    物語の切れ端。少年に、「ソロモン」という名がついた場面だった。

    「こ、この悪魔!!」
    「悪魔だっつってんだろ」
    「どこなんだよここ!出られるのか?」

    本調子になるや慌てだすソロモンの肩を掴み、いよいよベリトは上機嫌になる。

    「俺様がその気になればな」
    「その気って…」
    「出たいか」
    「当たり前だろ!出なきゃ…」
    「出たところでテメェはぶっ倒れる瞬間からだぞ」
    「う…」

    どうやらソロモンにもあの時の覚えはあるらしい。
    メギドラルに来てからのストレスの連続を思い出すとまた目眩がした。

    「だけど、ここにいても前には進めない。進むよ。決めたんだ」

    りん、と指輪の光る音がする。
    現実が近づいていた。目は腫れ、声も少し枯れている。
    顔をしかめるベリトにソロモンはそれでも笑って見せた。

    「心配かけてごめん。もう大丈夫」
    「心配したと思ってんのか」
    「え?じゃあなんで」
    「いいから、戻ったら足ふんばれよ」

    いつもより少しだけ、優しく頭を小突いてベリトも笑う。

    ここでの時間も嫌いじゃないが、望んだ永遠の形ではない。
    なにより、目の前の王が進むと言うのだ。

    「倒れそうになっても、また」

    大きな手でソロモンの目をふさぎ、額をあてがう。



    「優しい俺様が手を貸してやるよ」
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