「たまには映画館でも入ってみる？」

オフの日だからと人をルミナスクエアまで呼び出した
本人は　私服にノー鉢巻、伊達メガネまでかける
念の入れようだ
かく言う俺もいつものマフラーがないので落ち着かない

「何か観たいやつでもあるのか」

「ん〜？なんか適当に」

「顔バレとか大丈夫か」

（暗くなっちゃえばさ　誰も僕らなんか見てないよ）

耳打ちしてきた奴の顔は何か企んでいる顔を
していた





……これは大将が観たがってた恋愛映画じゃないか？
周囲がカップルだらけで気まずいというか
待てよ　俺達もカップルと言えなくもない……？
な　ら　い　い　か（開き直り）


「ドリンクとポップコーン買ってきたよ」

悠真が飲み物と山盛りポップコーンを持って
帰ってきた　わざわざ手がベタベタになる
キャラメル味にしなくてもいいだろうに
（バターでも結局汚れるが）

「あんたこんな甘いの大丈夫なのか」

「まさか　ライトさんのノルマだよ
ミルクティーでよかった？」

「それで構わんが　俺ひとりで全部食うのか？」

周りでカップルがイチャつく中でボリボリ
ポップコーンを食えと？何の罰ゲームだ

「手伝ってあげるから」

自分は食わないくせに何を手伝うってんだ？


「はい、あーん♡」

照明が落ちると悠真はポップコーンを摘んで
俺の口元に差し出した

「……自分で食える　一粒一粒やってたら
映画が終わっちまうだろうが」

「僕一度観たやつだから話知ってるし」

（誰と観たんだよ）とツッコミたいのを
抑えて断固拒否していると

「貴重な休みにイチャイチャしたい
僕のお願い　聞いてくれないの……」

こういう時だけ仔犬のふりしやがって
肉食獣のくせに
毎回これに絆される俺も　懲りちゃいない


「ん……」

根負けした俺が仕方なく口を開くと
悠真はニヤニヤしながらポップコーンを押し込んできた
次から次に詰め込んできやがって
俺をネズミだと思ってるのか　頬袋なんか付いてない
苦しくなって近くにあったドリンクを啜ると
悠真のブラックコーヒーだった

「――――！！！」

吐き出さないように必死で冷静さを装いながら
紙コップを悠真に押し付けた

「ごめん　逆だった？」

こいつわざとやったんじゃないだろうな
キャラメル味で多少ましにはなっているが
苦いものは苦いのだ

「間接キスだね」

もっとすごい事散々しただろうがこの助平
やっとの思いで口の中でキャラメル味になった
コーヒーを飲み下すと
すかさず悠真が次のポップコーンを差し出した
いい加減にしろ　手首を掴んで
ポップコーンを摘んだ指ごと口に入れて
指に付いたキャラメルソースを舐め取ってやると
スクリーンの明かり越しに悠真の顔が
赤くなっているのが見える

「……そこまでしてくれるなんて想定外だよ」

「尽くす男なんだ　俺は」

「ポップコーンは持って帰ろうか」

バケツいっぱいのポップコーンはほとんど
減っていないが　郊外の子供達で分ければ
あっという間に無くなるだろう　そんな事より――

「待って　今立ち上がれない」

「ハハッ　ざまあねえな」

「……今夜覚えてろよ」