雷「あ、今光った」
「そうだな」
夜空を明るく眩い光が覆い尽くすとその数秒後に低く鳴り響く雷鳴。ごろごろ、とはよく童話などで表現される擬音だろうが実際はそんな可愛い物ではなく、腹の底に響くような重く低い音で熱帯夜を埋め尽くす。
二人は敢えて部屋の電気を消して真っ暗にし、同じタオルケットに包まってベットの上で夜空を眺めていた。
そろそろ寝ようかと共にベッドに入った所で突然降り出したバケツをひっくり返したような豪雨。
耳の良い宇髄が笑ってしまうほどの雨の音に揃ってカーテンを開けて窓を見た所で、部屋の中を照らすほどの稲光と、怒号のような雷鼓が鳴り響いた。
何となくそのまま寝るのが勿体なくて見上げる空は分厚い黒い雲に覆われて全く雨が止む様子は無く、宇髄は煉獄の肩へと頭を預けて少しだけ甘えるように首筋に鼻を寄せる。
煉獄は柔らかく首を傾けて宇髄の細い銀糸へと唇を寄せた。
「どうした、怖いのか」
「怖くないですー。どっちかって言うと何かテンション上がる」
「それは、何となく分かるな」
「何かわくわくするんだよな」
「非日常だからだろうか」
「秒数数えたりしねえ?」
「光ってからのか」
「そうそう」
会話の最中にも空は眩く光り、それを合図に宇髄が指を折り始める。
二本目の指を折った所で鳴り響いたのは雷鳴、と言うよりは衝撃音。
空が割れたのかと思うほどの音が夜を包んだ。
「うっわ……!」
「どこかに落ちたな」
「な、絶対落ちたわ」
煉獄の手が宇髄の腰元を抱き寄せるように動き、力に逆らう事なく身を寄せると肩に頭を乗せたままの宇髄は煉獄を仰ぎ見た。
薄闇の中、炎のような瞳と視線が合い、宇髄は双眸を緩く細める。
「どした」
「君の耳には、大きすぎるのではないかと思って」
そう言って顔を寄せると宇髄の耳の辺りへと口付けを落とす。
「……擽ってえ」
「知っている」
「確信犯かよ」
可笑しそうに肩を揺らす宇髄の唇が煉獄の首筋に触れ、そこから甘く柔らかく温もりが広がっていく。
体温を分けるようなしぐさはまるで猫のようで、こうやって甘えている姿を見るのも堪らなく愛しく感じるか、また煉獄の唇は宇髄の耳へと触れた。
「……煉獄」
「ん?」
「寝る?」
耳朶へと軽く歯が立てられて柔らかい唇で挟まれる。
「……ん、こら」
「寝たくない、と?」
吐息を混じえて、低い声が耳の奥にそっと流れ込む。
また部屋が光って、互いの姿が浮かび上がった。
音が鳴るより先に煉獄の舌が耳へと差し入れられて形を辿り、直接水音を宇髄へと届ける。
ぞくりと背中を這うような震えが身体を包み、宇髄は煉獄の腕を軽く掴む。
「待っ、……ちょ、ばか」
「……どうした?」
また言葉と共に熱を持った舌先が耳へと忍び込む、水音と、熱っぽい吐息、それから「宇髄」と優しく低く呼ばれる音。
腹の奥が熱くなるようで、宇髄はぺしんと煉獄の手をそのまま叩いた。
「分かって、やってんだろ、……っ、ん、もう、煉獄……!」
「寝ようか?」
先程自分が問うた言葉を返されて宇髄は煉獄の顔を見遣る。
緩く首を傾げて問いかけてくるその瞳には欲が滲んで居るのが分かった。
「答え分かってんのに聞くのずるい」
室内がまた一瞬眩く光って、宇髄の顔を明るく照らし出す。
「────」
轟音に掻き消されたかのような宇髄の小さなお強請りは、煉獄の耳にははっきりと届いて、そっと顔を覗き込むと煉獄の指先が宇髄の頬を柔らかく撫で上げる。
「……ずるいのは、君だな」
「っはは、おあいこ」
互いの影が重なって、二つの身体がタオルケットと共に縺れるようにシーツに沈む。
まだ、雨は止まないようだった。