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    鶴田樹

    @ayanenonoca

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    鶴田樹

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    スチームパンクと桑名くんめちゃめちゃ親和性高いよね!!!!と思ってなにかしらの形にしたかったんですがこれは果たしてスチームパンクと呼べるのか??

    なんとなく雰囲気が伝われば何よりです!

    【ストームド ワールド エンド】 バリバリと鳴る遠雷と吹き荒れる風が競うように互いの存在を主張して、その度に砂塵が巻き上がっては鉄錆の匂いが鼻腔をぎしりと刺す。それは昨日までと何一つ変わらぬ日常。今日の大地も禍々しく赤銅色に染まり、鈍色の空を見上げれば大小様々な回遊噴霧艇(スプリンクラァ)がじわじわと腐食していく文明都市(ロストテクノロジィズ)を少しでも存続させようと、赤錆防止剤(ストラグル)を撒いていた。

     今ではこんなにも荒れ果ててしまった世界にも、ほんの50年前までは立派な文明があった。それが赤錆粘菌(スポイラー)によって地表からじわじわと浸食を受けて、鉄や金属は腐食し、使い物にならなくなってしまったのだ。金属の恩恵を大いに受けて発展したこの世界は、この突然起きた現象を前に大いに混乱した。

     赤錆粘菌によって金属が恐るべき早さで腐食していくこの世界で頼りになるのは廻り廻って木材と石と革。まさか人類もあれだけ文明が発達していた時代から、原始的な生活にまで引き返す羽目になるとは思っていなかったはずだ。それでも文明崩壊以前からスロゥライフを積極的に実践していた者の知識と経験などもあって、なんとか人類は大きく人口を減らすことなく生命の営みを存続できていた。

     しかしもちろん不便になったことも多い。かつては高度に発達した座標特定機能(ナビゲィションシステム)によって簡単に自分の居場所や目的地がわかっていたのに、そういった機械類の金属はことごとく粘菌の餌食になってしまった。鉄でできた看板などはもろに粘菌の被害を受けて朽ちてしまっているし、今ではたまに立っている木の標識とアナログな地図とコンパスだけが頼みの綱だ。

    「ふぅ。この辺で一度座標を記録しておこうかな。」

     砂塵が目に入らぬよう着けたゴーグルをゴシゴシと袖で拭うと、多少は視界がマシになる。無尽蔵な体力には自信がある方だが、だからといって闇雲に歩いていてはいつまで経っても目的地に辿り着くことはできない。

     桑名號はコンパスと、古めかしい革の地図を取り出すと、方角を確認し、頭の中で数えていた歩数と歩幅を掛け合わせて距離を暗算する。そしてそれを地図とメモにそれぞれ書きつけたところで路傍のあるものに気がついた。

    「あ!いいもの見いつけた!」

     見渡す限り岩石と産業遺構(ヘリテヰジ)の赤茶けた鉄屑(スクラップ)だらけの地面から桑名が拾い上げたのは一見どこにでもありそうな小石だった。それを革手袋を着けた手で拾い上げると、桑名號は小脇に抱えていた絡繰仕掛けの兎によかったねぇと嬉しそうに話しかけた。石の表面をささっと手袋で払って、胸ポケットから取り出した照射切削(レーザーナイフ)で割ると、真っ赤な柘榴石(ガーネット)の美しい断面が現れる。

    「うわあ!すごいよ!ラッキーだね。」と桑名號が物言わぬ兎に喜色を顕に話しかけたように、桑名號が拾い上げた原石はこの辺に転がっていたものにしてはかなり純度が高いものだった。柘榴石に含まれる動力は紅玉(ルビヰ)ほどではないけれど、この純度なら次の要塞型都市まで相棒の元気を保たせてくれそうだ。

     鉱石の断面を兎の手のひらにある触媒に当てると、ジジッと金属が焼け付くような音がして、紅の双眸にぽうっと光が宿る。蓄電消耗(ランナウト)から2週間。久しぶりに生体反応(バイタル)を見せた相棒に、桑名號はよかったあ、と胸をなで下ろした。

     「長い間お腹を空かせっぱなしにしちゃってごめんねえ」と相棒に謝ると、有命無機物(アニマ)の相棒はぴぅぴう、と高い声で鳴きながら首元に擦り寄ってきた。本来なら相棒が蓄電消耗を起こすまでに次の都市に辿り着けるはずだったが、嵐に遭いそうな移動商団(キャラバン)を誘導して迂回したために補給(チャージ)が間に合わなかったのだ。

