猫の日いそがなきゃ。もっと早く走らなきゃ。
庭園の花々は、今日も鮮やかに咲き誇っている。だが、私はそれらを堪能することもできず、ただひらすらに花々の間を走っていた。裾に向かって大きく広がったドレスは重く、走りやすいとはとても言えない。
前に前にという意識だけが先走って、脚が思うように動いてくれない。どんどん息も上がっていく。
苦しさで頭がいっぱいになりそうになったとき、前方、斜め下の方向から声が掛けられた。
「プライド、こちらです!」
黒猫の姿になっているステイルは、振り向きながらも前に駆ける脚を止めない。
そういえば、どうして彼は猫なのだろう。人間ではなかったかしら。
けれど、そんな違和感は「早くしないと!」と急かしてくるステイルの鳴き声に掻き消されてしまう。
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