ポディウムにエスコート「勝生勇利、師匠のヴィクトル・ニキフォロフを破っての優勝です……!」
ポディウムの真ん中以外に乗るのは何年ぶりだろうか。
競技者としての悔しさと、コーチ兼振り付け師としての誇らしさの入り交じった感情は、しかし嫌なものではなかった。
俺は悔いのない全力で滑りきったし、勇利はそれを実力を発揮して上回った。
自分でいうのもなんだかではあるが、歴史が変わった日だ。
リンクに君臨し続けたリビングレジェンドの伝説がひとつ終わった。
どこか清々しい気持ちでふたつめに高いところに立つと、リンクには勇利のフリーの曲が鳴り響く。
コールされてリンクに飛び出してきた勇利は、ポディウムの前にたどりつくと、まず三位の選手とハグをして、それから俺の前に来た。
ちょっと戸惑った顔すらしてる勇利を抱き締める。
おっと、このまま抱き締めていたいけど、表彰式がすすまなくなってしまう。
離しがたいくらい誇らしくて愛しい子を泣く泣く離す。
しかし勇利はポディウムに上がろうとしなかった。
上目遣いにチョコレートが溶けたような瞳をキラキラさせて何かねだるように俺を見つめている。
あー……全く、酷い子だ。
教え子に追い越されて二位になってしまったコーチに何をねだるんだ。
憎らしくて、愛しくて堪らないね。
ポディウムの上でしゃがむと、ちょうど勇利の脇の下に腕を差し出しやすい位置にいた。
計算ずくのその場所か。
「ほら、おいで……」
ポディウムの前に立ったままの勇利を抱き上げて、その真ん中、一番高いところに乗っけてやる。
「ありがと。うわぁ、これがヴィクトルがずっと見てた眺めかぁ……」
初優勝の感想がそれ?
隣でそれを聞く男の身にもなってくれ。
でも、本当に、おめでとう。
やっと勇利の金メダルにキス、できるね。
あきらかにむすっとしている。
先にポディウムに乗っかっていた勇利は、樹立したばかりの歴代最高得点をたった数分後に俺に更新されてちょっとばかりご機嫌ななめのようだ。
勇利だって好きだって言ったじゃないか、俺の今季のプログラム。
勇利にかっこいいとこ見せたくて、俺、頑張ったんだよ。
表彰式がおわって、写真撮影して、ポディウムから降りようとする勇利に手を差し出す。
「いらない」
勇利はその手に目もくれず、ぷいっと、ポディウムから飛び降りてしまう。
かわいい俺の王子様はエスコートはいらないらしい。
せいぜい次は俺に勝って、またポディウムに抱き上げさせてね。