七夕とキス夜、イーストン魔法学校敷地内にて。
七夕送り:7月7日、願い事を書いた紙を川に流すとそれが叶うとされる。
中等部の頃、周りに嘲笑れ、1人になりたくて逃げた図書室の奥。なんとなく目に着いた本をパラパラと捲るとそのような事が書かれてあった。願いが叶うと聞いて真っ先に思い浮かぶのは兄レイン・エイムズ。神格者となってから関わることが無くなった。きっとこんな落ちこぼれな弟なんて見たくも話したくもないのだろう、このまま自分と関わることなく地位も名誉も手に入れて雲の上のような存在と結婚して幸せな家庭を築くのかもしれない。兄を愛していてもそこに自分はいない。だけど、兄はとても強いから、神格者ならきっとたくさんの危ない目に合う。だから、こうして誰にも知られずにひっそりと兄の幸せを願うことを許して欲しい。
それは7月7日に行われるものだが兄の幸せを願うのに一年に一回で足りる訳がない。学校内で兄を見かけた時、兄への愛を思う度、新聞で兄を見る度にこうして夜抜け出しては敷地内の川に願い事を書いた紙を紙の船に乗せて流していた。
『兄様が怪我をしませんように』
『兄様が幸せでありますように』
『兄様が長生きできますように』
いくつ願ったなんて分からない、きっとこの夜空に瞬く星の数ほど祈っている。勿論、バレないように紙は水で溶けるやつだ。兄は有言実行の人だ。きっとこれがバレたら冷たい目で見られるのかもしれないな。フィン・エイムズこと自分は兄であるレインに恋をしている。それを自覚したのは確か兄が神格者になってから。それまでは普通にやり取りがあったから何とも思わなかった、けどこうして兄と疎遠になってから自覚して、失恋した。落ちこぼれの自分なんかを兄が愛してくれるはずはない。だからこうして疎遠になったんだ。ただでさえ親が居なく世間から冷たい目にあっているというのに血の繋がった弟が兄に恋をしているなんて知ったらどんな目で見られるか。兄に多大な迷惑をかけてしまう。だからこれは墓まで持っている秘密。自分なんかが兄の恋人になれるだなんて思っていないけど兄の幸せを願うことくらい許して欲しい。そしてもし兄が結婚することになったら自分は笑顔で送り出そう。それが自分に出来る唯一のことだ。
神格者選抜試験後、またこうやってひっそりと川へ行く。イノセント・ゼロとの戦いも近い。その時は兄も行くのだろう。だからいつもより多めに願う。いつもの定位置。ここは人が寄り付かない割には魔物などいなく、空気も心地よく星も良く見えるからとても気にいっていた。ローブから取り出した紙の船に願い事を書いた紙を乗せてそっと流していく。
「どうか兄様が怪我なく過ごせますように」
「どうか兄様が幸せでありますように」
「どうか兄様が生きていられますように」
「……どうか兄様に、恋をしていることを、この恋を見られませんように」
「そこで何してるんだ」
「うわぁっ!?」
急に背後から声をかけられ驚く。後ろを振り返るとそこにはワインレッドの髪に何を考えているのかよく分からない瞳、ジャラジャラと大量のアクセサリーをつけたオルカ寮の天才、カルパッチョ・ローヤンだった。体が震える、あの神格者試験で自分を散々に痛めつけマッシュに頭をかち割られた男。体が震える、あの時の恐怖をまだ覚えていた。自分は座っていて相手は立っていて、逃げられるとは思えないが思わず後ずさる。
「何故逃げるんだ」
「なんでって……!」
カルパッチョへの恐怖も勿論あるがそれ以上に先程のアレを聞かれたのが大きい。この男は恋愛なんてしなさそうだしむしろ鼻で笑いそうだが落ちこぼれの弟が天才の兄に恋をしているなんてバレたらなんて言われるか、何をされるか分かったものでは無い。ずり、ずりと後ずさる度にカルパッチョは近づく。
「あっ!?」
「おい!」
後ろが川だと言うことをすっかり忘れていた。手が滑り、体が浮く。落ちる!!と衝撃を覚悟するがその衝撃は来なかった。
「全く、馬鹿だろ君」
ふわりと、微かに香るムスクとウッド系の香り。恐らくカルパッチョがつけている香水だろう。服越しに伝わる肌の体温。冷たい目をする男の肌は冷たい。1つ学べた。この後どうされるのか、正直この男のことだからこのまま落としされそうな気がするしまた痛めつけられるかもしれない。けど手は離されることはなかった。ずっと抱き締められいる、いやなんで?
