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    AstRaging

    エメトセルク沼にどっぷりしてます。
    ヒカセン(ヤミセン)とエメトセルクのなんやかんやの投稿が多いと思います。たまにオルシュファンとかが飛び出るかもしれない。

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    AstRaging

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    原稿麺(@SageNoodles)さんがTwitterに投稿されたイラスト(同調の闇が降り注ぐ)を拝見した時にシャキーンと来たお話。
    2度目のゾディアークへの生贄~世界分断の間のお話。アゼムとエメトセルクメインですが、アゼムは終末の災厄で亡くなり、ヒュトロダエウスは2度目の贄に含まれていた、という設定です。
    設定的に5.0~6.0のネタバレを含みます。素敵なイラストに巡り会えた事に感謝を。

    Dying Hope安寧の地を求め、黒いローブを身に纏った集団が行く宛もなく彷徨う様子は災厄のはるか昔に文献で見掛けた殉教者のようだと、その先頭をいくエメトセルクは自嘲したが、その表情は動かなかった。

    そんな精神的余力すらなかった、という方が正解だった。
    降り注いだ流星雨を発端に、アーモロートも、地位も、名誉も、何もかも失い、彼にとって無二の親友であった者達も喪われた。
    大地は荒れ果て、星全体のエーテルのバランスも著しく乱れ、ただ歩くだけでもエーテルが身体の外へ流れ出ていく。
    終末の災厄で傷付いた者の中には、自然界がエーテルのバランスを戻そうとするその働きに耐える事が出来ず、還ってしまう者までいた。
    少しでも心が休まる場所を求めて、彼らは行く宛もなく彷徨っていた。
    その間に数え切れないほどの魂が還っても、振り返る余裕も、弔う余裕も最早どこにも無かった。

    アゼムを欠いた十四人委員会はゾディアークを星の理として創造し、荒れ果てた星を再生しようとした。
    事実、ゾディアークは望めば望みを叶えた。……膨大な数の贄を、その都度要求しながら。
    既に2度、ゾディアークに膨大な贄を捧げて星の環境を改善した。
    災厄を切り抜けた多くはない生存者達は、星の再生のために喜んでその身を捧げ、闇にその身を喰われる断末魔を上げた。

    他とは異なる視界を有するからこそ、エメトセルクには視えてしまっていた。
    ゾディアークの贄になり喰われた者の魂は、決して星海に還る事はない。
    永遠にゾディアークに囚われ続ける。我が物顔で大地の果てに居座り続けるゾディアークの内側にその魂が視える度、エメトセルクは唇を噛んで顔を伏せるしか無かった。

    「が…ア”……ァ…ッ」

    目と口から「何か」が溢れ、零れる。
    それは、エメトセルクが本来有していた良質なエーテルだった。黄色く変色し、固形となって溢れていた。
    ゾディアークの創造後、まず十四人委員会の面々に、次いで他の生き残り達に異変が生じた。
    ゾディアーク創造により生じた膨大な闇のエーテルが降り注ぎ、或いは創造者達に逆流していた。相反する光のエーテルを押し出すほどの闇が全ての同胞に「闇と同調せよ」と闇を押し付けてきていた。
    「お前達は最初からこうだったのだ」とでも言わんばかりに、彼らが本来有するエーテルを闇で上書きするだけに留まらず、体内で創り出されるエーテルすら闇に染め上げられつつあった。
    エーテルで構築されたローブに既にそれが顕著に現れていた。まるでゾディアークの殉教者であるかのような装飾が施されるようになり、悪趣味な鉤爪が施されたグローブまで創造され、以前と同じローブを創ろうとしても意図的にかつてのデザインを術式として組み込まない限り創造出来なくなっていた。
    更に、精神的に疲弊していた者を筆頭にゾディアークに殉じようとする者まで現れ始めた。強い力を持つ十四人委員会の面々はまだ正気を保っていた方だが、ラハブレアやエメトセルクであっても気を抜くとゾディアークへの賛美が口から出かけた。降り注ぐ同調の闇はそれほどまでに凶悪な強制力を秘めていた。

