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    ファルディア

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    ファルディア

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    バッドエンド体質

    利き小説企画に提出していたもの!
    かなーーーーーり前に書いた話!!

    バッドエンド体質ハッピーエンドを望むほど、僕はバッドエンドへ向かっている。
    だから、だからこそ、最悪の結末を迎える前に、自分の手で。




    【バッドエンド体質】




    ひらりはらりと桃色の花びらが舞っている。
    春、桜の季節。

    「卒業、してしまったな」
    「卒業、してしまったねえ」

    オレと類は、いつものように屋上にいた。
    お互いの手には丸められた卒業証書。
    今日は神山高校の卒業式だった。
    オレたちは今日、この学校を卒業する。

    オレたちは、初めて向かい合って会話をしたこの屋上で、今までの出来事に思いを馳せている。
    オレは最高の仲間を得て────照れくさいが、最高の恋人も得た。
    昔は考えもしなかった青春を、それはもう一生の思い出になるんじゃないかというほど経験した。
    その楽しい日々も、今日で一区切りか。

    「なんだかあっという間だったな。お前と出会ってからは、特に」
    「それは僕の台詞だよ。君と出会ってから本当に毎日が楽しかった。こんなに楽しい高校生活を送れるなんて思っていなかったよ」

    類は愛おしむような眼差しで卒業証書を見つめていた。
    そんなに嬉しいのか、卒業できたことが。
    それはまぁ、反省文を書いた回数は数え切れんし、伝説になりそうな事件も起こした。
    中庭やプールを爆発させるようなことだってしてしまった。
    卒業できるのか余程不安だったんだろうか?

    「ああ、本当に、楽しかった」
    「類?」
    「楽しかったなあ、うん」

    類はオレに視線を移す。
    目尻を下げて、溢れんばかりの好きを詰め込んだような視線をオレに。

    「司くん」
    「どうした?」
    「別れようか、僕達」






    オレは、何を言われたのか理解できなかった。

    「……は?」
    「解消しよう、恋人関係」
    「いや突然言われても。……オレは何か、嫌われるようなことをしてしまったか?」

    類がそんなことをいうなんて、余程のことがあったのか。
    オレが知らぬうちに何か、良くない部分を踏み抜いたか。
    ここ最近の事を一気に回想していると、類は首を横に振った。

    「大丈夫、司くんは何もしていないよ」
    「では何故だ?」
    「……そうだねえ」

    類は、オレから視線を外してどこか遠くへ目を向ける。

    「僕は、バッドエンドが嫌いなんだ」

    突然何を言い出すんだ、こいつは。
    バッドエンド、物語の面白さ云々を気にしないのであれば、そんなのオレだって好きじゃない。
    なにより、オレたちワンダーランズ✕ショウタイムにバッドエンドなんて似合わない。

    「それと別れることの関係が読めんのだが」
    「最近、未来のことを考えるんだ」

    未来。
    近いもので言えばオレと類の進学。
    オレたちは別の大学へ進み、各々が必要と感じたものを学びに行く。
    お互い実家から通うのには困難で、一人暮らしをすることを決めていた。
    オレはいかにカッコよく類に合鍵を渡すかシチュエーションを考えたりしていたんだが。

    類が見ているのはそんな近い未来のことではないだろう。

    「この先未来へ進んでいくということは、今のままではいられなくなるということだ」
    「まあ、そうだな」
    「僕達の関係だって変わってしまう」
    「そうだな、もっと近い場所に収まるかもしれん」
    「……逆だよ、遠い場所になってしまうんだ。きっと」

    ……何を言っているんだ?
    類は少しだけ、オレと距離を取って続ける。

    「君は、僕の最も近くにきてくれた。でも、近づきすぎてしまったらあとは離れるだけだと思わないかい?」
    「類、どうした?」
    「司くん、僕は、バッドエンド体質なんだよ」

    バッドエンド体質、そんな体質聞いたことがないぞ。
    バッドエンド、悪い結末、そんな体質あってたまるか。

    「類、」
    「末永く幸せに暮らしました、めでたしめでたし。僕はその言葉が好きだった。幸せを掴んだ主人公は、ずっと幸せでいられるのだと思っていた。だけど、世界は物語のように優しくない。本のようには綴じられないし、読むのを放棄することだってできない。望んだように時間は進んでいかない。……昔からそうなんだ、この時間がずっと続けばいいのにと思うほど、酷い結末を迎えてしまう。欲すれば欲するほど、僕の物語はバッドエンドへ向かっていく」