「兄に恋をしているのか」
「っ!」
最悪だ、聞かれていた。体に力が入り逃げようとするが抑え込まれ逃げることが出来ない。上背はあるがそこまで力があるようには見えないのにどこにそんな力があるのか。
「離してよ……!」
「離さない」
「なん、で……!んッ……」
なんで離してくれないのか。顔を上げて懇願しようとした矢先、唇を塞がれた。今、何が起きた?分からない、だけどカルパッチョの整った顔がとても近くにあって睫毛が長くてフサフサで、いい匂いがして、角度を変えてキスされていることしか分からない。
「んッ、ふぅ、ん、んんっ!」
空気を取り込もうと唇をあけるとヌルリと舌が入り込んでくる。カルパッチョの舌が口内を蹂躙していく。経験したことない快感に頭がチカチカする。背筋がゾクゾク震えて何も考えられない。上の歯も下の歯も口蓋も舐められて、舌を絡められ唾液を送り込まれ飲まされる。頑張ってコクコクと飲み込めばよく出来ましたと言わんばかりにまた舌を絡められる。いつの間にか地面に押し倒されてこり、川からは少し離れていた。逃げようとしても逃げられない。段々と敏感な部分が分かってきたのかそこを執拗に責められる。カルパッチョの手は耳を撫でたり、お腹や胸を撫でていく。絶妙なソフトタッチで触るものだから反応してしまう。なんでこの男はこんなに上手いんだ、天才はそこも天才なのか。そうして数分、いやきっと数分以上経ってからようやく口を離してくれた。おかげで自分の口はベタベタだ。
「にゃんでこんにゃこと……」
「僕のことしか考えられないだろ?」
「へ?」
「試験からずっと君のことが頭にいる。雑魚の癖に僕の頭に居座るのが嫌だし、僕には恐怖して怯えた顔しかしない癖にレインエイムズにはあんな蕩けた顔して兄のレインエイムズに恋してるし。君がレインエイムズに恋していることがとても腹立つ。そのせいで僕の方に何も向けないのとても腹立つ」
「え、えっと」
そんなことを言われても困る。確かに兄に恋してるしハグやキスもそれ以上されたい。その時の兄様はきっと雄の色気がすごいんだろうけど。
「分かってない顔だな」
「そ、そんなこと言われても困るよ……!第一君僕のこと嫌いなんだろう!?」
「うん。でもだからと言って僕の方見ないのは腹立つ」
「いや暴論……!」
「あの試験で弱いくせに僕に立ち向かってきた君を欲しいと思った」
「えっ」
「君の体を隅々まで手に入れたいし、君の心が僕にだけむくようにしたい」
「えっえっ」
「自分以外見て欲しくないし僕以外を写す目なんてくり抜いてやりたい。お前が悲しむところを見たくないし僕の手で幸せに笑うところを見たい」
「えっえっえっ」
「フィンエイムズの全部が欲しい」
なんだこのヤンデレは。いくらなんでも物騒すぎやしないか。この男こんなにヤンデレだったとは、怖い、怖すぎる。今の話が本当だとカルパッチョは自分に執着していることになるがかなり怖い。……けど、自分を見る時の僅かに紅潮した頬や、優しく蹂躙するキスはこっちを害そうという気が無いのは分かる。だけど心の準備が追いつかない。
「これからお前を手に入れる為に毎日会いに行くしキスもするし、慣れてきたらそれ以上もするから」
「へっ!?」
「分かった?」
スラリとナイフを出される。そんなものを出されてはコクコクと頷くしかない。自分が頷いたのを確認するとカルパッチョは満足そうに微笑んだ。
「最後までしたいけど、夜も遅いからな。今日はここまでにしてやる。……スリープ」
「少し隈が出来ている。どうせ兄を想って眠れない日があったか、夢に兄が出てきたかは知らないけどもうそんなことにはならないから安心しろよ」
ウトウトと眠気が襲ってくる。
「カル、パッチョ……」
「……おやすみ。『グッドフェロー』これでお前はもう兄を夢見て苦しむことは無い」
最後に見たのは微笑むカルパッチョの姿だった。
補足 スリープ▶睡眠魔法
グッドフェロー▶夢を操作する魔法。カルパッチョはフィンに兄を夢で見なくなる魔法を掛けました。
これからカルパッチョは毎日フィンに会いますし毎日キスをします。カルパッチョはエスコート出来そう(天才だしそれなりに良い家柄っぽいのでエスコートは身につけられてそう)だし姐さんとこの寮生なので姐さんに相談してテンション上がった姐さんにスパダリというかフィンが兄で苦しむ度にキスしますし、フィンもカルパッチョの物騒な優しさに惹かれてくっつきます。多分兄様卒業後にカルパッチョVS兄様になり周りの建物壊す大惨事になりそう。