    在りし日の全てが闇に上書きされていく感覚は、悍ましいものだった。
    己が誇りとしていた全てが、自分達が創り出した化け物に喰われていくと考えるだけで怖気を覚えた。

    「ヒュトロダエウス………」

    既にいない親友の名を縋るように呼ぶ。
    その表情は在りし日の自信も消え失せて、込み上げるエーテルの嘔吐感に耐えるために喉に爪を立てた。

    既にゾディアークには2度、贄が捧げられた。
    1度目は殆ど口減らしに近かった。流れ出すエーテルから先は長くないと悟った者、老いた者、現状に疲れ果てた者が多かった。
    2度目の中に、自分よりも優れた「目」を持つ親友がいた。
    「キミがいるから大丈夫」と痩せてしまった笑顔で精一杯笑いながら、その身を闇に投じて消えた。ゾディアークに喰われた魂は正常な輪廻のサイクルから外れるとわかっていながら。

    この「目」が齎す他の者にはない責め苦を理解する者はもういない。
    己の真名を知る者も、もういない。
    土壇場で十四人委員会を離れた裏切り者の親友は、災厄の最中に散った。
    エメトセルクが散華を知った時には手遅れだった。
    今や、十四人委員会の裏切り者の名は禁句となっていた。
    自分達が創り出した化け物に対する憤りの捌け口として、「その名を語ることなかれ」という仕打ちを受けていた。

    エメトセルクは思っていた。彼があの地獄で散華したことは幸運だったのではないかと。
    あの無二のエーテルを闇に染められる事無く、無垢なままで星海に旅立つ事が出来たということは、現状を鑑みれば幸運な事だったのではないかと。
    あの太陽のような存在が闇に染められるぐらいなら、いっそ己が手に掛けていたかもしれないと思う日がある程に。

    背後でまた1つ、また1つと落伍の音がする。
    大地の果てからは依然として同調の闇が降り注いでいた。



    ◆◆◆



    漸く環境エーテルが比較的正常な土地を探し当て、一心地をついていた頃。
    山間にある芽吹きの兆しを見せる森だった場所で、1人これからどうするべきか思案を巡らせていたエメトセルクの前にそれはふわりふわりと舞い降りた。

    幻覚かとも思った。
    しかしそれは儚げに漂い、見知った色のエーテルの残光を引いて時折エメトセルクの周りをくるりと飛んでみせる。

    『やあ、ハーデス』

    見間違えるはずもなかった。聞き違うはずもなかった。枯れたと思っていた涙が押し出されたエーテルで汚された目元に滲む。
    あの流星雨の最中に喪ったと思った声が、魂が、目の前に漂っている。
    何故ここにいるのか、星海に還ったはずの魂が、何故この地上に未だに漂っているのか、理解が追い付かなかったが、兎も角。

    『ああ良かった、視えているんだね』
    「…見間違える、ものか」

    何もかもが色褪せていた世界に映る、色鮮やかで無二のエーテル。
    返す言葉は震えていて、周囲に裏切り者が戻ってきたと悟られないように声を潜めた。
    他の者がいないか周囲に目配せをし、誰も居ないことを確認してその手で魂に触れようとして、手を引いた。

    『触れてくれないのかい?』
    「もう私はお前には触れられない。あの闇に侵され過ぎた」

    それだけのやり取りでアゼムの魂は察したように『ああ』と言葉を発した。
    どんな理由があるにしても、今のアゼムの魂は器である肉体がない。あの日に失われてそのままであり、闇に侵されたエメトセルクが肉体を再構築しようものなら肉体そのものがゾディアークの闇に汚染され、彼が彼でなくなってしまう恐れがあった。
    闇に汚染された指で魂そのものに触れようものなら、それだけでゾディアークの殉教者になってしまう。気が向けば触れ合っていたエーテルが最も近く最も遠い場所に遠ざかってしまっていた。

