赤く、死んだ海の前で少女は語る何者かに少女は発見され、病院に運び込まれた。「可哀想に、事件に巻き込まれたそうだ。」
そんな声が聞こえ、目が覚める……
「……痛…」
ずきんと頭が痛む。
「私…なんで病院に…?」
「はっ、ユートさんは」
周りを見渡しても、いつもそばに居てくれるはずの存在は居ない。
換気のために開けられたと思われる、海が見える窓のカーテンが柔らかく嗤うように揺らいでいた。
規則的であるはずの漣の音が不規則に聞こえて、それは私を次第に不安にさせた。
私はナースコールをする。
「どう致しましたか?」
「長身の…黒髪の…あ、あの…あ」
「……まだ混乱されているのですね。無理もありません…後で何か」
音が頭に入ってこない、視界が歪んでくる。
「あ…あああ、何か、何か、分か、ら、なくて、」
ぼんやりとしか思い出せない。彼はどんな容姿だった?どんな声をしていた?
ゆっくりと考えれば思い出せるはずだが、何かがそれを邪魔している。
誰かが、思い出させまいとしている?
大、じなこと、な、のに
その時、壁にぶつかる大きな波の音が聞こえた。
「っは…!」
意識が遠のきかけていた。
…何を考えていたのだろう。
気がつけば目の前にナースは居らず、日は頭上にあった。
「海…」
窓から海が見え、音が聞こえるということは、そこまで離れていない。
外に、出てみよう。
何故か、行かないといけない気がして、海へ向かう。
その側を足早に、何かを探すように通る。
堤防があった…気がつくとそこへ足が進む。
凪いでいて、何も知らない顔をする海。
「友斗…」
不意に出た言葉だった____
「ねえ、こんなおれと居ていいの?」
彼…は、不安そうな顔で俯いていた。
「本命の子…居るんじゃないの」
ベンチの隣に座っているが、段々と彼は自分から向こう側へと離れていく。
わたくしは、彼の目の前に軽くしゃがみ、目線を合わせ、寄り添って、こう言ってみる。
「君なら…きっと許されますよ。」
「そ、うなの、」
「……ええ」
肩を震わせそうになっている彼が、どうしてもそんな仕草までも"彼女"に似ていて、わたくしは抱きしめてしまった。
「"これ"はどうしてもおれのものにはなってくれないんでしょ、ねえ。」
「もう1人の、おれ」
「…………」
暗闇から話しかけてくる「それ」は、私の情緒を掻き乱すようだった。
ああ、今にも倒れそう。
堤防から海へ落ちたら楽だろうか
また、あの人に抱きしめられる感覚を味わえるだろうか
「どうして」
「ずっと一緒って言ったじゃん」
私の知らない間にそんなことがあったんだね
じゃああなたは今どこにいるの
「置いていかないでよ」
やっぱり、漣の音が、私を嘲笑っている気がした。
堤防の上に倒れ込む。
コンクリートに倒れ込むのでとても痛いはずだが、不思議と痛くなかった。
「…?」
大きな白い…………布?
……………いや、これは
「友斗!!!!!!!!」
「いるの!?」
「な、んで出てきて、くれな、いの…………?」
涙が溢れてきて、前が見えなくなって、
目の前にある白衣を抱きしめる。
あの人の香りが、仄かに残っていた。白衣を濡らしてしまう。
ああ、なんてきみは、
「ずるい」
涙で前髪と白衣を濡らしていたら、ポケットに入った紙に気づいた。
急いで作ったような、雑に切られた、ノートの切れ端のような紙。
そんな粗雑な紙に、綺麗な字が書いてあった。
所々、何か、文字が、滲んでいて…
_______
ごめんなさい、アリア
わたくしは君にはもう会えない。
君を、□付けてしまった。殺□てしまった。
君は、わ□□□の事を□れて欲しい。
_______
ああ、ああ、ほんとどこまでも、お前は!
「どう…………どう、忘れろって言うの!ふざけないでよ!」
白衣を地面に叩きつけてしまう。
水溜まりに映る私の顔は、涙でぐちゃぐちゃな顔だ、こんなの見せられない。
けれど、今すぐに会いたい、逢いたい。
どこか近くで革靴の音が聞こえた
…気がした。
「置いてかないで…」
潮風がひりひりとする。
このまま私は、彼を、探して、探して、探して探して探して探して
探していた。
でも、世間は何も知らないと、言うのだ。
私にとっては裾の余りすぎる白衣を下げた壁を見つめる。
ああ、いつかこんなことがあったような気がする。それは現実だったかどうか、もはや覚えていないけれど。
離さないと誓ったのに
この手から離れてしまった
………そういえば…もう1人の、私は…?