【お題:ホワイトデー・お返し】※BDにシルビアからチョコ貰って本人も頂いたって設定です。
今日という日を心待ちにしながら、二人は多忙な日々を送っていた。それぞれの思いを胸に、落ち合うと決めていたソルティコへと向かっており、場所は勿論屋敷……ではなく、領主邸と市街地を隔てる門で。
待たせる訳にはいかない&愛する者にカッコいい所を見せたい男は、既に待っていたのであった。
「グレイグ!」
「ゴリアテ……どうした!?」
息を切らし急いで屋敷から飛び出してきたシルビアに驚き、何があったのかと聞き出す。グレイグはそっと片手を腰に添えるのだが、落ち着く事に集中しているシルビアは気付かなかった。
「や、やっとセザールを、説得することが、出来たの……」
「……相変わらず過保護だな」
ソルティコが誇る超有能執事とのちょっとしたやり取りを掻い摘んで話す佳人に、グレイグは少々呆れてしまった。大事に思っているのは良い事だし嬉しいのだが、自分達に関する事には止めてくれと率直に思ったらしい。
「アタシの目の前にいる人もそういう所あるのだけれどね……」
「お前が勝手に何処かへ行くのが悪い」
「何よそれ!」
「本当の事ではないか」
落ち着きを取り戻したシルビアを見て、男は少々騒ついていた自身の心が落ち着いた事を感じ取る。このやり取り(=自分達の間に入ってくる輩の登場)はこれで終いにしたい、と強く願ったそうな。
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町中をゆっくりと歩いていると、黙ったままだったシルビアが「アタシ」と言葉を紡ぐ。何を言うのかと、グレイグは軽く相槌を打つと先を促した。
「ホワイトデーをとーーっても楽しみにしていたのよね♡」
「それは喜ばしい限りだ。この日の為に準備をしてきた甲斐がある」
そう、今日のメインは……何を隠そうホワイトデーのお返しなのである。
「あら、コソコソ何かやってるって思ってたけど……」
「知っていたのか?」
「前にちょっとだけ会えた時に、ふせんが付いた雑誌が見えたのよね」
「クソッ……なんて失態だ……!」
多忙と言いつつも時間を見つけては会っていたらしく、その際にホワイトデーに向けた動きがある事をシルビアは知ったのだとか。
「バレンタインの時にあれが欲しいやらこれが欲しいやら言っていたからな……調べ上げるのに苦労したぞ」
その言葉を皮切りに、シルビアの動きが止まる。何事か、とグレイグが顔を覗き込むとーーーー、
「……ば、ばか!」
頬を赤く染めた恋人の恥じらう姿が、視界に映った。一瞬何の事かわからなかったグレイグだが、この手の事に関してはすぐに気付いたようだ。
「何だ? あの時の事を思い出したのか? 愛らしく鳴いていた……」
ニヤリと笑い、シルビアの頬に手を伸ばし触れる……寸前で、ジロリと白鼠の瞳が男を睨み付ける。
「それ以上言ったらアタシ帰るわよ」
二人きりではなく公共の場なのだ。しかも人の数は多い。こんな所でイチャつき始めれば、衆人の興味の的になるのは必然で。
「…………」
「全く……!」
効果は抜群だった。即座に手を引っ込めたグレイグは黙り込み、表情には出さないがシルビアの心は安堵に満ちていた。触れられるのは嬉しいし好きだから……嫌ではない、嫌ではないけど……時と場所を考えて欲しいの、と改めて思ったらしい。
「すまなかった」
再び歩みを進めほんの少し経った後、グレイグがぽつりと言葉を零す。隣にいるシルビアは勿論聞こえており、
「ふふっ……怒ってはいないわよん♡ それより……」
クスッと笑みを零し、踵を返してグレイグと向き合った。花の如く美しい笑みを携え上目遣いで男を見つめる佳人。あまりの美しさに、グレイグは心臓が徐々に高鳴っていく様を感じるが、冷静さを保つ事に集中する。
「エスコートして……下さる?」
シルビアの頬に、再び朱が差した。だがそれだけではなく目元も少しだけ赤みを帯びていると、グレイグには見えた。
あぁ、お前も俺と同じように、高鳴っているのだな……。なぁ、そうなんだろうゴリアテ……。
ねぇ、アタシの心は今、ドキドキしていて、恥ずかしくて、でも嬉しくて、貴方は……わかってくれる……?
「勿論」
片膝を地に、下から美しい手を取る。まるで、騎士の誓いの様に。
先程時と場所を考えて欲しいと思っていたのに、その考えはシルビアの頭の中から消えてしまっていた。喜びが佳人の全身を占めていて、周囲から見られていると、これっぽっちも思っていないのである。それはシルビアの手の甲に唇を当てている男も同じだった。
「では行こうか」
手を取ったまま立ち上がり、この日の為に考えたであろうプランを実行すべく動き始める。
「……えぇ♡」
グレイグに導かれ、シルビアは彼の後を只々着いていく。
恋人達のホワイトデーは始まったばかり……
さぁ、二人だけの時間を過ごそうではないか!