    「何故お前がここにいる、お前はあの日に……」
    『その件だけど、少しばかり厄介な事になってる』

    だからきみが生きている可能性に賭けて、あちこち探し回ったんだと付け加えて、魂はエメトセルクから少し距離を置きながらも寄り添うようにふわりと舞う。

    『単刀直入に言うと、星海が機能不全に陥ってる。あの日多くが喪われ、多くが還った。……還り過ぎたんだ』
    「還り過ぎて、星海での浄化が追いついていない?」
    『そういうこと。順番待ちの列がとんでもない事になってる。私はやり遺した事があるから空いてから還るつもりだ』

    役割を終え、その生を終えた魂は本来のサイクルであれば等しく星海に還り、洗われ、新たな生命へと転生する。そのサイクルに異常が生じている。
    あの災厄で多くの生命が喪われ、星海へ旅立った。その数が余りにも膨大であったため、星海による魂の浄化が追いついていなかった。
    そして今この世界に転生を果たしたとて、過酷な環境になったこの星では直ぐにまた星海に還る事になる。そうでなくても落伍した殉教者達が次々と還っている状況で、星海の浄化能力の限界を越えてしまったというのだ。
    魂が剥き出しの状態で環境エーテルの自浄作用によってエーテルが常に流れ出ているようなこの環境で、何を呑気なと口を開こうとした。

    『ヒュトロダエウスは……?』
    「喰われた、我々が創り出したあの化物に」
    『…そうか。だから星海の列にも、ここにも居なかったのか』

    アゼムの魂の問いに事実を返す。アゼムの魂はふわふわと漂って、エメトセルクの頭上に留まる。まるで彼には視えない星海を見上げているようだった。

    『それじゃあ、私は私のやり遺した事をしよう。きみの傍に居させておくれ、親愛なるハーデス』

    突拍子もない一言に言葉を無くす。環境エーテルのバランスが著しく狂っているこの場に、魂が剥き出しの状態でどうなるかわかっているだろうに何を酔狂な事を。

    「正気か!?今のお前がここに留まれば、急速に摩耗して砕けるだけだぞ!エリディブスやラハブレアに見つかればどうなるか……!」
    『わかっているさ。わかっていないならここに来ない』
    「ならばどうして……!!」

    ふわりと、魂が舞う。今や視える者はエメトセルクだけのエーテルの尾を引いて、彼に触れるか触れないかの距離で彼の目線に浮かぶ。視界いっぱいに無二のエーテルが映り込んで色褪せた世界を覆い尽くし、生前の彼に抱き締められている時を思い出した。

    『ゾディアークを創造してしまった事を糾弾しに来たわけでも、恨み言を言うわけでも無いんだ。
    ただ、きみの傍に居させてくれ。星海の順番待ちが解消されたら、向こう側に戻るから』

    自分の願望を言いだしたアゼムは意地でもその意見を曲げないと、エメトセルクは永い付き合いでわかっていた。
    ゾディアーク創造の決議の日もそうだった。悩み悩んだ末に仮面を置いて立ち上がり、「この行為を以て解答とする、私は私で別の道を探す」とそのまま座を離れ、生命も一度エメトセルクの元を離れた。
    彼の事だ。今星海で浄化されて転生したとしても直ぐに散華するとわかっているから戻らないのではない。純粋に、親友の傍に居たいという身勝手な願いでここにいる。戻ってきてしまった。星海が機能不全に陥っているというのは丁度良く発生した言い訳であり事実なのだろう。

    「……勝手にしろ」

    言いつつも、己の内側の冥界に繋がる門を薄く開き、汚染されていないエーテルを彼に与える。直ぐに漏れ出てしまうだろうが、何も与えないよりはずっとマシで、少しでもこの地獄に居残れるはずだ。

