テリサイ原稿没「それで、今日は何を知りたい?」
三十一回目のセリフは、淡白に唱えられた。
「そうだね。……今日の芝居はどうだった?」
「どうも何も。あんたはどうなんだ」
対面に置かれた一人がけのソファに、盗賊と学者は思い思いに座っていた。盗賊は粗野で自由な体勢を取り、学者は品良く背筋を伸ばし、脚を組んでいた。頬杖をやめ、手のひらを相手に向けた後、両手を膝の上で組む。
「キミと同一人物には思えなかった。キミは演技となると本当に人が変わったように振る舞うね。見事だった」
拍手でもしたかったのだろうが、そんなことは初日に断っている。小さく息をついて学者はしみじみと感想を述べる。
「たとえ舞台の上の、仮初めの姿であったとしても、彼女のことを愛し狂しく思う姿は皆が釘付けになっていた」
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