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    hino_alk

    ひのです。たまに文字を書きます。

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    英つむ(……と言い張る)

    #英つむ
    beChoppedToPieces

    Blue bird from the sky.



     空が、青い。
     清々しいまでの秋晴れにぽっかり浮かぶ丸い雲の群像。いわゆるひつじ雲がのんびりと視界の端で揺れている。地上からはゆっくり流れていくように見えて、きっと上空では強い風が水蒸気の塊を押し流している。
     俺たちは自分たちの目に映るものしか知覚できない。そして、それを現実だと認識してしまう。
    まるで人の心のようだ。裏腹なんて言うけれど、そんなもの目に見えない。言葉に、文言にしなければ伝わらない。伝えきれない。そうやってもどかしいものが俺たちを時に苦しませ、悩んで、乗り越えてゆくもので。
     なんだか懐かしいなぁ、と思う。
     上空の大気に押し流されて、消えないように必死で、群像になっているあれは過去の俺たちのようで。それを眺めている今の俺は地に足をつけていて。きっと俺たちの葛藤も苦しみも、他人からみたらこんな光景だったのかなと、少しだけ遠巻きに考えることが出来るようになったのかもしれない。
     とはいえ、今は今で地上(ここ)が俺の現実で呑気に空を見上げる暇なんてほとんどないのだけど。
    オフィスの椅子に深く腰掛けてぐったり背中を預けたまま視線を移ろわせていたら、ひとりの足音が近づいてきた。

    「つむぎ、酷いクマだね?アイドルの顔とは思えないよ」
     ぱさり、幾枚かの紙束が目の前に翳されて俺の視界を遮った。悪戯の主、英智くんが笑う。仕方なしに、それを受け取ってようやく彼と目を合わせた。優しい目尻、眉間には皺もない。今日はかなり機嫌が良いみたいだ。
    「ふふ、英智くんは顔色が良さそうで何よりです。英智デーの効果ですか?」
    「そうだね、スタプロはだいぶ軌道が安定してきたし、僕も休むことも仕事だと皆に口すっぱく言われているからかな」
    「それならよかったです、いつも倒れそうな顔ばかり見ていたから安心しました」
     うっかり軽口がすぎただろうか、ふむ、と英智くんが少しばかり声のトーンを落とした。

    「それはいつの話かな?」
    「そうですねぇ」

     真っ白な肌。空の青が被って奥の血管すら透けて見えそうな君にあの日の面影を見た。無表情で俺にひとひらの紙切れを差し出して、それから俺たちは『仲間』から『他人』になって。

    「……俺の中での英智くんは、いつでも顔色が悪いので、今日の顔を記憶に更新しておきますね」
     あはは、と笑って改めて先程手渡された書類の束に目を向ける。スタプロとニューデイの合同企画の立案書と契約書類。コズプロといいスタプロといい、本当に人づかいが、いやニューデイ使いが荒いんですから。なんてボヤいてみせたけど、英智くんの手腕は相変わらずで、きちんと互いの利害を的確に示している。

    「さすがですねぇ、あ、ここ質問してもいいですか?」
    「もちろん、あぁその件は……」

     英智くんと俺と、スタプロとニューデイと。ビジネスパートナーとして俺たちは繋がっている。
    双方に利益がある限り、きっと俺たちはこうやって肩を並べてゆくのだろう。

     利益も代償もなく、ただ君の側に居られればと思っていたあの日の感傷は空に溶けて千切れた雲のようにどこかに流されて消えていったけれど。まして無条件に君のそばに居たいなんて物好きなこと、今の俺ならは言いませんけど。


     俺は地に足をつけて君と青い空を見上げる今を、ささやかに愛おしく思っています。
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