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    通気口

    @tukiko_niji

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    7章終了後・Bマルファスキャラスト後のマルファス&サムの一幕。

    さよなら親友またきっと、「マルファス」
     馴染みのある声に、僕は手に持っていた紙を反射的に伏せた。
     伏せてしまった。それがサインだ。
     おまえには見せたくない・知られたくない・言いたくない。
     会いたくはない。

     王都・クヴァール広場の路地を奥へ奥へと入り込んだ一角にある酒場。お世辞にも治安がいいとは言い難い店。それも開店前だ。
     強面の店主が予定のない侵入者に――僕の親友にじろりと視線を送る。
    「何しに来たんだ、サム。学生が来るような所じゃないぞ?」
    「それはマルファスも同じだろ」
    「僕は連れを待ってる。おまえは何の用なんだ?」
    「用ってわけじゃないけど……」
     サムはふてくされたような顔になった。子供の頃みたいだ。
    「友達の顔を見かけたら、声くらいかけるだろ。君のことを嗅ぎまわってるわけじゃない」
     確かに、僕が王都に出入りしている以上姿を見る機会はある。僕を見かけて追いかけてきたということか。
    「……そうだな。僕が悪かった。でも今日は都合が悪いんだ。一杯奢るから、飲んだらすぐ帰れよ」
    「じゃあ、マルファスと同じ物を頼む」
     僕と店主がサムの顔をまじまじと見た。
    「後悔するなよ」
    「え? 何だよ? すごい強い酒とか?」
     僕の隣に座ったサムの前に、店主が白い液体の入ったグラスを置いた。
     サムはそれを口に含み……なんとも言えない顔で僕を見た。
    「なに、これ」
    「牛乳の炭酸割りだ」
     奥の部屋で情報屋と話している『仲間』のおすすめだ。
     店ごとに味が違うんだと押し切られたものの、僕の舌には同じようにマズ……口には合わず持て余していたものだった。
     サムはそれでもグラスをあおり、一気に飲み下して咳こんだ。
    「おい、大丈夫か?」
    「……ああ。歓迎されてないみたいだから、今日は帰る」
    「言っとくけど、そういう意味で飲ませたわけじゃない。連れの味覚が独特なんだ」
     サムは曖昧に笑った。本当か嘘か図りかねている顔で。
    「じゃあな、マルファス。またきっと」
    「きっとじゃない。絶対だ」
     僕が言い切ると、今度はちゃんと笑って店を出ていく。その背中を目で追って……僕は椅子の背にもたれかかった。

     伏せていた紙を表にする。
     つたない言葉で綴られたジズの作文。空き時間に添削しようと持ってきていた物だ。本来なら、見せられないようなものじゃない。
     教師のボランティアをしているのだと言えばよかったのかもしれない。
     嘘をつかずに。
     真実に触れずに。

     僕は皺のよった作文を指先で伸ばす。
     ジズらしいのびやかな文字が、紙いっぱいに咲いている。

     ジズは、みんなでケーキをつくったので、もってかえったケーキをおとうたんとおかあたんといっしょにケーキをたべて、おなかいっぱいになったのでケーキをいっしょにつくったセーレおにいたんとアモンおにいたんとキマリスおねえたんとブエルおねえたんとジズは幻獣を使ってヴィータの村を焼き払ったことがあるのではと疑ったことはおありですか?

     彼らの過去をお尋ねになったことがありますか?
     ご友人が幻獣に襲われたのはいつですか?
     あなたの生徒たちが転生をする前、まだメギドの戦士だった頃?
     純生メギドの仲間は何をしていた時でしょう?
     ご友人の仇は、あなたのすぐ側にあるのでは?

     ヴィータを殺した全ての者は誰かの仇となりましょう。
     暴かれますか。
     我らメギドすべてがヴィータに犯した罪を。
     断罪されますか。

     あなた自身のことも、マルファス?

     ……瞬きをすれば僕を責める言葉は消えて、ジズのささやかな幸福だけが綴られている。
     僕らの日常は薄氷の上にある。
     踏み間違えれば世界は砕け、こごえる死の海に沈んでしまう。

    「話もせず帰しちまっていいのかい? ヴィータの人生は意外と短いぜ」
     店主が独り言のように言った。
     人望がないと言われる調停者だが、彼のまわりに集まるのはおせっかいが多い。
    「それは痛いほど知ってるよ。でも、今じゃない」
     僕は自分のグラスを取ると、白い液体を口にした。
     あいつ、よくこんなものを一気飲みできたな。
     口当たりの悪い炭酸が舌を刺す。
     乳くさい臭いが喉に絡みついて、後悔のように離れない。
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