———ああ、まだ生きてる
毎朝目が覚める度に自分の手が人間の形を
保っている事に安堵する
いつ自分が居なくなってもいいように
私物は必要最低限 人間関係も最小限にしてきたつもりだ
あのひとに出逢うまでは
「港で花火が上がるらしいぞ 見に行かないか」
「いいですね」
ポート・エルピスの花火大会はそこそこ賑わっていて
僕らは人気のない高台に陣取って花火見物していた
クライマックスの連発花火も終わって
会場から帰る人達で港はごった返している
「終わっちまったな」
「結構キレイでしたね」
「あんたの誕生日に花火大会なんて都合がいい
来年も来ような その次も 次の次の年も」
僕に来年があるかなんてわからない それでも――
「そんなに長生き出来るかなぁ」
「出来るかなじゃなくて するんだよ」
「無茶言うなあ」
「… 神って奴は願ったって叶えてくれた試しがない
悪魔の方が聞いてくれそうな願い事ばっかりだ」
「悪魔にくれてやるなんて勿体ないよ
僕のライトさんなのに」
「あんたは絶対叶えちゃくれないから仕方ないだろ
ずっと一緒にいるのもダメ 後を追うのもダメ
これを叶えてくれるなら 何を失ったって構わない」
「――貴方が譲り受けたチャンピオンの座ってのは
僕ひとりの為に捨てられるほど軽いものなの」
「……いじわる言うなよ 俺が捨てられないって
知ってるくせに」
「僕は貴方を知って弱くなったよ いつ死んでも
いいようにしてたのに あれもしたい
これもしたい 未練ばっかりだ
ひとの後髪ぐいぐい引っ張っちゃってさ
後頭部禿げちゃうよ」
「そりゃあいい事聞いた ツルッパゲになるまで
引っ張ってやる」
「やめてよビジュアルで売ってるんだから
もう本当最悪 誰かさんとするのが
気持ち良すぎて死にたくなくなったとか
発情期の犬じゃあるまいし」
「なんだ悠真くんはそんなに俺の尻が好きなのか
本当にかわいいな」
「そうだよ 死ぬのが怖くて仕方ないよ
ライトさんに触れなくなるのが一番辛い
退治されるだけの化け物に人の心なんか
教えないでよ こんな気持ち知りたくなかった」
「死んで英雄になるより
臆病でも卑怯でも生きてくれよ
汚名なら俺も一緒に背負うから」
「あなたの為に生きるよ 1日でも長く
最期まで側にいて」