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    suika_disuki

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    suika_disuki

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    頑張って8月のホエンにする話

    ホラゲー風 目が覚めた時、視界が二重にぶれていた。風景が揺れ、天井と壁が重なり合って見える。
    (うっ……くそ、頭が……ここは?)
     目を凝らしても焦点が合わず、照明は落ちている。月明かりのような光が差し込み、浮かび上がるのは空中を舞う埃と沈黙に沈む空気。床も壁も、時間から切り離されたようにひどく静かだった。それでも構造は崩れておらず、古びた内装や廊下は病院としての形を保っている。だからこそ、異常が際立っていた。
     待合室にあるはずの椅子が、廊下の端に寄せられ、階段を塞ぐように積まれていた。背もたれを噛み合わせて丁寧に組まれたものもあれば、無造作に積み上げられたようなものもある。複数の人間が各々の意図で築いた即席のバリケード。防衛か、隔離か、それとも逃走の足止めか。一体ここで何が起きたのか。
    (……俺は、どうやって中に入った?)
     視界の揺れが徐々に収まり、周囲をまともに見渡せるようになった。廊下の先、壁の陰に小さな影が見える。歩み寄ると、それは自分が持ち込んだ懐中電灯だった。急いで拾い上げ、スイッチを押すと光が広がる。明るさに安堵しつつポケットを探るとスマホもあった。画面は無事だが、電波は圏外。時刻は二十時を回っていた。到着したのは夕暮れ前だったから、しばらく気を失っていたらしい。
    (とにかく……まずは戻る。事務所に……)
     思考を引き戻す。俺は探偵だ。人探し専門。複数の失踪者の依頼を受け、調査の結果ここへ来た。性別も年齢も時期もばらばらの彼らが、全員この病院を最終地点としていた。肝試し、人探し、冒険目的。色々な思惑を持って入って行く。だがそのまま誰一人として帰ってこなかった。
     事務所に訪れた依頼人の反応はさまざまだった。涙を流す家族もいれば、出資者として金の回収ができず怒りをぶつける者もいる。だが俺にとって大事なのは、報酬と結果。依頼が成立し、探し出せるかどうか。それだけだ。依頼人の背景には興味がない。俺の役目は、行方不明者を見つけ、可能なら帰す。間に合わなければ、痕跡を遺族に届けるだけ。
     こう見えても、俺の発見率は業界でも高い方だ。国外逃亡だろうと死体だろうと、見つけてきた実績がある。
     今回も簡単だと思った。だが結果は違った。対象者の戸籍、交友関係、ネットの繋がりまで全て洗い出しても、誰とも接触していない。現地調査など滅多にしない俺が、わざわざこの大規模な廃病院に足を運んだのは、それほど手がかりが尽きていたからだった。
     車で近くまで乗り付け雑草が生い茂った道なき道を進む。そこには外壁に雨染みが広がり、その古さを際出させる。なのに、窓は割れておらず、ここまでくると不自然に綺麗に見え不気味だった。どうにか中を覗こうとするが暗い。懐中電灯を向けても、闇に吸われるだけ。どこかに侵入口があるはずと暗闇を睨み、建物を調べ、そして、気づけば今この状態だ。
    (……これ、もしかしてやばいやつの拠点……? 誘拐グループとか……)
     現実的に考えれば筋は通る。人身売買、臓器目的。対象者の年齢層は19歳から30代。俺も20代前半で、童顔ということもあり、狙われたとしてもおかしくはない。
    ──それにしては妙な点が多い……。
    (俺を中に入れて、気絶させたまま放ったらかし……? わざわざこの位置に? 何のため)
     思考はまとまらない。
     一番の問題はここからの脱出。気持ちを落ち着かせたつもりだが、身体は四方八方無闇に照らして動揺を隠しきれていない。照らしたとしても勿論、誰も映し出されることも無く、物音も誰かが隠れている気配もない。監視カメラになるような物すら無い。誰かが何かの意図を持ってやれば、どこかに痕跡があるはずだが何一つ見当たらなかった。ただ、埃と沈黙があるばかりだった。
    (……まずは外に出るのが先決だ)
     懐中電灯の灯りを頼りに歩き出す。とにかく、出口を探すしかない。今いるのはどうやら一階ではないらしい。
     階段や非常口の配置、天井の高さを見て回り、とある病室のプレートが三〇一が遠くに見える。そこから三階の病棟フロアだと分かる。
