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    weedspine

    気ままな落書き集積所。

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    weedspine

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    従バロワンドロライ3 お題「暁」あたらしい朝が来た。

    暁星きたる霧のない空が朝焼けに燃え、新しい一日の幕開けを倫敦に告げている。
    バンジークスは執務室の窓越しに街が目覚めるさまを眺めながら、今頃
    出航したであろう極東の弁護士たちを思っていた。
    港もきっと晴れていて、未来ある旅立ちをこの朝焼けが彩ったことだろう。

    帰国の日時は御琴羽教授から聞いていた。
    親しい者たちは見送りに行ったのだろう。自分も行くべきか悩んだが、
    ”死神”が顔を出して水を差すよりも、検事局から旅路の無事を祈る方が
    ふさわしく思えた。
    所詮、自分と彼らは裁判を通しての関係だったのだ。…一人を除いて。

    「なんだ、もう来ていたのか!」

    感慨にふける最中、扉が開く音と同時に飛び込んできた大声に驚き振り向くと
    同じく驚いた顔をした亜双義一真が立っていた。

    「アソーギ?なぜここに…」

    「今日から職務復帰か?」

    質問が重なり、お互い言葉が詰まる。口火をきったのは亜双義だった。

    「俺は検事として貴公のもとで学ぶことにした」

    「聞いていないぞ」

    「机の上を見ていないのか?通達の書類があるだろう」

    言われて卓上を見るが、書類が重なっておりすぐには見つかりそうにない。
    やれやれとぼやきながら亜双義が紙の海を漁り、目当てのものを見つけるとバンジークスに渡す。
    そこには確かに、彼が言ったとおりのことが書いてあった。一体どんな手を使ったのか、想像するのが怖い。

    「俺はまだこの国で何も学んでいない。国に持ち帰れるものもない。
     日本の法についてはまずは成歩堂に託す。今はアイツの方が適任だ」

    亜双義が纏っていたマントを脱げば、両腰に佩いていた刀が洋刀ひとつになっている。
    口ぶりからするに、成歩堂へ預けたのだろう。

    「貴公に並ぶ検事となった暁には、胸をはって国に帰ろう」

    堂々と宣言するが、バンジークスにとって何もかも初耳である。軽く眩暈がして眉間を押さえた。

    「勝手に決めるな」

    「そもそも、貴公を倫敦に留めたのは俺だ。それを放っておくような薄情者だと思ったのか」

    師と仰ぐはずの人を相手に、まるで咎めるような口ぶりである。

    「そういう問題ではないし、貴君の情の深浅など知らぬ」

    かつてともに過ごしたのは、記憶を失っていた寡黙な従者である。その後顔を合わせたのは
    極秘裁判の時であり、落ち着いて話をする機会などついぞなかった。

    「だからこれから知ってもらおう。亜双義一真という人間を」

    不遜、無礼、無謀…そしる言葉は際限なく浮かべど、目の前で呵々と笑う青年の放つ
    目が焼かれるような眩しさは、夜が明けたばかりの倫敦法曹界の混迷に立ち向かうにあたり
    心強いことも事実である。
    だが思惑通りに動くのは悔しく、まだ頷く気にはなれなかった。

    「その志は分かったが、なぜ学ぶのが私のもとなのだ」

    「俺が知る限り一番優秀な検事だからだ」

    「断られるとは思わないのか」

    「全く。貴公が情け深く押しに弱いことは十分知っているからな」

    悪びれなく笑う様に、バンジークスは降参するしかなかった。

    新しい日々が、始まったのだ。

    -完-

    ※暁星(ぎょうせい):夜明けの空に消え残る星。
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