「かっちゃんみたいに美味しくいれられないけど」と出してきたコーヒーはそんな予防線を屁とも思わないほど、
「クッソマズ!」
「だから言ったじゃん!」
「限度ってもんがあんだろうが!」
「僕には不味くないから!」
「そりゃ砂糖牛乳あんだけドッサリ入れりゃなんだって同じだろ! バカ舌がよ!」
「せっかくいれたのにひどいや! 文句言うなら自分でいれろよ!」
「言われなくてもそうするわ!」
言うと同時に立ち上がり、キッチンにカウンターの中に入った。
周囲を見渡す。冷蔵庫も食器棚も調理器具もそのままだ。電気ケトルの残量を確認してスイッチを押し、やりっぱなしのドリッパーをゴミ箱の上でひっくり返してペーパーフィルターごと捨てる。ドリッパーとサーバーを軽く洗い、ペーパーフィルターの接着面を折って開いてドリッパーに装着する。
コーヒー豆は計量スプーンに四杯、湧いた湯を全体にかけて蒸らし、それから細く丁寧に湯を回しかけてじっくり抽出する。
「さすがかっちゃん。いい匂ーい」
のこのこやってきた出久がカウンターから顔を出して、俺の手元に目を細める。
「たりめぇだわ」
出久はカウンターに頬杖をつき、なにがそれほどまで楽しいのか笑みを丸い頬にたくわえて、嵩を増やしていくコーヒーと俺の顔を交互に見つめる。
「んだよ」
「この感じ久しぶりだなって思って」
「あ?」
「ちっちゃいことでケンカして三分後には仲直りしてる、この感じ」
いいよね、と出久は、柔らかい吐息に溶け込ませるように言った。
「そうかよ」と放るように返す。
小さないざこざは絶えずあった。
俺の口の悪さは言うまでもなく、コイツだって、一見聞き分けが良さそうだが、その実、頑固で強情でこれと決めたら絶対に折れない。それだけでは飽き足らず、自分の意見を通そうと俺の機嫌をとって宥めすかそうとしてくるからタチが悪い。そりゃあお前は「いいよね」だろうよ。惚れた方が負けだというのは本当で、結局いつだって、譲るのも歩み寄るのも俺のほうだったんだから。
牛乳をカップに入れてレンジで温め、大さじ山盛り一杯の砂糖を入れたコーヒーに注ぎ入れる。
「ほらよ」
マグカップを出久の前に出し、自分のカップには湯を注ぎ足す。カフェオレに合わせると、ブラックには少し濃い。美味かないが、顔をしかめるほど不味くもない。