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    takami180

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    曦澄のみです。

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    47都道府県グルメ曦澄企画
    焼きまんじゅう――群馬県

     おいしかったな、おいしかったですね、と言葉を交わして、二人は車に乗り込んだ。
     本日のランチは「おっきりこみ」という郷土料理を堪能した。幅広の麺が入ったしょうゆ味の煮込みうどんといえばいいだろうか。白菜やきのこがたっぷり入っていて、食べ応えがあった。
     昨晩、お世話になった宿の料理も山菜やきのこがふんだんに使われていた。食べなれない味覚だが、その分、旅行に来たのだと感慨深かったのも事実である。
     運転席に座った藍曦臣はエンジンをかけた。
    「さて、帰るか」
    「そうですね」と藍曦臣はうなずくも、何やら難しげな顔をしてスマホの画面を見つめている。
     江澄は首を傾げた。
    「どうかしたか?」
    「……帰る前に、寄りたいところがありまして」
    「なんだ、早く言えよ。どこだ?」
    「お茶屋さんです」
     そう言って藍曦臣が差し出したスマホの画面には、古めかしい民家を演出した茶屋が映っていた。


     店に入ってすぐ、目についたのは囲炉裏だった。そこには誰も座っていない。奥のテーブル席に客が一組着いていた。
    「いらっしゃいませ、お持ち帰りですか、お食事ですか」
    「こちらで食べたいのですが」
    「はい、どうぞ、お好きな席に」と言われて二人もテーブル席に着いた。
     藍曦臣が「焼きまんじゅうを」と二人分頼んでくれた。
     江澄は店内をしきりに見回している。
     黒々とした梁はいかにも年代物である。
     入口のすぐわきには持ち帰りの注文窓口がある。新しい客が入ってきて、そこで「焼きまんじゅう」を頼んでいた。
     藍曦臣は席を立って店内をうろうろと見て回っている。
    「焼きまんじゅうを全然知らなくて、昨晩、旅館の方に教えてもらってから気になってたんです」
    「そうなんですね、ご旅行ですか」
    「ええ、草津に」
    「草津って、まあ、わざわざ」
    「寄り道が好きなんです」
     藍曦臣が店員をつかまえておしゃべりをしているうちに、「できましたよ」と声がかかった。
     朱塗りの盆皿にたっぷりとたれの塗られた焼きまんじゅうが二串。串ひとつに小ぶりのまんじゅうが四つ。
      焼きたてなのだろう。ほかほかと湯気を立てている。
    「味噌か」
     江澄はようやく思い当って、膝を打った。
     店は香ばしい匂いで満たされていたが、いまいち、何の匂いかつかみ切れていなかった。
    「おいしそうですね」
    「そりゃ、絶対うまいだろ」
     こんがりと焼き色のついたまんじゅうと、濃い色のみそだれが合わないわけがなかった。
     江澄はひとつめにかぶりついた。
     まんじゅうの中にあんは入っていないが、みそだれのあまじょっぱさが生地にしみこんでいて、すばらしくおいしい。
     藍曦臣も焼きまんじゅうをかじって、それはうれしそうににこにこと笑っている。
     チッ、チッ、チッ、と金属質の音が響く。
     店先では串に刺したまんじゅうをひっきりなしに焼いている。
     串と焼き台とがぶつかる音だろう。
    「素朴な味ですね」
    「ああ」
    「私、こういう味が好きなんです」
    「そうか」
     昼食の直後にもかかわらず、江澄も藍曦臣も、焼きまんじゅう二串を平らげた。
     藍曦臣はお茶を一口飲んだ後、また席を立って、今度は持ち帰り用の焼きまんじゅうを注文した。
     よっぽど気に入ったらしい。
     江澄はお茶を含み、うーん、とうなった。
     さすがに持ち帰り分は腹に入る隙間がなさそうだった。
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    takami180

    PROGRESSたぶん長編になる曦澄3
    兄上がおとなしくなりました
     翌朝、日の出からまもなく、江澄は蓮花湖のほとりにいた。
     桟橋には蓮の花托を山積みにした舟が付けている。
    「では、三つばかりいただいていくぞ」
    「それだけでよろしいのですか。てっきり十や二十はお持ちになるかと」
     舟の老爺が笑って花托を三つ差し出す。蓮の実がぎっしりとつまっている。
     江澄は礼を言って、そのまま湖畔を歩いた。
     湖には蓮花が咲き誇り、清新な光に朝露を輝かせる。
     しばらく行った先には涼亭があった。江家離堂の裏に位置する。
    「おはようございます」
     涼亭には藍曦臣がいた。見慣れた校服ではなく、江家で用意した薄青の深衣をまとっている。似合っていいわけではないが、違和感は拭えない。
     江澄は拱手して、椅子についた。
    「さすが早いな、藍家の者は」
    「ええ、いつもの時間には目が覚めました。それは蓮の花托でしょうか」
    「そうだ」
     江澄は無造作に花托を卓子の上に置き、そのひとつを手に取って、藍曦臣へと差し出した。
    「採ったばかりだ」
    「私に?」
    「これなら食べられるだろう」
     給仕した師弟の話では、昨晩、藍曦臣は粥を一杯しか食さず、いくつか用意した菜には一切手をつけなかったという 2183

    takami180

    PROGRESS続長編曦澄3
    もう少しあなたに近づきたい
     いったい、あの人はなんのために蓮花塢へ来たのやら。
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     御剣の術の修行をはじめたばかりの幼い仙師たちが憧れの視線を向けているのは、空を舞う藍宗主である。
     朝は卯の刻に起き出して、昼までは江澄の政務を手伝い、午後時間ができたからと探しに来てみればこれである。
     遊びに来ているはずなのに、よく働くものだ。
     江澄は窓から身を乗り出した。
    「曦臣!」
     朔月は美しい弧を描いて、窓際に降りてくる。雲夢の空に白い校服がひるがえる。
    「どうしました、江澄」
    「時間が空いたから、誘いに来た。一緒に町に出ないか」
    「ええ、ぜひとも」
     藍曦臣は一度師弟たちの元へ降りていく。江澄も軽い足取りで門までを行く。
     藍曦臣と二人で出かけるのは初めてのことである。とりあえず、包子を食べてもらいたい。あとは、何がしたいのか、二人で考えてみたい。
     友と出かけるときの高揚をひさしぶりに味わっている気がする。
     門前で合流した二人は、徒歩で町へと下りた。
     夕刻前の時間帯、通りは人々で賑わっている。
    「前に食べたのは、蓮の実の包子だったか?」
    「そうですね、あれはと 2167