    『ありがとう、ハーデス』

    少しだけエーテルの色が鮮やかさを増した魂がハーデスから距離を置いて、不釣り合いに朗らかな声を上げた。
    あまり一箇所に留まり声を出していると、ラハブレア達に気取られる可能性があるため涙を拭ってその場を離れる。その後をアゼムの魂が続き、岩壁に開いている洞穴の前を通り過ぎる。
    その洞穴の中には、エーテルの流出で虫の息の同胞達が横たえさせられていた。エメトセルクの見立てでは、持ってあと数日。それ以上生き永らえたとしても、既に十四人委員会が決を取り始めているゾディアークを用いた3度目の再生の為の贄にされるだろう。
    最早打つ手は無く、エメトセルクがエーテルを供給して延命させようともしたが、ラハブレアに「キリがない、1人を救済すれば皆がお前に縋り付いて殺されるぞ」と制止され、血が滲む程に拳を握りしめて切り捨てざるを得なかった。
    アゼムの魂は靄が掛かったように朧気な視界でそれを捉え、エメトセルクが目を伏せて歩いている様子を見て、彼に倣うしかなかった。
    唯一出来たことは、慰めるでも声をかけるでもなく、洞穴と彼の間に入り込みその薄いエーテルで洞穴を隠すことだった。



    ◆◆◆



    3度目の贄は弱っている者を含めた口減らしと、自ら志願した者達が捧げられた。
    3度目の犠牲の末に漸く星は正しい環境とエーテルの巡りを思い出し、少しずつではあるが再生を始めた。地の果てにゾディアークを抱いたまま。

    そしてある日、十四人委員会は決を取った。
    「世界を育み、完全に復興した暁には新たな人類をゾディアークに捧げ、ゾディアークの贄となった同胞達を呼び戻す」
    結果は、全会一致の可決。
    ゾディアークの「滅びゆく世界を救う」という意思に差はあれど汚染され、何よりもこれまでの惨状を目の当たりにした者達の中に、その狂気的な決議に反対意見を提示するものは居なかった。

    アゼムの魂はハーデスが十四人委員会の場に出る間は少しでも同調の闇から身を隠せる洞穴に息を潜める事となり、それ以外はハーデスの傍に寄り添った。
    アゼムの魂が悲しみの色を帯びていたので、彼の魂が向いているであろう方向を見やれば、議論を交わしていた同胞たちが口論に発展していた。先程生き残り達に伝えられた決議を巡る議論が白熱し、意見が対立した末のことだった。

    『みんな、怒りっぽくなってしまったんだね』
    『当たり前だ。もうどこにもあの日はない』

    アゼムにだけ通じている念話で短いやり取りを交わす。彼が真名で呼ぶことについては了承した。アゼムが最期の時までエメトセルクの真名がそうであったと忘れないためにという希望があったからだった。
    アーモロートで繰り広げられていた日常風景であった人々による対話と議論は、あくまで全てが満ち足りていたからこそ行えたものだと痛感させられていた。
    満ち足りていたこそ諍いもなく、意見が対立してもあの穏やかな空の下で同じだけ認め合えた。

    だが、今はその空も精神的余裕もどこにもない。
    一度意見が対立すればそのまま議論は白熱し、口論に発展することも珍しくなかった。些細なことで諍いが起きる事もあった。その全ては結局エーテルの無駄遣いだという一言でお開きになるが、一度出来た友情の裂け目を癒やす余裕もない。
    既に意見に反発したヴェーネスは一部の者を連れて離れ、災厄の被害を免れた数少ない施設の1つに逃げ込んだという情報はあった。それを追いかける者はおらず、彼女を師とするアゼムには話していない。

    皆の心までもが荒んでいく日々の中、エメトセルクは触れられないながらもアゼムの魂を度々気にかけていた。
    時折エメトセルクが冥界のエーテルを供給してはいるが、剥き出しの魂には酷な環境であることには代わりはない。同調には耐えているが、日に日にその魂が傷付き、エーテルが薄くなり乾いていく様子が見て取れた。
    早く還れと何度も忠告はした。
    それでもアゼムの魂は居るといって聞かなかった。輪廻から外れてしまったヒュトロダエウスの代わりに、できるだけ傍に居たいと言って譲らなかった。本当は、自分よりも幼子や老人の魂に道を譲っている一面もあるくせに。
    空へ旅立ち、星海から溢れ彷徨う魂は少しずつ減っていた。星海が正常な機能を取り戻しつつある証拠であり、アゼムもそれを認めた。

    『それでも、ヒュトロダエウスの代わりにきみの傍に居させてくれ。
    傍でハーデスと呼ばせてくれ』

    星海で浄化されるまでは、覚えていたいんだ。
    今にも泣き出してしまいそうなアゼムの声に寄り添う丸まった背中は、その枯れていく魂に触れることさえ出来ないまま、それならばせめてとエーテルを与え続けた。その魂が罅割れ始め、与えたエーテルの漏出を止められないまま。

