「気持ちえいことして金がもらえるらあて、女は得じゃにゃあ」
週末にうちで飲まないかい?と、以蔵さんを誘って仕事帰りにお酒とおつまみを買い込んで、二人で僕の住むマンションに向かっている最中のことだった。
以蔵さんが「素人風俗〇〇円ポッキリ!」と書かれた、ぎらぎらと派手なネオン広告を横目に言ってのけたのだ。
「そうかなぁ。僕はそうは思えないけど」
いわゆる「夜の世界」がそんなに簡単なことだと思えなかったし、何よりそういった仕事を生業としている女性達を軽んじているように思えて、否定的な言葉に力がこもった。
「客がこんでも金はもらえるろう。下手な奴もおるか知らんけんど、出させりゃえいばあじゃろ?男なんぞこするばあやき、楽勝じゃあ」
以蔵さんとは幼馴染で気楽な間柄というのもあって、お互い思ったことを気軽にいいあえるのはいいことなんだけれど、たまにお互いの主張が引くに引けなくなってしまうのが悩みどころで……そこから喧嘩に発展することだって珍しくない。
「いいお客さんばかりならいいけどさ。嫌な相手だって来るだろうし、その気もない相手となんて、楽しくも気持ちよくもないし、僕らは男なんだから女性は楽だなんてわからないだろ」
「おぅおぅ、おモテになる男は言うことが違いますにゃあ」
少し皮肉じみた口調を前に、僕の方も口がとまらない。
「そんな言い方しなくたっていいだろ。実際男相手がどうかなんてわからないのに、それを楽してるって決めつけるのはどうかと思うな」
「男なら余計にわかるろう!」
「じゃあ、以蔵さんは僕がお金を払うからって言ったらどうするんだい?その気のない相手で、よくわかっている男なわけだけど。できるのかい?」
言うと、以蔵さんがきょとりとした顔をした。
「僕も男相手はよくわからないし、そうだなぁ……素股でもいいよ」
なんだか話がそれてきたなぁと思ったものの、僕の方も引くに引けなくなってきた。それから、少しずるい考もあった。
拒否されたところで、冗談だって言ってしまえばいいと思っていたんだ。
「はぁ!?おまん、そがな趣味やったか!?」
案の定、以蔵さんは声も大きくひるんだ様子だ。
「以蔵さんがいいだしたんだろ。男同士の方がわかってるから楽だって。それにほら、じゃあ誰とでもってわけにいかなかっただろ?」
--もちろん冗談だよ--
予定通りに言おうとして僕が口を開けると、以蔵さんがしたり顔をした。
「は!そう言やわしを言い負かせるち思うたか。おまんの考えそうなことじゃにゃあ。えいぞ。泣きみそ龍馬君の可愛い可愛いちんぽ、可愛がっちゃろうか」
まさか以蔵さんの負けん気に火が付いてしまうとは……。
一瞬、僕が言葉を失ったのを以蔵さんがどう受け取ったのかはさておき、してやったりといった顔の彼は到着したマンションの入り口で僕をこついた。
「酒がぬるうなる!はよ鍵あけぇ」
急に機嫌よくなった以蔵さんにせかされ、僕は玄関の扉を開けた。