「ん」
ベリトが髪をかき上げて促すと、ソロモンは両手をベリトの首元へ伸ばし、金の留め具を外す。これはソロモンの仕事だった。最初こそまごついていたが、幾度となくやらせているうちに手間取ることもなくなった。
そして今度はベリトが手をのばすと決まって、
「自分で取るよ」
と言う。ソロモンは首のアクセサリだけはいつも自分で外す。以前に一度、制止されても外してやったときには、チェストの上に置いてもしばらく名残惜しそうに見ていた。それからは触れたことがない。
(なんだっていい、構わねえけど)
誰にだって大事なものの一つや二つはある。なんの変哲もないアクセサリは、ベリトの知らない誰かに選んでもらったものかも知れない。個人的な思い出の品なら他人に触れられたくないだろうし、肌から離すときも自分の手が良いだろう。わかってはいたが、ベリトはそれでも気に入らなかった。
(黙って服も剥かせるくせに。指輪に触れたって何も言わないくせに。どうしてそれにだけ触らせねえんだ)
じっと見つめているベリトは、ソロモンの目には催促していると映ったのだろう。照れるように笑って、やりにくそうに手元を動かしている。
別に、ソロモンを自分好みに着飾らせたいとかではないし、何を着ていようが着ていまいがベリトには関係がない。ソロモンの体で触れていないところなどもう無いし、逆もそうだった。
「取れた」
鎖が外され、チェストの上に置かれる。ベリトの視線はこちらに向き直るソロモンではなく、鎖にあった。
「ベリト?」
むすっとした表情のまま、ベリトはソロモンを掴まえるとぐっと顔を寄せた。うわ、と声をあげる間もなく、長い指が鎖骨をなぞり息が止まってしまう。
(ここに、誰がいるんだよ)
誰かがいたっていい。何を抱えていたって構わない。それもソロモンの一部なのだろう。なのにこの手が届かないことが悔しかった。銀の輪がいつも揺れている胸に噛みつきながら、ベリトは目を閉じた。