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    fkstrike_yoi

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    fkstrike_yoi

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    初夏の長谷津でのひとこまSSです。
    全年齢向けです。

    初夏、風の通る部屋で。「勇利ーぃ、どこにいる?」
     日本で行われるいくつかのアイスショーの合間に長谷津へ帰郷した。
     勇利のふるさとはすっかり俺のふるさとのような場所になった。

     アイスキャッスルはいいリンクだ。
     最新鋭とはいえないけれど、よく手入れされた施設も、丁寧に製氷されたリンクも居心地がいい。
     ひとつだけチムピオーンと違うのは一般営業を兼ねているので選手の練習時間が早朝や夜間になることだろう。
     朝の5時から練習なんて耳を疑ったけれど、慣れれば早朝のフレッシュな空気は心地いいし、なにより勇利とふたりきりで練習できる環境はそれはそれでいいものだ。

     早朝の練習を終えて勇利の実家に帰宅すると、営業前の温泉の一番風呂が待っている。
     これがまた気持ちよくて、せわしないようでどこかのんびりした長谷津での勇利との時間はLOVEとLIFEに満ちているものだ。

     風呂あがりの勇利を捕まえて手入れしてやるのが俺の日課だ。
     勇利はスケーターのくせに容姿に無頓着で髪も乾かさずに、肌のケアすらしないでどこかへいってしまう。
     あの美しい黒髪が、もちもちの肌が傷んだり弱ったりすることを考えると恐ろしくなる。
     だから俺が手を掛けてやらないと、というのは、勇利に触れる口実なのだろうけれど。

     とにかく勇利の髪にオイルを塗り乾かして、肌にローションとクリームを塗りたくり、ついでにいっぱい撫でまわして勇利を堪能したい……なんて、ちょっとだけ邪な気持ちで勇利を探していたのだけれど……。

    「ゆう……り、ああ、こんなとこにいたのか」
     二階建ての母屋の二階に勇利のや、俺にあてがってくれた部屋があるのだけれど。
     一階の縁側のある仏間で勇利は寝息とよだれをたらしていた。
    「全く、こんなことでスリーピングビューティーになっていたのかい……」
     廊下側からはちょうど死角になる部屋の端。
     縁側の方のガラス戸は解放されていて、海町特有の少し潮の匂いを含んだ涼しい風が入り込んでいる。
     
     五月の意外と強い日差しは避けて、日陰になる絶妙な場所に、勇利は猫の子のように少し背を丸めて寝転がっていた。
     シーズンオフとはいえ、勇利の日々の練習はハードだ。
     年を重ねただけ身体のダメージには慎重にならざるを得ないが、元が丈夫にできているのだろう。
     華奢な腰つきに反して、骨太でしなやかな身体。
     観るものを惹き付けてやまない唯一無二のステップも、いまだ世界で数えるほどしか跳べない高難度のジャンプも、この美しい身体と、日々の鍛練が生み出すものだ。
     早朝からランニング、オンアイスの練習、それから陸上トレーニングとハードなメニューをこなしたら、眠くもなるだろう。
     ピーテルのチムピオーンのリンクは選手専用で時間外のトレーニングはなくはないが、朝の五時からなんていう時間から練習をすることはまずない。
     そういう意味でこの国のスケーターは過酷だ。
     勇利がチムピオーンに来てから、こんなタイムスケジュールになるのは帰省したときだけで、疲れもでるのだろう。
     髪が濡れたままなのはいただけないが、起こしてしまうのもかわいそうで、押し入れからタオルケットを取り出して腹にかけてやる。
     勇利がたてる寝息はあまりに気持ち良さそうで、俺にまで眠気が伝染してきたようだ。
     ふわぶとした頭に抗えず、勇利の隣を陣取り、寄り添おうとしたんだけれど。
    「ん、んん、あつい……」
     抱き込もうとした腕は、あっさりと拒絶されてしまった。
     連れない恋人を抱き締めるのはあきらめて、少し恨みがましく、やわらかなほっぺをつつく。
     全く、こういうところ、勇利だよねぇ……。
     そうおもってるそばから、嫌々するように顔を背けられてしまった。
     抱き締めたくてたまらないけれど、無理強いする気は起きず、俺のにくらしい子豚ちゃんの艶やかなまだ少し湿っぽい真っ黒な頭を眺めるしかできなくなってしまう。
     それでも……。
    「ゔぃくとるぅ~」
     甘ったれた声が俺を呼ぶ。
    「どうしたんだい?」
     俺の問いかけに返事はなくて、寝言だってわかるのだけれど……。
     夢の中の勇利は俺に甘えているのだろうか。
     その夢の俺に嫉妬しつつも、ころんとこっちを向いた勇利の顔はふにゃふにゃに幸せそうで……。
     それだけで、俺はこの子を許してしまうのだ。
     
     
     
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