かけがえのない人よ【たいみつ♀】今からそっち行っていい?
帰宅して部屋着に着替えたところにかかってきた電話の向こうで、三ツ谷がそう言った。分かったと返せば、ほっとしたような声でありがとうと言う。通話を終えて、ソファに腰掛ける。今日は友人の結婚式だと言っていた。短くもない付き合いだから、朝までかも、などと話していたのを思い出す。しかしまだ、20時を回ったばかりだ。二次会が終わったあたりだろうか。三ツ谷の声はどこか静かだった。何かあったのかもしれない。
(…ああ、そうか)
三ツ谷からそうと聞いたことはない。ただ、もしや、と思った。今は違っても、かつては想いを寄せていた相手なのかもしれないと。惚れた女の過去の恋に嫉妬するほどガキじゃない。三ツ谷がノスタルジーを覚えて寂しさを感じたのならば、その手を取って今ここにある愛を伝えてやろうと、気障なことを考えてしまった。
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