秋の夜の夢 9月29日はおれの誕生日だ。
だからといって何かあるってわけじゃねえし、普段と変わらないと思っていたのが、いつからか祝われることも悪くねえと思えるようになった。
そして、今はまた別の理由で特別な日になった。
「ランラン、ぼくだよ。開けて」
29日もあと1時間ほどで終わる頃に聞こえる控えめなノック音と声。
扉を開けると、変わらぬ嶺二の姿がそこにある。
「入れよ」
そう言って迎え入れると、笑顔で「お邪魔しまーす」と中へ入り込む。
靴を脱いで玄関をあがると、おれを見上げてとびきりの笑顔を見せる。
「お誕生日おめでとう、ランラン」
雨に濡れた服から水が滴る。水滴はリビングまで点々と連なる。
用意していたバスタオルを嶺二に渡せば、素直に受け取り濡れた体を拭く。上着を脱がせて預かり、バスルームに干して換気扇を回す。
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