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    想いは琥珀のなかに

    ##鍾タル

    ※3章ネタバレ注意

    大きな音を立てて、琥珀が割れる。
    その様子を見て、タルタリヤはほっと息をついた。

    仲間の中ではかなりの戦力で、危険な任務には必ずと言ってもほど同行するタルタリヤだが、彼には1つだけできないことがあった。

    「……。」

    タルタリヤは眉を顰め、目の前の砕けた琥珀を見下ろす。
    彼は、採掘が非常に不得意だった。弓を武器にしているから仕方ないのだが、双剣に変えても難しいことに変わりない。だから、こうして仲間に毎度毎度頼んでいる。

    「今日は大きな収穫はなさそうだね」
    「ああ、そうみたいだ。まったく、もう少し俺が活躍できる場っていうのがほしいな、相棒」
    「はは、ごめんごめん」

    侵入者を忌み嫌う仙人の仕業で、大きな琥珀からは生き物が採掘される。…割れた瞬間に襲われることもしばしあるが。タルタリヤは琥珀の欠片を一つ取り、太陽の光にかざしてみた。「彼」の瞳に似た色だった。

    「鍾離先生、元気にしてるかな」
    「どうだろう、最近会っていないね」
    「まぁ、どうせ先生のことだし?のんびり一人でお茶でも飲んでるんじゃない?」
    「うん、そう思うよ」

    キラキラと光るそれが眩しくて、タルタリヤは目を細めた。

    あの日の記憶が、ふと蘇る。
    所詮、タルタリヤは、彼の茶番に付き合わされた道化だった。
    彼の璃月に対する愛を見誤っていた。

    「早く会いたいよ、先生」

    もう一度会って、見極めたい。
    神ではなく、人として生きようとする鍾離という男。
    負けっぱなしではつまらない。会って、戦って、ぼろぼろに打ち負かして、「ほらこれが人間って奴さ」と教えてやりたい。

    「なあ、相棒」
    「なに?」
    「俺って、鍾離先生に勝てると思う?」

    相棒は目を瞬いたあと、気まずそうに笑った。

    「う、うーん…難しいんじゃない?」

    率直な意見にタルタリヤは声を上げて笑った。

    「あっはは!やっぱりそう思うんだ!」
    「え、やっぱりって…」
    「なんでもないさ、気にしないでくれ」

    タルタリヤはひとしきり笑ったあと、手中の琥珀を投げ捨てる。その時は何も気にしていなかったタルタリヤだが、その後、後悔する羽目になる。

    ◇◆◇

    「よろしく頼む」

    目の前に佇む男の顔を見て、タルタリヤは苦笑いした。

    「『公子』殿」
    「久しぶり、鍾離先生。まさかあんたまで仲間になるとは思わなかった」

    肩を竦めるタルタリヤに、鍾離がわずかに微笑む。

    「ああ、やっと肩の荷が降りたからな」
    「……」

    その表情に、タルタリヤは言いかけた言葉を飲み込んだ。

    少し妙な空気が流れる鍾離とタルタリヤを差し置いて、仲間たちが任務を話を始める。どうやら本日も不足している石珀の採掘を進めるようだ。

    「……げっ」

    タルタリヤは思わず声を上げてしまう。その声を聞いて、鍾離の眉がぴくりと動いた。

    「どうした、『公子』殿」
    「……今日も俺は役に立てないな、て思ってね」
    「…うん、そうか。よし」

    鍾離は何か考える素振りを見せたあと、タルタリヤの腕をぐいと引っ張った。タルタリヤが目を白黒をさせている間に、鍾離が仲間のもとに歩み寄る。

    「その任務、俺たちに任せてもらえないだろうか」
    「え、ちょ、は?!」

    仲間たちは快諾し、あれよあれよという間に、石珀の採掘は鍾離とタルタリヤの仕事となってしまったのだ。



    息をつく間もなくそのまま琥牢山へと飛び、鍾離とタルタリヤは2人きりになる。頭上を鷹が飛んでいるのを見て、タルタリヤは深く溜息をついた。

    「言っておくけど、俺は戦力外だからね」
    「分かっている。『公子』殿はそこで見ておけばいい」
    「…なんか、腹立つんだよなあ」
    「何か言ったか、『公子』殿」
    「なんでもないよ。じゃあ、あとはよろしくね」

    やることが無いタルタリヤは、草の上で寝転がろうとした瞬間。

    「……っ!」

    鍾離から放たれた元素の力が大地を駆け巡り、タルタリヤの神経が逆立つ。見れば鍾離の手から放たれた岩元素の力が周囲と共鳴し、岩石がひとつ残らず一瞬にしてぱらぱらと砕け散っていた。

    「……なっ」
    「よし、次の場所に行こう。…『公子』殿?」

    唖然としたまま動けないタルタリヤと、何事もなかったかのように鉱石を拾い上げる鍾離。何かおかしいことでもあったのか、と言いたげな鍾離の表情に、タルタリヤは少し口元を引き攣らせた。

    「なるほどね、これを俺に見せたかったわけか」
    「ああ、『公子』殿の採掘も楽になるだろう」
    「…あのさ、なんで俺が先生と一緒にいるのが前提なわけ?」
    「鉱石の採掘は人の生活には欠かせない。武器の鋳造や鍛錬には特に不可欠なものだ。『公子』殿にも悪い話ではないと思うが」
    「はいはい、わかったよ」

    タルタリヤは思わず頭を掻く。目の前の男は、少し傍若無人なのかもしれない。目の前を歩く鍾離がひときわ大きな琥珀に手を当てる。

    「一見、元素の流れがないように見える鉱石でも、こうして手を当てればその流れを感じ取ることができる。そして、流れを見極めた上で、己の元素を込めると、自ずと鉱石が砕け散る」

    触れている鍾離の手から元素が出て、琥珀にひびが入る。ぐっと力を込めた瞬間、ばきり、と大きな音を立てて、琥珀が割れた。タルタリヤは思わず感嘆する。流石岩王帝君だ、と思った瞬間。

    ”早く会いたいよ、先生”

    風に乗って聞き覚えのある声が聞こえた。正確にいえば、タルタリヤの声だった。
    突然のことに思わず固まるタルタリヤに、鍾離が振り返った。

    「今の声は、『公子』殿か」
    「……」

    何も答えないタルタリヤに、鍾離が考え始めた。

    「琥珀というのは、ありとあらゆるものを閉じ込める。それは、宝物も、生命も、また、想いも同じということか」
    「……お願い、忘れて。先生」

    タルタリヤが自身の顔を手で覆い隠す。その耳は赤い。そんなタルタリヤを見て、鍾離は口角を上げた。



    「すまない、『公子』殿。俺は記憶力はいいんだ」
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