Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    retoretopop

    @retoretopop

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 9

    retoretopop

    ☆quiet follow

    青鳥高校 部活後の幼馴染組の日常の会話

    #青鳥高校
    aoboriUniversity

    『デウス エクス マキナ』







    「デウスエクスマキナって知ってる?」

    理科室の隅。黒いカーテンは端に追いやられ窓からはオレンジ色が青に侵食されていく様子が見える。
    退屈そうに三球儀のハンドルを回して、その様子を楽しむでもなく見つめている零斗。彼が独り言のように呟いているのを聞いた


    「あー、えっと、機械仕掛けの神だっけ。もとは演劇の用語の。前に読んだ本にあった気がする」


    零斗の後ろの棚に、今日使った実験器具を仕舞っていく。ここに残って1人片付けをし、今は何もしていない幼馴染を窘められない理由は、まだ日は明るい放課後に遡って説明しよう。



    今日の遊戯部の活動を決めるにあたってみんなマンネリを防ぐためとにかく案を出そうと頭を使って、誰かが「甘いものを食べたい」と言ったのが始まりだった。
    それから 「じゃあ皆で作る?」 「家庭科室は空いてないようですよ」 「理科室にもコンロとか色々あるでしょ!レッツゴー」 と、とんとんと進み、懐かしのカルメ焼きを作る事になった。
    普通のやり方から材料を追加したり、砂糖の代わりに飴を使ってみたり。中学の理科の実験みたいだったけど、これはこれで楽しかった。

    陽野に禍々しい形のカルメ焼きを味見させようとする零斗。
    うわ笑顔でこっちみた、これ俺も巻き込まれちゃうな…

    そんなこんなで今日も遊戯部の活動が終わった。が、片付けをみんなでやるはずがいつの間にかジャンケンでの押し付けあいが始まっていた。
    1人じゃ時間かかるだけだろ…とは考えつくが、楽しさに浮ついて周りの空気に乗りやすくなった自分は、柄にもなく意気揚々と「最初はグー!」なんて唱えてしまう。

    最後の最後で紫世とタイマンになり、眉間に皺を寄せた彼の表情を見て、彼がよく出す手を思い出しそれに負けるように出す。

    ああ恨むぞ友らよ。なんて、思ってもいない語り口調を頭に流してから、「悪いなー」「気をつけて帰って下さい」と足早に帰っていくみんなを見送る

    そこに残ったのが零斗だった。幼馴染のよしみだ、と。
    始めは一緒に、はしゃぎすぎた残骸を片し、カルメのついたお玉を洗浄していたが、器具の水滴を拭く頃には飽きて理科室の備品を散らばらない程度に広げていた
    後は元の場所に戻すぐらいだし、残ってくれていたこともあって注意する気も起こらず今に至る。




    零斗が俺の返答を聞くと継いで話す


    「そうそう。知らない人の為にも簡単に説明すると、物語が混沌としてきた時に急展開で話を畳んじゃうこと」


    知らない人って誰。と突っ込んでもいいが彼の”これ”は今に始まったことじゃないので無視しよう。

    仮にも読書好きの自分にその話をするとは。でもそんな超展開解決されたら俺は嫌だな。俺のよく書く推理小説では、そんな伏線も何も無いご都合主義はご法度だし。


    「それで、それがどうかしたの?また好きなネタってやつ?」


    零斗が腐男子というのは、彼が昔に公言していた時に知った。前ほどはその手の話を俺にすることは減っているが、今も本屋に寄ると自分の近づかないコーナーに行っているので多分まだそういうのが好きなんだろうな。


    「違うぞ。ただそれの神様がいいな〜って思ってさ。」


    親指でくっ と止めた薬指を離し、地球を軽く弾く。三球儀がその力でカタカタと揺れる。



    「そうなの?俺あれそんなに好きじゃないんだよね。理不尽というか、読み手としてはスッキリしない感じが」

    「そうそう、だけど書き手とその神様みたいなやつはスカッとするんじゃないかな。積み上げたブロック蹴っ飛ばすみたいでさ。
    あ、悠汰は推理小説書いてるんだっけ?確かにそれじゃ好きじゃないかもなー」



    俺は片付けを終え、帰るために荷物をまとめ始めた。三球儀だけを残して零斗の周りの備品も全て片付けている。


    「だけどほら、今地球にとんでもない上に、どうしようもない事が起きていて、誰もが救いを求めるその時、ドカン…!と強い力で…」


    零斗は、ぐぐぐ っと今にも力を解放したがる薬指を親指で支えていた。
    まだまだと言わんばかりに、更にぐぐっと力を込めて今にもそれは指先の地球目掛けて飛んでいきそうで


    ぱしっ と軽い音がする。俺が零斗の頭をはたいた音だ。


    「いた」

    「あのね、それ学校の備品。壊したらどうするんだよ…」


    ため息混じりにそう指摘すると にへらと笑い適当に謝って三球儀を棚に戻した。

    まったくこの幼馴染みは。ずっとじっとしているから今はローテンションなのだと思っていたが、かなり気分が上がっているようだ。


    俺はデウスエクスマキナは要らない。と思う。好き嫌いなんかじゃない。
    零斗の言うような地球レベルのどうしようも無いことも起きない、今日で例えるならば中学時代の授業をなぞる遊びで過ごして許されるのが、結局俺達の日常である。

    幼馴染の発言は、それを再確認させるだけのものなのだろう。回りくどいけども、ありふれた日常への肯定なのかもしれない。これは俺の推測だけどね。

    校門からでて、ふと空を見上げればオレンジを少しだけ残し殆どは青から黒へと変わっていく。それはいつも通り。急展開はやっぱり起こらないのだ。そしてそのいつも通りの景色を、神様志望の幼馴染は
    「こういう景色いいな、一日がやっとおわってスッキリした〜って感じ」
    なんて言うのだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💴💴💴💯👍👍👍👍👍👍👍👍☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works