    『ハーデス、私とヒュトロダエウスが居た日々はどうだった?』

    薄いエーテルを存在の維持に回し、口数が減ってきた魂が問い掛ける。
    エメトセルクは眼を閉じて思い返した。
    あの楽園の日々を、騒がしくも愛おしかったあの日々を。
    座の役割を終え、次の「エメトセルク」へ座を託して還るものだと信じていたあの日々を。
    自分たちならば災厄を乗り越えられると信じ切っていた、あの無垢な日々を。
    親友たちに挟まれて、眉間にシワを寄せながらも還るその日まで続けばいいと願っていたあの美しい日々を。

    『……認めたくはないが、楽しかったさ。今よりはずっと』
    『そっか。私はいつも楽しかった』

    魂がふわりと舞う。それを目で追っていると、辛うじてアゼムの形を保っている魂が近付き、エメトセルクの唇に触れた。
    口付けの真似事をすると、さっと魂は離れて笑う。極短時間の接触だったからか魂の汚染はされていないが、危険なことをと叱る。まるであの日々のように。

    『もっときみに叱られたかったな。
    ヒュトロダエウスと、どこかで誰かに下らないイタズラをして』

    魂からエーテルが涙のように一筋零れる。
    それを止める術は、アゼムの無垢な魂を補強する手段はどこにもなかった。
    アゼムの魂が星海に還るのも時間の問題だった。
    やり遺した事――エメトセルクをハーデスと呼び、もっと叱られたかったという願いを叶えるために、アゼムは居ることを選んでいた。



    ◆◆◆



    そして訪れた「あの日」。

    汚染を免れていたヴェーネスを核として、あまりにも強大な力を持つゾディアークは封じねばならないという意思の元、カウンターとして喚び降ろされた白い神が、ゾディアークとは反対の地の果てからやってきた。

    その戦いは苛烈と熾烈を極めた。昼も夜もない戦いにヴェーネス派もそうでない者も関係なく全ての生き残り達が怯え、エメトセルクは戦いの混乱に紛れてアゼムの魂を守ろうと動いた。
    エリディブスを守ろうとしているラハブレアと合流し、万一に備えて動ける者だけでも集めて十四人委員会で守るべきだという判断がラハブレアにより下された。それほどまでの戦いが頭上で繰り広げられていた。
    動けない者は切り捨てるつもりか、と憤慨しながらも身体は自然と避難誘導をしているイゲオルムの方へ向きかけていた。誰かを切り捨てる事には馴れてしまっていた。

    それに随伴するアゼムの魂には誰も気付いていない。辛うじて形を成してはいるがエーテルを環境に吸われた結果殆ど残骸同然で、エメトセルクの内にある冥界への門から直接繋がれた汚染されていないエーテルで構成された鎖でエーテルの供給を受けなければ、今頃還っていてもおかしくない状態だった。
    殆ど声を発することも無くなったが、エメトセルクが鎖を繋いだ際は嬉しそうにそのエーテルを輝かせた。
    エメトセルクが口論を耳にして表情を歪めると、その現場を隠そうと間に入った。捨て置かれた同胞を目にして心が揺らいだ時は慰めるように舞った。
    残り僅かなエーテルを振り絞ってでもエメトセルクの、否、ハーデスの傍にいようと足掻く彼を見ていられなかった。

    「ッ!?」

    一歩を踏み出そうとした瞬間、今となってはエメトセルクだけが視る事が出来る「波」をその目に捉えた。
    反射的に見上げた遥か上空、2柱の神が争っていた空と大地が震えている。
    押し寄せる膨大なエーテルの暴風が空を揺らしている。それは雲を揺らし、空気を震わせ、これから来るものの予兆となっていた。
    光と闇が交錯し、昼も夜も奪われたかのような空が一瞬晴れ渡り、どちらが勝ったのかを伝えていた。