     廊下を進む。まず目に入ったのはナースステーションと待合室の広い空間、そして大部屋の病室のドア。半開きのドア越しに見える内部は、複数のベッドが薄布をかぶせられたまま並び、どれも無人。ナンバープレートには「三〇一」「三〇二」「三〇三」とある。
     扉の前を一つずつ通り過ぎるたびに、懐中電灯の光がベッドの骨組みに影を作った。妙に清潔感のある天井、音のない空間が、足音すら吸い込んでいくようだ。室内には虫の気配すらない。どの部屋も空気だけが澱んでいる。
     その先にリネン室があった。扉は大きく開いており、中には埃でくすんだ棚と、崩れ落ちたバスタオルの山。カビ臭と独特の埃の匂いが鼻につく。
     さらに奥へ進むと、トイレを過ぎようやく階段に辿り着いた。封鎖はされておらず、降りられそうだ。
     一段ずつ、ゆっくりと慎重に足を進める。鉄の手すりは錆びついていたが、手触りからしてここに触れた人間は直近では居なさそうだ。数十段を下りきると、ようやく一階に出られた。
    ──そう思った。
     だが目の前に広がっていたのは、見覚えのある廊下だった。
     積まれた椅子の山に塞がれた階段。埃の舞う廊下。
     さっき、目を覚ましたばかりのあの場所だ。
    (……嘘だろ)
     振り返って階段を見上げる。確かに階段を下りたはずが、なぜか戻ってきている。
    (それに、なぜ出てきた階段が封鎖されているんだ)
     時間が巻き戻ったわけでもない。懐中電灯はちゃんと手元にあり、スマホの時計も進んでいた。積み重なった椅子を触るとそこには物質の冷たさ、埃の手触りの悪さが確かにあり、夢や幻覚なんかではない。
    (どうなってるんだ! 何かがおかしい……)
     病院全体が、歪んでいる。そんな馬鹿げた考えすら頭に思い浮かぶ。
    (あり得ない……俺は何かの薬でも打たれた?)
     額に冷や汗が滲む。自分の足で歩いて、階段を下りた。それなのに、戻ってきた場所はスタート地点。
    (きっと何か……そうだ、気絶した時に薬を盛らた……、いや、頭を殴られた後遺症だこれは……)
     考えがまとまらない。現実が俺に嘘をついている。だから脳が現実的な理由を必死で捜していた。
     懐中電灯を握りしめ、俺は走り出した。
     先ほどより早い足取りで廊下を進み、大部屋の病室、リネン室、トイレ、階段……。そこまでは確かに同じだった。
    ──違ったのは、息遣い。
     誰もいないはずの病棟に、呼吸がふたつ、重なる。
     無視する。気のせいだ。気にしていたら、出られない。階段に飛び込むように踏み込み、一気に下まで駆け下りる。
     手すりを滑るように掴みながら、段差を数えることもせず、ただ早く出口へ向かう。
    ──出られた……
     広がったのはバリケード、封鎖された階段。初めに目覚めた、あの場所。埃の舞う廊下。止まったままの空気。まったく同じ光景が広がっていた。
    (……ふざけるな…… おかしい、おかしいどうして……)
     嫌な汗が噴き出し、自然と走りだす。考えるより先に身体は階段を目指す、病室は三〇四、三〇四? ここは三〇一だったはず。次の病室も三〇四、次もだ。すべての病室が三〇四になっている。
    (おかしい、おかしい、おかしい 何がどうなってるんだ)
     めまいがする。どこを歩いても同じ部屋。同じ扉。同じ番号。
     それぞれの病室の中も、ベッドと放置された点滴スタンド、棚も開いた引き出しすら同じ配置で、埃の積もり具合まで同じだ。
    急いでここを抜け出したい。そう思っているのに、足は急停止した。
     通り過ぎた談話室。テレビはなく、椅子はすべて壁際に押しやられていたあの場所。誰もいなかったはずのそこから、呼吸音が聞こえた。
     乾いた音ではない。生暖かい、濡れたような、生々しい生きたモノの呼吸。
     気のせいでは済まされない。確実に【何か】がそこにいる。
     震える足で、ゆっくりと振り返る。懐中電灯の光が床と壁の縁を映し出し、ゆっくり横に移動する。そこには足があり、心臓が跳ね上がる。
     確実に人のそれだ。ゆっくり足元から明かりを移動させて行く。足元から一枚の布でつながった白い拘束衣。両腕は胴に縛りつけられている。首は垂れ、動いていない。
     異常だったのはそれだけではない、それは人間のように立っているか、その顔面、拘束衣から滲み出る赤。ただの血ではない。うぞうぞと呼吸に合わせて脈打っている。
    (……いや、赤が本体なのか?)
