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    だいふく

    煉宇、宇煉、宇煉宇。大人向けあります。

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    だいふく

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    Shutter Flower
    ブライダルフォトグラファーの宇髄さんとフローリストの煉獄さんのお話。
    宇煉です、冒頭のみの公開。少しずつ足していきます。

    #宇煉
    uRefinery

    Shutter Flower 空が抜けるように青い。遠くの方が少し白く澄んでいて、柔らかな雲がまるで絹のヴェールのように広がっている。六月の土曜日、大安吉日、正に絵に描いたような結婚式日和。
     焼瓦造りの教会は隣に小さな可愛らしいレストランが併設されており、入口の門の脇の桜の木は芽吹いた鮮やかな緑が陽の光を浴びてきらきらと葉の合間から光を落としている。
     これから参列者がやって来るのであろうレストランの庭先で、晴れの日を祝うのに文句のつけようがない日だと、ずっしりとしたニキロ近くあるカメラを持って宇髄天元は美しい空を仰ぎ見た。
     一生に一度の晴れ舞台、それを綺麗に、そして出来るならお洒落に、ついでに今どきの分かりやすい言葉で言うのならば映えるように残したいと願う二人は少なくない。
     前撮り、写真だけ、結婚式当日の写真、後撮り、マタニティ、子どもと一緒に、多種多様な希望に沿って、出来る限りイメージ通りに、可能ならばそのイメージよりも上へ。この小さな式場と契約を結んでいる宇髄はいつも式の日は先に会場入りして会場や飾られている花を撮っておく。アルバムの隙間やら表紙に使える事が多いし、それを印刷して結婚の報告に使う夫婦もいるのだ。そんな加工もサービスでやっていた。
     庭先にはラメやらパールやらが入ったハート形の風船がゆらゆらと初夏の風に吹かれて揺れている。今日のめでたい二人は外で友人たちとガーデンウェディングらしく、置いてある丸いテーブルも白いレースが掛けられて、そよそよたなびきながら主役の登場を待っていた。
     二人の門出を祝う空へとレンズを向け、風船も配置してハートに焦点を当てる。そのまま数度シャッターを切ると小さな液晶画面を確認してよしよしと頷き、次はとテーブルを飾っている花へと視線を向けた。
     小さな向日葵のブーケが各テーブルに置かれており、そこにも焦点を当てるといつもよりも花が綺麗に見える気がして宇髄は一瞬手を止める。
     今までの装飾と少し違うような気がする。
     新しいフローリストを探しているのだと以前オーナーが言っていたが恐らく変わったのだろう。周りを邪魔せず控えめながらもしっかりと色を主張して会場を明るくしている。
     明るい向日葵の色合いとそれを邪魔しない小さな菜の花、背景に溶け込むようなカスミソウに青空がとても良く合って、けれど茹だるような真夏を感じさせない爽やかさもある。写真同様やはり何かを作ると言う事はセンスがある程度必要なのだろうと向日葵を見下ろしてから宇髄はその太陽のような花を数枚撮った。
     門の方で何やら声が聞こえて宇髄はそちらの方を振り返った。本日の主役が到着したようで、宇髄の忙しい一日が幕を開ける。
     最終的に使うかは分からないが、メイクやドレスを整えている所、一方その頃の新郎。ウェルカムブースの撮影に参列者が来たら一人一度は写るように。ヴェールダウンに挙式、バージンロードにリングボーイに誓いのキス、それからブーケトス。
     披露宴に移動したらレストランでの料理にファーストバイト、庭先でのデザートビュッフェにシャンパンタワー、撮らなければならない物は山ほどあって休む暇は無い。
     それでもやはり宇髄の目に留まったのは会場の花や花嫁が持っているブーケ、お色直しの時のブーケも色味がとても良かった。ドレスにぴったりだったし、カラフルなのに嫌味がなくて、でも存在感もある。少しだけ和の雰囲気があって花手水のような少しの神聖さを感じた。なのにドレスの邪魔をしない。
     あまり花ばかりはと思いながらも、それこそ映えるのだから仕方ない。早い時間枠だと挙式と披露宴が終わっても時刻はまだ十四時過ぎ。午前中の式は昼食を食べて参列者を見送って、あとはもう夕方から楽しい二次会の始まり。
     人が居なくなったレストランでスタッフたちは忙しなく片付けを始める、17時からはまた挙式が入っているのだ。
     夜の挙式は宇髄は参加しないと決まっていた。参列者の友人がカメラマンをするとかで、前撮りだけ撮らせてもらった二人だと記憶している。
     今は向日葵が飾られているが、夜にはどんな花になるのか。そう思って宇髄は人の消えたテーブルで咲いている向日葵を軽く撫でた。
     夜の花が気にはなるがそこまで残って撮るのもどうかと思って手を引く。
    「失礼します!」
     スタジオに戻って編集でもしようかと思った時、随分と元気な声が正面玄関の方から聞こえて来た。
     聞いた事のない声、この時間に来るならば次の挙式の関係者か。その声の後に続くように何かを押すのか引き摺るのか、ガラガラと小さな車輪の音が聞こえてくる。
     レストラン会場に突然現れたその男は大きなカートを押しており、そこには溢れんばかりの花たちが乗せられていた。白とピンクを基調としたその花たちはきっとこれからこの会場を彩るのだろうとすぐに分かるもの。