    呆然とする周囲を余所に咄嗟に視界を切り替える。
    遥か山の向こうで、ハイデリンの一撃が振り下ろされている。全ての闇を断つかのような輝かしいエーテルを纏った停滞の一撃が、黒い巨体のゾディアークに突き刺さっている。
    巨体に刺さったエーテルが、ゾディアークの身体を文字通り「割って」いく。光の筋が走り、ゾディアークは断末魔を上げながら膨大なエーテルを迸らせ、その身の内に平らげた同胞達の魂を抱えたまま14に分かたれていく。

    全てが終わった。

    そう思った瞬間、ゾディアークを割った光がそのまま大地へ突き刺さり、深く深く地脈も水脈も、遥か天へ迸る光が天脈すらも割っていく。
    運悪くその周囲に居た人の形をしたエーテルが14に分かたれていく。
    山も、水も、木々も、動物も、何もかも、見境なく。
    星さえも割りながら、暴力的な何かが向かってくる。

    「エリディブス!ラハブレア!!来るぞ!!」

    何が来るかを伝える暇もなかった。
    血相を変え、平時はよほどでもなければ怒鳴り声など出さないエメトセルクの様子で全てを察し、直後に両者が結界を展開し、そこへエメトセルクが滑り込み、2人の肩を掴む形で結界の補強を試みる。

    周囲がこれから何が起きるのか困惑した結果、反応がラハブレア達よりほんの僅かに遅れた瞬間、その僅かな遅れが文字通り運命をも左右した。

    直後に訪れたのは、全てを分かつ暴力的なエーテルの爆風の前兆を伴った破壊そのものの奔流だった。
    3人を除いた十四人委員会の顔ぶれも、戦いに怯えていた同胞達も、息絶えて還る瞬間を待つだけだった者達も、全てが爆風に晒された瞬間魂が剥き出しになり、次いで襲った奔流によって分かたれる。
    冥界を見守る役目を背負ったエメトセルクの座にあるハーデスには結界を貫通してあらゆる生命の悲鳴が聞こえていた。
    漸く正常な機能を取り戻しつつあった星海へ、14に分かたれた魂が飛び立っていく。

    範囲を極小規模に絞ることで強度を引き上げ展開された結界の壁が揺れる。出力を一瞬でも弱めれば、そこから破綻しかねないほどの破壊の奔流を耐え凌ぐ。
    他の2人が展開した結界を己の内の冥界の門を全開にして補強しながら、自分自身でも冥界のエーテルを借りて展開する。転身する暇すら惜しい。三重の結界を更に補強してなお、世界を砕く破壊の奔流はエメトセルクらを叩き割らんとしていた。



    そこで、ふと気付いた。気付いてしまった。
    いつも己の傍に漂っていた無垢なままの魂が、星海に還るまでは傍にいたいと寄り添っていた魂が、結界の中にいない。

    まさかと絶望の視線を上げると、結界の外にその魂は吹き飛ばされていた。
    親愛なる魂はエメトセルクの、ハーデスの傍にいようと残存するエーテルを存在の維持に回し続けた事で、結界の内側にあっても爆風に耐える余力すら失っていた。
    更に、エメトセルクが結界の補強と展開に意識を回したことで、彼とアゼムの魂を繋いでいた鎖は脆くなり、爆風で千切れ飛んでいた。
    存在そのものが薄くなっていた魂は呆気なく結界の外へ弾き出されていた。

    その状態で破壊の奔流に晒されてしまえばどうなるか。

    成す術もなく吹き飛んだ魂は、断末魔さえ上げる事なく14の破片に砕かれ更に彼方へ吹き飛ばされていく。

    エメトセルクには視えてしまっていた。
    ヒュトロダエウス達の犠牲で形だけは元に戻りかけた世界が、星海から溢れていた魂達が、結界の外の同胞達が、全てが砕かれて悲鳴を上げながら飛び散っていく。
    親愛なる魂も、悲鳴を上げることさえ出来ないまま。

    「―――――!!」

    全てが割れていく音の嵐の中、気が狂いそうなほどの悲鳴の嵐の中でその魂の真名を叫ぶ。
    その声はどこにも、誰にも届かないまま、闇の彼方へ消えた。
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