     白い衣が赤を覆っているのか、それとも赤が衣の中に巣くっているのか。
     どちらにしても、それは、この病院の闇には不釣り合いすぎる朱色だった。光に濡れた新鮮な肉のような色が、静かに呼吸を繰り返していた。
     おかしな話だが、懐中電灯を少しでも動かせば、それがこちらを見る気がして動けなかった。動けなかった。
     どうやってこの場を離れるか、頭を必死に働かせ、静かに足を動かしたのとほぼ同じ瞬間─ー。



    ――ピ……ピ……ポン、ピ……ポン、ポロロン……
     ゆるやかに反復しながら、まるで鍵盤をなぞるように音が流れていく。
    ーーピ……ポン……ポン、ピ、ポロ……ロン……ポロロ……ン……
    (……これ、メロディになってる?)
     すぐに何の音か分かった。ナースコールのメヌエット。



    「ッ……」
     反射的に飛び退く。背中が壁にぶつかり、懐中電灯が跳ねるように揺れた。
     談話室の奥のソレは、光から外れたことで闇に溶けたが、存在だけは、気配だけは確かに残っている。


    ――ピ……ピ……ポン、ピ……ポン、ポロロン……
    ーーピ……ポン……ポン、ピ、ポロ……ロン……ポロロ……ン……


     ナースコールはまだ終わらなかった。まるで病棟中のボタンが一斉に押されたかのように、各所から重なり合うように鳴り響く。音は均一であるはずなのに、微妙にテンポがズレていて、不協和音のような不愉快さ。
     そして天井のスピーカーがオンになる電子音がし、放送が流れる。
     ノイズ混じりの女声なのか男声なのか分からない抑揚のない、平坦な口調。
    「……急患の……お知らせを……いたします……精……錯乱……患者さま……男性……年齢にじゅう……該当の方は……すみやかに……三階へ……この病棟は……あなたの……た……め……のォーー」
     語尾が濁り、ひときわ長く引き伸ばされたあと、音声はぷつりと切れた。
     静寂が戻る。けれどその静けさ。
    (……俺を呼んでいた……今の……)
     否定しきれなかった。
     放送の内容は曖昧だった。だが、こんな場所にほかに誰がいるとも思えない。曖昧な情報。だが、自分に向けられたものだと確信する。
     ナースコールと放送にあっけにとられていた。だがすぐにハッとして、我に返り視線を談話室に戻す。
    (あっ、あいつは……? は、うそ…だろ……)
     拘束衣の赤は動いていた。どこを向いていたか掴めかった身体は俺の方向を向き、首をゆっくりとこちらに向けてくる。
     ジワジワと持ち上がる顔らしき部分、それら全て赤く、目も口も見えない。だが、なぜかわかった。
    ──笑っている。
     確信だけが脳に突き刺さる。視覚ではない。感覚でもない。ただ「そう感じた」としか言いようのない理解。
     震える俺の体と同じように、赤の拘束衣が膨れ、内側から何かが押し破ろうとするように、胴体が、足が、異様な動きで波打つ。ぼこ、ぼこ、と空気でも通っているかのように、関節では説明できない動きが生まれていく。
     瞬間、それは地面に顔を落とし、俺に向かって走り出した。
     両足を強く踏み鳴らしながら、異様な速度で。頭垂れ下がっているのに少しもゆれず、全身が天井から吊られているように動く。
    ──まるで、操り人形。
     膝から下だけで地面を掻くように走り、体幹はブレず、けれど生物としての動きではなかった。
     人間のパーツを模倣しているだけの、あり得ない走り方だった。
     息が止まる。
     思考が追いつかない。
    (逃げなきゃ、逃げろ、早く、逃げろ)
     震える足が、ようやく動いた。膝が外れそうな感覚のまま、もつれるように廊下を駆け出す。
    (部屋に逃げる? いや、ダメだ……!)