     そして宇髄の瞳に飛び込んできたその鮮やかさは、カートの花に限ったことではない。人目を引く髪の色、はっきりとした顔立ち、そして良く通る大きな声と、それこそ花が咲いたとでも表現したくなるような明るい笑顔。
     男は会場に飾られている沢山の向日葵を見まわしてからそのカートを邪魔にならないように会場の隅へと動かして一度下がると今度は何も入っていない空のカートを運んで来る。
     レストランに入ってきた時に二人の視線がぶつかり、そのまま会釈を交わした。
     きっと空のカートに向日葵は入れられるのだろう。純粋に花がどうなるのか気になった。捨てられてしまうには勿体ないと感じるし、だからといって売り物にはならない。
     宇髄は会場のメインの席、新郎新婦が座るその卓の花を集め始めた姿を見やり、そちらへと足を向けた。
    「どうも、新しいフローリストの人?」
     声を掛けられると向日葵をまとめて傷まないように重ねていた手を止めて男は宇髄を見上げて笑った。
    「そう呼ばれると何だかくすぐったくも感じるが、うむ、花屋だな!今月から此処でお世話になっている」
     そうだ、と言うなり手元の向日葵と菜の花、それからカスミソウをまとめて柔らかな空色の不織布で包み、くるりと麻紐で縛ると小さなブーケを作り、そのまま宇髄へと差し出す。
    「名乗りもせずにすまない、俺は煉獄と言う。知り合えた記念に」
    「俺に?花なんて滅多に貰う事ねえな、さんきゅ。俺は宇髄っての。ここで写真撮ってる」
     宇髄が持っているカメラを掲げるように見せると、煉獄の表情がぱっと明るくなる。
    「では、パンフレットの写真も君が?」
    「ああ、そうそう、俺が撮ったやつ」
    「そうなのか、教会の写真がとても美しかったのを覚えている」
    「あ、ほんと?あれは俺もお気に入り」
    「誰が撮っているのかとずっと思っていたんだ、会えてよかった」
     煉獄は右手を差し出して宇髄へと差し向け、宇髄もその手を見下ろすと軽く握手を交わす。挨拶の時に握手をするなんて中々ないなと思いつつも暖かい掌に宇髄は瞳を緩めた。
    「俺もフローリスト変わったってすぐにわかった、今日の花はすげー綺麗だったから。あ、そうだ、これ」
     手を離すと宇髄は持っているカメラを持ち上げて小さな液晶を煉獄に見せる。今日の朝に撮った青空と向日葵がポストカードのように映し出されていて、それを見た煉獄は嬉しそうに瞳を細め、先程宇髄に手渡したブーケを視線で示した。
    「とても美しい、同じ色だな、向日葵には空が合うと思ってその色にしたんだ」
     宇髄は改めて貰ったブーケを見下ろす。鮮やかな黄色を優しい空が包み込んでいて、初夏の爽やかさを閉じ込めたように手の中で揺れていた。
     煉獄の指先はまた向日葵たちを集め始め、宇髄は煉獄が仕事中であった事を思い出す。
    「この花って、どうすんの?」
    「これか、まとめてブーケにして二次会の会場に飾る。あとは小さめのものを幾つか作って参加者に配ったりだな」
    「へえ、すげえな」
    「ここで終わり、では可哀想だからな」
     そう言って煉獄は向日葵を軽く撫でる。
    「成程、どうなるのか気になってた。じゃあ有り難くこれは貰っとくな」
    「うむ、そうしてくれ」
    「んじゃ、お邪魔しました。夜の花撮れねえのは残念だけど、また」
    「有難う、美しく撮ってもらえて嬉しかった!」
     宇髄はひらりと軽く手を振って、煉獄は軽く会釈を返した。
     レンズやストロボ、三脚と持ってきた物を片付けをしながら遠目に煉獄を眺めているとどうやら花を選り分けているようで、丁寧にカートに戻しては次のテーブルへと移動して行く。花を扱う指先はとても優しく丁寧で思わず宇髄はその手に見入った。子供を褒めるような、恋人を慈しむような、そんな愛しさを感じる指先。気が付くと宇髄はカメラを構えていて、向日葵を労わるように花弁を確かめているその姿を写真に収めていた。
     指先は少し荒れているように見えた、水仕事だからなのかと思うが花屋の具体的な仕事と言うものがすぐには分からず宇髄は首を傾げる。華やかなだけではない沢山の作業が存在するのだろうと先程貰った小さなブーケを見下ろした。花など、買ったことがない。
     手元の小さな液晶に映っているその姿は、ただ純粋に美しく、派手で綺麗な男だと宇髄は思った。
     花の可憐さに負けない鮮やかさがある、色合いは派手なのに何故か柔らかい雰囲気があって、花顔と言う言葉が頭に浮かんだ。頭の中で色とりどりの花が咲き乱れて行くイメージが広がるのを感じてまたカメラを構えたくなってしまい、宇髄は無意識に持ち上げたカメラを下ろす。
     いきなり初対面のでかい男に声をかけられて写真を撮らせてくれは怖いだろうと肩を竦める。そもそも向こうは仕事中だ。
    「っても、これ盗撮か」
     勝手に撮ってしまった一枚、宇髄の指先は消去のボタンへと一瞬伸びるも、結局その一枚は消されることは無かった。
     荷物を撤収させる前に、宇髄は陽の光が差し込む窓際でブーケを置き、それをまた写真に収める。
     可愛らしいそれを片手に持ったまま、最後に会釈を交わして会場を後にすると、帰り道の車の中、このブーケの保存方法について聞いていなかったなと思い出し、宇髄は小さく唸った。
    「聞いときゃ良かった」
     枯らしそう、と一人呟きながら今度会った時は色々聞こうと宇髄は心に決めたのだった。
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