アネモネ 気付いたらここにいた。
目を開けて、光のさす方を向いて。そうしたら、僕は恋をしていました。
優しい声に呼ばれた。
はじめてのそれは、言葉ではなく音と言ったほうが正しくて、僕はちっともその意味がわからなかった。それよりここは狭くて暗くて、僕は何度も体をひねって、藻掻いて足掻いて、暴れ回って、やっと呼吸をした。ひゅう、と喉の奥で冷たい空気が鳴いて、ようやく僕は世界に生まれてきた。
目を開けて、光のさす方を向いたらそこには優しい何かがいて、僕はそれを世界で一番大切にしないといけないと思った。なぜだろう。わからないけれど、僕を最初に見つけてくれた、最初に僕を呼んだ、その手は僕を抱き上げて、僕ははじめて温もりを知った。こうして僕は、生まれながらに彼女に恋をした。
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