     見えていないはずなのに、確かに俺を追ってくる気配がある。あれには目がない。だが、あれは「見えている」。そんな確信めいたものを感じる。
    (なら、階段……!)
     狭い廊下を懐中電灯の光だけを頼りに走る。息は上がり、足はもつれる。すぐそこに見えている階段。だが、距離が遠い。遅い。間に合わない。
     あの赤いそれが背後で呻き声のような呼吸を荒げ、確実に距離を詰めてくる。
     次の一歩で肩を掴まれる──、死を覚悟した。瞬間、階段の暗がりから、【黒い何か】が飛び出した。
     音はなかった。ただ、風が割れるような空気の切れ。
     視界の端で何かが旋回し、流れるように赤ととぶつかる。衝突音すらなく、ただ空気の圧だけが炸裂した。
     拘束衣は壁にぶつかり、熟れすぎたトマトが弾けるように飛散している。何が起きたのか理解できないまま俺は床へへたり込む。
     そこに立っていたのは、黒いスーツに縦縞のシャツ、赤いネクタイに身を包んだ男だった。
     震える手で、男を照らせば髪はくすんだ金。短く整えられ、その顔には額と頬に大きな傷。赤を薙ぎ払ったものを見ると両手に握られていたのは、日本刀。剣身は光を吸うように鈍く濡れ、振り下ろされたばかりの刃先から赤黒い雫が一滴、床に落ちて染みを広げた。それを静かに鞘に戻してから男は、ふと口を開いた。
    「……俺にしては、遅かったか」
     そう言って、薄く笑っていた。それはどこか場違いな、肩の力の抜けた笑みだった。まるでこの状況を、少しばかり楽しんでいるかのようにすら見える。
     拘束衣のそれは、崩れ落ちたまま動かない。
     やがて、赤黒く濡れていた身体の輪郭が、煙のようにゆっくりとほどけていった。 血でも肉でもなく、まるで塵のように。赤い何かは、床に広がることもなく、音もなく空気に消えていった。
     目の前に現れたスーツ姿の男が、静かに俺を見下ろす。
    「大丈夫だった?」
     そう言って、手を差し出してくる細くしなやかな指。剣を振っているものとは思えないほど、どこか柔らかさを孕んでいる。
     戸惑いながら、その手と顔を交互に見つめる。表情に敵意はない。けれど、それが安心材料になるとは限らなかった。
     男はそんな俺を見て、軽く笑いながら言う。
    「……情けない顔はやめてくださいよ。まるで俺が怖い人みたいでしょ?」
     それでも手を取らない俺に男はふっと苦笑しながらその手を引っ込めた。
    「……じゃ、無理にとは言わないよ」
     肩をすくめるような軽い調子。
    「俺はホークス。君もここに取り込まれたんだろう?」
     そう言って、男は背を向ける。すでに階段の方へ歩き出していた。
    「出口を一緒に探してあげるよ。さっきのは、まー……失ったモノかな?」
     振り返らず、気楽なような、それでいてどこか悲しげな声で続けた。
    「早く。あれは何回もやってくるから」
     その言葉に、反射的に立ち上がってしまっていた。そのおかげが、喉のつっかえが消え慌てて言葉を投げかける。
    「あっ、あの! 階段は……その、俺……頭がおかしいわけじゃないんですが、さっきから、何度下りても……同じ場所に戻ってるんです。ループしてて……!」
     ホークスは足を止めず、片手だけを軽く上げて答えた。
    「ああ、知ってるよ」
     それだけで、こちらを振り返ろうとはしない。代わりに、ひょいと顎で階上を示すような仕草を見せてから、さらりと続けた。
