Maelstrom西ラノシア、シリウス大灯台付近。
幻影諸島の隠れ浜に、ウェドは静かに降り立った。波の音がやけに遠く感じる。
「言いつけは守ったようだな。いい子だ、ウェド」
低く気怠げな声と共に、背後の岩陰から赤い影が姿を現した。ウェドはゆっくりと向き直り、少しの挙動も見逃すまいと体の力を抜いて睨みつける。
「気安く呼ぶな、アルダシア・ガラム。お前に従ったつもりもない」
「だがお前はここへ来た。取引に応じる気はあるんだろ」
「…確信に足るものが無いのなら、ここに用はない」
アルダシアはわざとらしく大きくため息をつき、鼻で笑って見せた。
「証拠を見せろというやつか。なに、今にわかるさ。お前にはどうあれ手を…いや、その身を貸してもらう」
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