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    fkstrike_yoi

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    fkstrike_yoi

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    勇利くんがおたおめのお話。
    30歳の勇利くんと、それを支えるコーチのお話を書いてみました⛸️✨

    特別でない特別な日に 誕生日……といっても、毎年グランプリシリーズが終わって、ファイナルまでの短い期間でどれだけプログラムをブラッシュアップできるか、一秒でも惜しくて、練習に時間を費やしている期間だ。
     ルーティンを変えたり、コンディションに影響するようなことは避けたくて、全日本が終わるまでは特別なことはしないでもらっている。

     早朝から走って、朝の貸し切りの時間に滑って、筋トレして、バレエのレッスンをしてもらい、また一般営業が終わった夜のリンクで滑る。
     フィギュアスケーターの一日なんて地味なもんだ。
     ピーテルなら選手専用リンクで昼間も滑り放題だけれど、今年はわがままをいって長谷津を拠点にさせてもらってる。
     現役を退いたヴィクトルは僕の専属コーチではあるものの、様々なことを調整して日本についてきてくれたのには本当に頭が下がる。

     練習が終わって買える頃には実家の温泉の営業もおわっていて、ヴィクトルと貸し切りの風呂に入ることも多い。
     本当は営業が終わったらさっさと清掃にはいりたいだろうに、僕の家族は何も言わずただ、帰宅が深夜になろうとも男子風呂をそのまま開けておいてくれる。
     昔はそういう気遣いが変なプレッシャーに感じることもあったけれど、今は素直に応援してもらえているのが嬉しい。
    「はー……やっぱうちの温泉最高……」
     お湯に浸かると身体中の緊張していた筋肉がほぐれていく気がする。
    「うん、これがあるだけで長谷津に戻ってきてよかったと思うよ」
     貸し切りの露天風呂の中で、ヴィクトルは僕を抱き寄せる。
     ヴィクトルの絵に描いたような美しい筋肉をまとった裸の身体にいちいちドキドキした日が遠い日のようだ。
     いまはその腕のあたたかさが心地よくて、素直にその胸に頭を寄せると聴こえる、とくん、とくん、とアスリート特有のゆったりした鼓動が僕の心を穏やかに導いてくれる。

    「おいで」
     お風呂から上がって母屋の二階に戻る。
     隣の僕の部屋にもベッドはあるけど、ヴィクトルの使っている元宴会場の部屋にある大きなベッドで一緒に眠る。
     その前にヴィクトルは僕の身体をほぐすようなマッサージをしてくれる。
    「今日はふくらはぎが張ってるね。少しオーバーワークかもしれない」
     ヴィクトルは長谷津にくるたびに、ずっとアイスキャッスルのトレーナーをしてくれてる整体の先生のところに通っていた。
     最初は自分のコンディションのためだと思っていたんだけれど、違ったんだ。
    「そっかなぁ……自分では全然気づかなかったけど……」
     こうして僕の身体をケアできるように、僕の身体のほぐし方を学んでいたんだという。
     『勇利のコーチだからね』、と明かされた時にはすごくびっくりしたし、感動した。
     だってあのヴィクトル・ニキフォロフが、その手で僕をマッサージしてるとかありえないでしよ?
     なんて思ったのは見透かされてて、『こら、コーチとして必要なことを覚えただけだよ』と叱られたもんだ。
     今では毎晩、当たり前のようにこんな至福の時間を過ごしているけど……。
    「そろそろいいよ、ヴィクトルも疲れてるでしょ」
     ランニングこそ自転車でついてくるだけの日もあるけれど、ヴィクトルは実質僕のトレーニングにすべて付き合ってくれてるし、リンクでだってサイドで見ているよりは、一緒に滑って調整をしてくれる。
     何度でもお手本で滑ってくれるし、ジャンプだって跳ぶこともある。
    「だーめ」
     それでもヴィクトルが手を休めることはなくて、全身に触れてくれるそのあたたかい手は的確に僕を癒してくれる。
    「勇利には一日でも長く、勇利が滑りたいスケートを続けて欲しいんだよ」
     今日僕は三十という節目の歳を迎えた。
     二十代前半でもうベテランと言われるようなフィギュアスケートの競技で、ヴィクトル自身も三十路を過ぎるくらいまで滑り続けていたからこそ、僕の不安は的確に見抜かれている。
    「長谷津のリンクは貸切で練習できるのが早朝や深夜になるけど、それでも温泉があるのはいいよね」
     ヴィクトルは、今シーズンは長谷津に帰りたいという僕のわがままを二つ返事で認めてくれた。
    「うん……どこか特別傷めたりした訳じゃないけど……」
     それでも長年冷たく固い氷の上で、スケートシューズに締め上げつづけ、重力に逆らってジャンプを跳びつづけた身体は、悲鳴をあげないわけではない。
    「わかってるよ。だからこそ、俺の手も素直にうけとめてよね」
     ヴィクトルの手が、繊細に僕の身体を守るように労るように触れてくれる。
     なんだか、泣きそうだよ。
    「俺の子豚ちゃんは、三十になっても泣き虫さんだね」
     うつ伏せになっていても、このコーチにはお見通しだろう。
     さりげなく髪に唇が触れた。
    「……ヴィクトルが、泣かせるようなこと、言った」
     たいそうな言いがかりなのはわかってる。
     そんな僕をそのまま受け止めてくれるのは、もう、わかってるから。
    「うんうん、俺のせいだね。何時だって泣いていいよ。俺が責任もって受け止めるからさ」
     リンクの上意外では、とことん僕を甘やかしてくれる。

     ずっと、ずっと、貰いつづけてる。
     家族からも、ヴィクトルからも。
     こんな、特大のプレゼントを。
    「全部、スケートで返すから」
    「うん、勇利の金メダルにキスするのを楽しみにしてるよ」
     そうだね、グランプリファイナルと全日本の金メダルを獲って、全日本のフリーの日には、最高のプレゼントを返そう。
     そう、心に誓ったんだ。
     

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