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    続々・もしも境井家が代々志村家当主の夜伽をしていたらの話
    (支部に無印と続があります)
    若い志村×若い正

    前にツイートで流したんですが、ツイートだと遡りにくいのでここにおきます。
    進捗ここに載せつつ、完成したらまとめて支部にあげます。

    続々・もしも境井家が代々志村家当主の夜伽をしていたらの話





    青海湖が、冬の宵の黒くくすんだ夕日の残火に、水面を怪しく揺らめかせている時分である。

    「お招きに預かり、感謝致す」
    「こちらこそお立ち寄り頂きまして有難う存じます。冷え込んで参りましたでしょう」

    屋敷にて大黒柱たる父がそのように若者を歓待している様を、正はそうそう見ない。
    父はどちらかと言うと居丈高な侍で、腰が低いということもない。
    だが相手がのちの地頭を約束された志村家嫡子であれば、態度も違ってくるのだろう。
    正としては、父がそのように熱烈に歓迎して招き入れる、寒風で頰や鼻に赤みを滲ませている志村の若を目撃したとき、雷に打たれたようになった。志村が訪れるなど寝耳に水である。
    父の後ろで目を見開いてすっかり固まっていると。

    「志村殿、我が息子は…無論、ご存知でしたな」

    ご存知も何もである。
    父はわざと、含ませて尋ねたのだ。

    「…あぁ…」
     
    志村の切長の目が正を見た。
    途端、心の臓を矢でズバリと射抜かれたような衝撃が走り、正はバッと胸元に手をやった。
    数日前、居てもたってもいられず志村城前まで出向いて志村の姿を見かけた時と同じ高鳴りが、体全体をどくどくと脈打たせた。
    志村はその鋭い眼差しにしっかりと正を見据え、とろりとその目を蕩けさせた。
    突然の濃い笑みに、正は冗談抜きで腰砕けになってへたり込みそうになった。
    足がカクカク震えるが、なんとかそうならぬようにと柱に右手をついた。
    目上のものを前にしてあまりに不審な体勢だが、志村は特に正に苦言を呈さなかった。

    「久しいな、境井。…ふた月ぶりか」

    正はごきゅんと喉を鳴らした。

    「………は」

    顎を引いて頷いてから、これはあまりに無愛想ではないかと思った。
    嫌われてしまうー…いや、既に好かれていないからこそふた月も夜伽の呼び出しがなかったのだろうが。
    と、いうより、嫌われてなんだというのだ。
    体の相性がどうあれ境井家の価値はそれだけで決まるものではないと信じたい。
    武芸には自信がある…。
    そのような正のそわそわなど気にもかけず、志村は父に向き直った。
    正から父の顔は見えぬが、恐らくは慣れぬ引き攣った笑みを浮かべているのだろう。

    「晩酌の手筈も整っております。志村殿は御父君に似ていらっしゃって、よう呑まれると聞き及んでおります」
    「まぁ人並みに嗜む程度だ」
    「御謙遜を。さぁどうぞお上がりください。客間にお通しせよ!」
     
    父がキリッと声を張り上げると、控えていた家人がさっと立ち上がって志村を先導した。
    正の前で履物を脱ぐと、志村は家人がそれを揃える前に自ら腰をかがめてくるりと爪先を外に向けて揃えた。
    父が鋭い声で誰とも定めず戒めた。

    「お前達! 志村殿にお手間を取らせるな! 正! そこにおるならお主がやらずになんとするのだ!」
    「よい。そう叱り飛ばしてやるな」
     
    志村は朗らかに言った。
    そして正の真横を抜けていったが、一瞬ちらと送られた流し目に、正は眩暈がした。

    「正…!」
     
    父が志村の後に続くであろうと当然のように思っていた正は、皆が去るまでなんとか起立の姿勢を保とうと考えていた。
    そしてその後はくずおれる気満々であった。
    が、父は正の前で立ち止まった。
    先の志村同様正を横目で見るが、その眼差しは血走り、燃え滾っていた。

    「よいか正!」
     
    ひゅうひゅうと噛み締めた歯の隙間から息とも声ともつかぬものを吐き出しながら、言う。

    「このあと少々晩酌のお相手を務めた後、儂は病を得たと志村殿にお伝えし、郷へ降りる」
     
    青海の郷へ降りる…父がその言葉を使うときは、例の老侍であり父の友人でもある爺の屋敷へと語らいにゆくという意味である。
    もう日が殆ど沈んで夜の帷に包まれつつある今、それは夜通し酒を飲んでくるという意味なのだ。
    つまり、今夜父は帰らぬ。

    「病? しかしお元気では…。それに父上が志村殿をお招きしたのでは…?」
    「お主の為、ひいては境井の御家の為であろう! 家人も皆、酒を置かせた後帰らせる! 良いな!」
     
    正はごきゅりと喉を鳴らした。
    そうでもしなければ喉元まで喧しい心の臓が競り上がってきて、抑えきれないからである。
    父を見つめる目の玉が、緊張でじわりじわりと充血した。ばんっと体ががくんと傾く程の力で肩を叩かれてもその痛みすら感じない…。

    「しっかり御奉仕し、気に入られるのだ…もう粗相は許されぬぞ、良いな…!」

    唾を飛ばしながら激しい口調で捲し立て、父は急足で志村の後を追った。
    正は予定通りにその場所に膝から崩れ落ちたが、全く、予期していた緊張感とはまるで違った種類の緊張感によるもののせいだった。


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