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    花屋と女子高生

    安達晴信×政子の現パロ進捗です。
    安達殿→三十路の独り身の花屋さん、記憶あり
    政子殿→高校生で剣道部主将、女子にモテるタイプ

    気が向いたら続くかも????

    花屋と女子高生






     生まれた時から不思議な記憶があった。歳を重ねるごとに鮮明になっていった。
    「おまさ〜ただいま〜」
     一人暮らし、ワンルームのアパートの電気をパチリと灯す。もうそろそろ三十路を迎える。実家の母には〈彼女の一人でもいないの〉と呆れられる始末。実際、晴信は雌の柴犬と二人暮らしなので、この子が彼女だと言ってしまえば彼女のようなものだが。
    「はいはい、おっと、待て?服に花粉がついてら。ユリの花束触ったからかな…。おまさ、ご飯、ちょっと待ってな」
     晴信がリュックを片付いた部屋の奥の窓際のベッドにぽーんと投げると、まさはぴょこぴょこ飛び跳ねるようにそれを追いかけた。こんなパーカーには、天の川のように黄色い花粉が付着している。晴信はパーカーをひゅうっと洗面所の洗濯籠に投げ入れた。ぴっちりした黒のタンクトップの下には、鍛え上げられた分厚い筋肉が詰まっている。
    「さぁてさてさて。わんちょ〜る買ってきてやったからなぁ。いつものフードの横にちょっと添えてやろうな」
     まさの前に水とご飯を置いてやると、まさはがつがつ大慌てで食べ始めた。晴信はソファに腰掛け、テレビをつけた。惰性の流し見である。
    「ユリの花束とバラの花束を作ったよ。薔薇なんて、100本。誰にあげるのかねぇ」
     下町の、ログハウス調の小さな花屋を運営している晴信の元に、二十代半ばの学生時代に陸上部辺りに所属していそうな色黒長身の爽やかな男性がやってきたのだった。恥ずかしそうに注文品だったバラの花束を受け取り、大変そうに抱えて去る背中を見送った。もしプロポーズなどするつもりなら、是非我が店のバラで以って成功してもらいたいものだ。
    「いいねぇ」
     立ち上がり、冷蔵庫から缶ビールを取り出して戻る。それから投げ捨てたリュックから夕方の特売で安くなっていた唐揚げとサラダ、無料の割り箸を取り出した。その頃にはまさは夕食を終えて、ソファの晴信の隣に踊り乗って、ゆったり横たわった。晴信はその熱い体を無造作に撫でた。
     夜七時半、街ブラロケが放送されている。最近、女子高生中心に流行っているスイーツ特集だ。甘いものは好きだし、数駅隣の近場が取材対象ときた。少しばかり興味が湧く。果物に水飴をコーティングした祭りの屋台によくある飴のおしゃれバージョンが流行っているらしい。映え、というやつか。
     それをぼうっと見ながら、晴信は今夜もあの夢が見られたらなと思った。生まれた時から持っている不思議な記憶。鎌倉時代末期、對馬国、侍の家に生まれた自分。島を蹂躙せんとした異国の敵に立ち向かい、そして死んだ。息子が二人、幼い孫も二人。そして…。
    「……政子……」
     愛犬まさの薄の穂のような美しい色をした短髪を、よしよしと撫でながら呟く。愛した妻、政子。彼女のことをいつも夢に見る。強く美しく照れ屋で厳しい、ふと溢れる笑みには目を奪われたものだ。今も、彼女を思うと胸の奥の方がきゅうんとときめく。今もずっと恋をしている。だが。
    「…忘れていた方が、楽だったのになぁ…」
     そう思うせいだろうか。歳を経るにつれて、彼女の記憶が有耶無耶になってゆく気がする。このまま忘れ去ってしまうのだろうか。だが彼女にいくら焦がれても、もう何百年と前の人だ。死んでいなければ化け猫どころの話ではない。もはやどうしようも…。
    『ここ、〇〇駅前にもフルーツキャンディーの店が新しくオープンしました!インタビューで評判をチェック!』
     虚しい気持ちでぐいっとビールを煽る。溜息混じりに画面を見ると、スポーツ推薦で有名な高校の制服を着た女子高生がキャッキャと騒ぎながら明るい声でインタビューに答えていた。部活帰りに寄ったのだという…。
    「……?」
     騒ぐ三人の後ろ。一人、こざっぱりしたポニーテールの女子高生が、孤高の人と言わんばかりに横を向いて、イチゴの棒キャンディーをぺろりぺろりと舐めている。その姿に目を惹かれた。すらりとした鼻立ちで、他の女の子たちよりも頭半分は背が高い。竹刀袋を背負っている…剣道部か。その目がちらっと〈早く立ち去りたいなぁ〉と言わんばかりにカメラを一瞥した…その瞬間。
    「ひっ…え…!」
     晴信は思わず変な声を喉の底から上げた。缶ビールか手から滑り落ちる。殆ど空だったので、毛足の短い黄緑色のカーペットへのダメージは少なく済んだ。
    とはいえ僅か溢れたというのに、晴信はソファに前屈みになって腰掛けた格好のまま、缶ビールを取り落とした手の形もそのまま、その手をまさにべろべろ舐められてもそのままにして、テレビの画面の後ろの方にピントが合わずに映り込んでいる女子高生を凝視した。
     見間違えなどありえない。何百年と愛し、焦がれ続けた彼女を。よもや、忘れる筈もないではないか。あぁ、まさか、こんな…。
    「ま、政子ー…」
     イチゴキャンディーをぺろぺろ舐める彼女こそ、約七百年前に死に別れた妻の政子で間違いない。

    ……
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