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    takami180

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    曦澄ワンドロワンライ
    第25回お題「〇〇パロディ」

    澄くんと上司の二人、現代AU。

     牛すじを下茹でしていた片手鍋の火を止めて、江澄くんは水を出して、その下に鍋を置きました。流水で牛すじを洗います。
     片手鍋をざっと洗ってから、牛すじを戻し、水と酒を入れて再び火にかけます。今度は10分くらいです。
    「サラダはどうしたらいいのかな」
     上司がキッチンの端から声をかけました。てきぱきと動く江澄くんとは対照的に、上司は手持ち無沙汰です。
    「そこのボールにさいの目に切ったトマトを入れてあるので」
    「これかな」
    「そうです。それにこれ入れてもらってもいいですか」
     江澄くんはキッチンカウンターにスマホを置きました。トマトで作るドレッシングのレシピが表示されています。使うのは今日買ってきたオリーブオイルとアップルビネガー、それから岩塩とこしょうです。
     上司は計量カップを取り出すと、真剣な表情で調味料の分量をはかります。オリーブオイルのボトルを持つ手が震えているのに気が付いて、江澄くんは吹き出しそうになりました。そこまで緊張しなくても多少分量を間違えたところで食べられないものにはならないからこそ、上司にお願いしていることです。
    「できたよ、これにレタスを入れればいいの?」
    「いえ、ラップして冷蔵庫にしまってください。食事の直前に混ぜ合わせるので」
    「わかった」
     上司はまたしても慎重にラップをかけて、ボールを冷蔵庫にしまいました。澄くんはその間にブロッコリーを切り分けて、専用の蒸し器に入れて電子レンジで温めます。
     タイマーが鳴りました。これで牛すじの下茹でも終わりです。
    「次は何をしたらいいかな」
    「コーヒー入れてください。もうすぐ終わるんで」
    「お茶の準備だね」
     江澄くんは牛すじをざるにあけて、にんじんとじゃがいもの横に並べ、これも買ったばかりの圧力鍋をコンロの上に置きました。
     今日の夕食は上司の希望でビーフシチューです。
     具材をすべて圧力鍋に移し、赤ワインと調味料を入れてふたを閉め、説明書を読みながら火をつけます。しばらくすると蒸気口から湯気が出てきました。そうしたら火力を弱めて、今度は20分のタイマーをかけました。
    「江澄、コーヒーが入ったよ」
    「ありがとうございます」
     ちょうどよいタイミングでおやつの準備も終わったようです。江澄くんがリビングに行くと、ローテーブルにはケーキとコーヒーが並んでいました。
     今日は昼前から調理器具の買い足しと、このバスクチーズケーキを目当てに出かけたのでした。ついでに夕食のバゲットもケーキ屋の近所で買いました。いつものお店とは違うので、これも楽しみです。
    「いただきます」
     江澄くんはまずケーキにメープルシロップをかけました。それから一口、とても濃厚です。
    「これはけっこう……」
    「うん、思っていたより重い」
    「おいしいけれど、お腹にたまるね」
     そして、とても甘くて、コーヒーがとてもおいしくて、江澄くんは幸せな気分で食べ進めました。上司も気に入ったようで無言です。遠出をした甲斐があったというものです。
     食べ終わるころにタイマーが鳴りました。江澄くんはキッチンに戻ると火を止めて、「出来上がり?」と見に来た上司の背をリビングに押し戻しました。
    「まだです。冷ましてからじゃないと、ふたを開けられないので」
    「そうなの?」
    「なので、もうちょっと休憩です」
     二人はソファに戻って、上司は江澄くんにぴったりとくっついて座りました。もうケーキは食べ終わっていますし、江澄くんも文句はありません。
     片手を取られて、指を絡めて握られて、江澄くんは上司にもたれかかりました。
    「そういえば、お疲れさまでした」
    「え?」
    「退職、したじゃないですか」
     上司は小さく「ああ」とつぶやいて、江澄くんの手の甲をなでます。
    「4月からはしばらく学生だからね」
     上司が学生、なんとも言葉の響きが奇妙なことになっていますが、それは事実でした。上司は去年言っていた通りにロースクールを受験し、まさかに合格を勝ち取り、経営陣がうろたえる中、会社にたっぷり準備期間を与えたうえで今月、本当に退職したのです。
    「江澄、これは、提案なのだけどね」
    「はい」
    「一緒に、住んでほしい」
     上司のロースクール合格とは異なり、これは江澄くんの予想の範囲内のことでした。上司がなでている江澄くんの左手の薬指には、一年前に贈られた指輪が光っています。
    「いいですよ。いつ頃がいいんですか」
    「え? いいの?」
     江澄くんは思わず笑いました。どうして上司は断られる前提でいるのでしょう。たしかに海外への移住については保留のままですが、それとこれとでは次元が違うのですから、江澄くんが断る理由はありません。
    「それで、いつ頃、どのあたりに……」
     上司にキスをされて、江澄くんは黙りました。こんなふうに突然キスをされるのも、もう慣れたものです。相変わらず顔は赤くなりますが、慌てることはありません。
    「本当は今すぐがいいんだけど」
    「それは……」
    「まだ会社と書類のやり取りが残っているから、それが終わってからかな」
    「5月の連休とかですか」
    「そうだね」
    「中途半端な時期ですけど」
    「今から探しておけばいい物件も見つかると思うよ」
     上司はまたキスをして、江澄くんも上司の背中に腕を回して、しばらく二人は離れませんでした。
     いつの間にか、圧力鍋の重りは落ちて、時計の針は18時を回っていました。
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