     しかし相棒はそんな事情など全く気にする様子もなく、桑名との触れ合いを堪能している。「大丈夫って言ってくれるの?ほんとに君は優しいね」と頬ずりで応じれば、相棒はトレードマークの赤目を気持ちよさそうに閉じて桑名號との久々の交歓を楽しむ。その彼の鼻が、ヒクッと何かに反応を示すと、桑名もまた「気がついた?やっぱりいい鼻してるね」と腰を上げ、近くの岩石をひっくり返した。

    「わぁ!すごい!ノビルだねえ。今日は大当たりの日だ!」

     植生を鑑みればノビルなど、本来こんなところに生えているはずのない植物ではあるが、そのおいしさは大地のお墨付きだ。腹を空かせていた桑名は渡りに舟と、手際よく採取して洗練水で洗い、かじる。

    「うん!おいしい!」

     味はらっきょうに近いだろうか。いかにもスタミナのつきそうな味が噛んだそばから口の中に広がる。風味もさることながら鼻に抜ける匂いの強さが塩梅よく、少量でも食べた量以上の満足感が得られるのも嬉しかった。

     我慢できずにもう一口。やはり自然が作り出した味は格別だ。わりかし忍耐強い方だと自負している桑名號だったが、長い間携帯食ばかりで舌の感覚があってもなくても大差ないような食生活を送っていた彼にとって久しぶりの自然の味覚はなによりありがたく感じた。

    「ありがとう、大地。ごちそうさまでした。」

     きっちりと手を合わせて食べ物とそれを恵んでくれた大地に感謝する。食事の度に繰り返されるこの言葉に、大地も『こちらこそ、食べてくれてありがとう』と答える。そう、桑名號には生まれた時から大地と会話できるという特殊な能力が備わっていた。

     物心つく前から、桑名の先生は大地であり、また時に大地は友でもあった。食べ物のありかや地形、天候や次に向かうべき場所、その他のいろんな情報など大地はどんなことでも教えてくれた。そんな特殊な能力もあって、桑名は常に周りから博識さを頼られ、研究者としても探査隊(サルベージャー)としても多くの経験を積み、また実績を残してきた。今、全世界で文明を根絶やしにしようとしている赤錆粘菌の仕組みを誰より早く解明したのもこの桑名だった。

     研究者をしていた桑名號が赤錆粘菌が惑星の爆発によって生まれた特殊な光線によって急激に生長を遂げたことを突き止めたのは10年ほど前。それから赤錆粘菌の生長を阻む方法を同じ研究チームの南海が発見したのが6年前。その後は復鉄事業に携わり、惜しまれつつも研究職を離れてから4年が経つ。桑名が研究職を辞め、放浪の旅に出た理由。それはなんとしても叶えたいことがあったからだ。

    「会いたい刀がいる」

    桑名はそれを夢とは呼ばない。

     しかし、それは人類にとってはもはや奇跡でも起こらなければ到底成し得ない絵空事だ。桑名が辞職とその理由を申し出た時、研究所の所長が桑名を慮り一瞬だけ憐れみのような表情を見せたように、桑名の願いはあまりにも儚いものだった。

    けれど桑名には強い確信があった。

    豊前江の写真を見た時に、大地が告げたのだ。

    『豊前江は存在している。桑名が会いに来るのを待っている』と。



    「豊前江って一体どんな刀なんだろうね」

     砂塵よけのゴーグルのガラスをもう一度拭って荒野へ視線を向けながら、桑名は相棒に声を投げかける。その声色はまっすぐで明るく力強い。

     そして相棒はというと、すっかり元気を取り戻して桑名の肩の上で楽しそうに鼻をヒクヒクさせていたかと思えば、突然桑名の頬にチュッとキスをした。

    「あはは!はしかいやん」

     身を捩ってくすぐったがる桑名號を元気づけるように、相棒のヒトロク丸は高くプゥプゥと鳴く。

    『もう少しだ。もう少しで会えっから。』

     相棒の言葉は桑名には伝わらない。だけど桑名が豊前江の存在を信じ続けてくれているから、どれだけもどかしくても待ち続けることができ……

    ないからこうして兎の筐体(ギミック)を間借りしてんだよなぁ。
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