パティシエなタルタリヤと大学の先生な鍾離先生の話⑤の1あぁ……なんであんな事言ってしまったんだろうか。本日何度目かも分からない溜息を目の前のボールの中に吐き出す。それと共に脳内に浮かんだ情景に呻く代わりに思わずぎゅう、と手の中の生地を握りこんでしまい、あ、と意識が瞬時に其方へと向いた。ちょっと痛いじゃないの、と。まるで文句を言うかのように、ふわりと鼻先を掠めたラム酒とスパイスの香り。それに、ごめんごめんと口の中で呟いて、色とりどりの宝石を含んだ柔らかなその塊を、丁寧に、しかし力は抜かず丸めて捏ねていく。えーと、次はどうするんだったか。そう、記憶の中のレシピを浮かべつつ、ひたすらこねこねと。普段作っているケーキや焼き菓子ではなかなかすることの無いその作業は、なんだか新鮮な上に無心になれて、今のこのどうしようも無い羞恥心に満ちた心情的を落ち着かせるにはちょうど良かった。
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