    今まで類が積み上げてきた物語。
    オレが浮かべるのは、『ひとりぼっちの錬金術師』の物語。
    ひとりぼっちの錬金術師はショーによって町の人々に受け入れられた、そこで終わればハッピーエンド。
    ところが物語には続きがあって、錬金術師はまたひとりぼっちになってしまう。
    そこで終わればバッドエンドだ。
    バッドエンド、だった。
    今はオレたちがいるだろう。
    オレたちがいて、ひとりぼっちの錬金術師ではなくなっただろう。
    なのに、

    「お前の物語は、バッドエンド……なのか?今」

    不安になってオレは聞いたが、類は首を横に振った。

    「いいや、バッドエンドとは真逆だ。今の僕は、幸福しか感じていない」
    「じゃあどうしてそんな事を」
    「僕はね、この物語だけはバッドエンドにしたくない。最悪な結末を迎える前に、今の幸せな思いのまま、終わらせたい」
    「それが、別れるに繋がるのか」
    「そう」

    類の声は本当に穏やかで、何も思い残すことはないと言っているようだ。
    オレの気持ちも知らないで。

    「君が好きだよ。どうしようもないほど好きだ。でも望みすぎると全部壊れてしまう。みんな僕から離れていく。君も僕から離れていくかもしれない。この先どうしようもなく傷つくくらいなら、せめて深くならないように守らないといけないんだ」
    「本のように綴じて抱え込むつもりか?」
    「僕達は変わらずにはいられない。今の僕達を大切にしまっておきたいんだ。いつか決定的な別離が訪れる前に」


     

    ────ああこのひとは、本当に、臆病ものだ!




    「お前は自分の物語を守ろうとしているみたいだがオレはどうなる。お前がいないならオレの物語はバッドエンドへ一直線だが。今!」
    「え?」
    「何が、バッドエンドだ。お前が決めるな。オレたちふたりの物語をお前が決めるな!」
    「……僕の物語だよ。これは僕の物語。その性質は僕が1番わかってる」
    「じゃあお前の物語、オレが全部ハッピーエンドに変えてやる!」

    類は目を見開いてオレを凝視し、躊躇うように口を動かしてから物語を零した。

    「錬金術師の元から町人はどんどん去っていってしまいました。錬金術師はひとりぼっちになってしまいました」
    「旅の一座がやってきて、錬金術師は彼等とショーをすることにしました」

    オレは即座に声を重ねる。
    そして進む。
    前へ、前へ、未来へと!
    1歩、

    「錬金術師は一座とショーをしました。ですが相容れないと座長を傷つけ、錬金術師はひとりぼっちになってしまいました」
    「座長は錬金術師を追いかけ、錬金術師はまた座長とショーをすることにしました」

    1歩、

    「錬金術師には仲間ができました。ですがその仲間達はそれぞれの道を進むことを決めて、錬金術師はまたひとりぼっちになってしまいました」
    「時が流れ、成長した仲間達と共に錬金術師は素晴らしいショーをするのでした」

    1歩、足を進めて目の前に。

    「錬金術師は宝物を手に入れました。ですがその宝物は────」
    「その宝物は!生涯錬金術師の隣で輝き続けました!!」

    オレは類の肩を掴んで一気に抱き寄せた。
    こん、と手に持っていた卒業証書が足元のコンクリートにぶつかり跳ねる。

    「つかさくん」
    「錬金術師は、ずっと宝物を手放しませんでした!」
    「つかさくん」
    「錬金術師は、幸せになりました!!」
    「つかさく、」
    「神代類は!オレと!幸せになりました!!」

    オレの背中に手が回ってきて、オレ以上の力で抱きしめてくる。
    顔を埋められた肩口がじわりと濡れた。
    泣いているのか。

    「……本当に、僕の物語をハッピーエンドにしていいの。してくれるの」
    「エンド、なんてつけるな。この先ずっと、オレというスターがお前を笑顔にし続けてやる!!」
    「本当に?」
    「本当だ!だから!!」

    記しておけ。
    ふたりは末永く幸せに暮らしていくのです、と。



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