    「でも大丈夫。下に行こうとするからダメなんだよ。上に行けばいい」
     先を行く男の背を、思わず追っていた。
     俺を置いて行こうとしている相手なのに、気づけば足が勝手に動いていた。
     階段へと向かう背中に、声をかける。
    「あの、助けてくれてありがとうございます。俺、探偵をしてて名前は──」
    「いや、いいよ」
     男は軽く手を振り言った。
    「どうせそんなに長い付き合いにはならないだろ?」
     軽口のようで、どこか拒絶にも近い一言だった。
     非常口の緑の光と、消火器の赤いランプだけが、妙に鮮明に灯っていた。
     電気の通っているはずのない廃病院で、そこだけが現実味を保っているのにそれがあり得なく、気が狂いそうになる。
     階段を登ると、壁に書かれたプレートに「五」の文字。
     病院は縁起を担ぎ、四や九の階を意図的に飛ばすと聞いたことがある。ここに五階が存在していることに、ループから抜け出した事に安心を覚える。
     異様な世界にいながら、それらしい現実社会のルールがまだ生きていることが、かすかな救いに思えた。
     五階と書かれたプレートを通り過ぎ、廊下へ足を踏み入れる。
     ……見慣れた光景だった。埃の匂い。壁紙の剥がれ。並ぶ病室。すべて、三階と同じ。なのに、なぜか安心していた。
     変わらない景色に、安心を覚える。
     おかしい。まったく異常なはずなのに、異常の中の知っている常識に心が落ち着いてしまっていた。
     人は、狂気の中でも秩序を探そうとする──それは自分でもよく知っている。 静かな廊下に、ふと、自分の声が落ちた。
    「……俺、人を探しています」
     前を行く男の背に向かって投げかける。
     ホークスは歩く速度を緩めただけで、振り返らなかった。
    「ここで……失踪人が多発しているのを知ってますか? 最初は肝試しに来た高校生グループ、三人。その次が、成人で男女です」
     ただ、黙って歩くこの男に、説明しなければならない気がした。
     何のために来たのか。なぜここにいるのか。
     それを言葉にしておかないと、自分までこの場所に飲まれてしまいそうだった。例え返事が無くとも構わない、そんな気持ちの言葉。
    「どうだろう……男子高校生が三人。それを探しに来た教師、二人。高校生は肝試しだったんだっけ」
     まるで誰かの日常を振り返るような、気楽な口調。
    「あと……廃墟探索に来た豪胆な女性、いたよね。あの人、気になったら紛争地まで行っちゃうんだっけ? 気になると止まらないタイプってウサギみたいにすばしっこいんですねー」
     ホークスは、歩みを止めるが振り返らない。だが、その背が淡々と語る人物像は、俺の知っている失踪者の情報と完全に一致していた。
    ――なぜ、こいつは知っている?
    (あえて俺は成人の男女と一緒に話した……)
    「ここは……どうなってるんですか? なんなんですか、ここは……! 失踪者に会ったんですか」
     混乱の波が一気に押し寄せ、喉の奥から叫びが噴き出す。
    「さっきの、あれは……あれは何だったんですか  人じゃない、あんな……!」
     声が廊下に響く。埃が舞う。
     非常灯の緑と、消火器ランプの赤だけが、なおも無言で灯っていた。
     ホークスは黙ってまた歩き出す。


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