燠果 木の物腐し
「わりぃなセンパイ」
ぐっと汗を拭って眉を顰める灰園に
とんでもない、と首を振る
「いいんだ、それに君の料理が
それだけ美味しいってことだから」
これは本心だ
キッチンカーの中から見下ろされていると
まるで赦されない
大きな障壁がはだかっているようだと
何時も切ないような、
それでいて
ほっとするような心持ちになる。
それじゃあ、と踵を返そうとすると
「ちょっと待てよ」
灰園はキッチンカーの中に
身を翻すと
ばたん、がらっと
少し慌ただしい音がする
そうしてカウンターでは無く
出入口のドアが開いて
ちょいちょい、と手招きをされる
何だろうと
呼ばれるままに
来てみれば
「ほらよ、サービス」
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