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やがて小さな公園を見つけ、五条は悠仁を引っ張り込んだ。辺りはとっくに暮れていて誰もおらず、中央では今にも切れそうな街灯が弱々しく点滅していた。
すでに泣き止んだのか何も言わなくなっていた悠仁をベンチに座らせて、じゃあサヨナラという訳にもいかず五条はその前にしゃがみ悠仁の顔を覗き込んだ。悠仁はぼうっとして、膝に置いた手を見ているだけでこちらを見ない。相変わらず掛ける言葉も思い付かず、五条は途方に暮れた。
だいたい何でこいつは泣いたんだ?別れてもう二ヶ月だぞ。そんなに俺が嫌だったのか?でも新しい彼氏と毎日イチャついてたよな?俺の目の前で!
その時の光景と夏油の薄ら笑いを思い出し、怒りが込み上げてきた五条はつい悠仁を睨みつけた。と、同時に悠仁がこちらを見たのでまずい、と思ったがもう遅く、びくりと肩を揺らして悠仁は萎縮しまた俯いてしまった。
「いや、悪い。違う、怒ってない」
五条は慌てて取り繕う。頼むから泣くなと懇願するように悠仁の両手を自分の両手で包み込んだ。「怒ってない?」掠れた声で悠仁が言った。「怒ってない怒ってない」と引きつった笑顔で五条が答えると、悠仁の顔は暗くなった。失敗したようだ。
ーー面倒くさ。
いつもの考えが頭をもたげた。いちいち人のこと慮って、遠慮して、そんなの面倒だろ、と。
真剣じゃない相手に真剣で返した時の馬鹿馬鹿しさといったらない。真剣になる奴の気が知れない。こいつだって、真剣だったから傷付きましたみたいな顔して速攻別の男に乗り換たじゃないか。真面目に考える奴は馬鹿だ。だから、適当にあしらえ。放っておけ。
ぽたりと水が降ってきた。悠仁の手を握っている五条の手が生温く濡れていく。また悠仁は泣いていた。今度は耐えるように声を殺して泣いていた。五条はなんて面倒なんだと思った。なんでこいつはこんなに面倒なんだ。なんで俺はこんなに胃が痛いんだ。なんでこいつを放っておけないんだ。
「泣くなよ……」
今度こそ懇願した。情けない声でお願いしますと頭を下げて、悠仁の膝に頭をぶつけた。
「……き」
小さく悠仁が呟いた。嗚咽混じりでよく聞こえない。頭を起こして何だと聞くと、
「俺、先輩が好き」
と言った。五条はぽかんとした。意味が分からなかった。
誰が誰を好きだって?
「俺、やっぱり先輩が好き。大好き」悠仁はぐずぐずと繰り返す。「はぁ?」と思わず聞き返す。数秒見つめ合って、また「すき」と悠仁が言う。なんなんだ。五条は何故か耳と顔が熱くなってきた。
「お前、俺が好きなの?」
「うん」
「じゃあ何で泣くんだよ」
「好きだから」なんだそれは。
「俺と別れるっつったのお前じゃん」
「うん」
「他に女がいたから嫌になったんだろ」
「うん」
「でも俺が好きなわけ?」
「……すき」
意味不明だ。すき、じゃねえよ。可愛くひらがなで言われても困る。可愛いけど。
「言ってること、分かんねーんだけど?」
五条がため息をつくと「うん、そうだよな……。ごめん」悠仁はまたじわじわ目尻に涙を溜める。やめてくれ。五条の胃はそろそろ限界だった。
ピロピロと電子音が流れた。悠仁の上着のポケットからだ。「あ……」と悠仁が驚いて、少し慌てたように五条を見た。五条はそれに見覚えがあった。
それとは、彼女が五条といる時に、別の男からの着信があると見せる表情だった。五条はピンときた。
ーーこいつ、もしかして夏油と何かあったのか?
そうだ。悠仁は夏油と付き合っている。しかし喧嘩か何かをして、悠仁は五条のように気晴らしを求めてゲームセンターへ行き、そしてたまたまやって来た五条に泣きついた。だから暗い顔をしていたんだ。ああなるほどな。五条はようやく答えを見つけた。
「出ねえの?」と手を退けて悠仁の手を解放してやると、悠仁は困った顔をした。やっぱりなと呆れて、心底嫌だったがこれ以上泣かれるのは身がもたないので、五条は夏油と仲直りしろと言ってやろうと口を開いた。
「夏油と別れろ」
悠仁は驚いた。五条も驚いた。間違えた。
「喧嘩してムカついたんだろ?別に我慢することねーよ。とっとと別れたらいい。つーか別れろ」もっと間違えた。
「だいたいあいつ、四六時中お前にベタベタしやがって。ああいう奴はな、全部自分の思い通りにしなきゃ気がすまないタイプなんだよ。お前を監視下に置いて、束縛して、殴ったりすんだよ。絶対そういう奴だから。マジやめとけ。別れろ」
「お前は人が良いから付け込まれてんの。にこにこ周りに良い顔してる奴ほどプライベートはやべーんだよ。……おいまさか、もう殴られてんじゃねえだろうな!」
体を調べなければ。五条は立ち上がった。
「先輩」
「何だよ」
「あ、あの……?夏油先輩と別れるって……何?」
「はぁ?」
着信音が止んで、二人は見つめ合ったまま沈黙した。
🍽
「それは辛かったね」
二ヶ月前、「対五条ファミレス会議」の席で、夏油傑は悠仁の頭を優しく撫でた。
ちょうどその日は夏油が悠仁に勉強を教える予定で、待ち合わせ場所に現れない悠仁を心配し連絡をくれたのだが、虎杖が大変なんです!とわめく釘崎にただ事じゃないと駆けつけてくれたのだった。
「こんなところまでごめんな先輩」と謝る悠仁に、良いんだよと夏油は微笑んだ。
「やっぱり無限が厄介ね」釘崎はパンケーキを食み、憎々しげにフォークを次の一切れへ突き刺す。あんたのワンちゃんもダメなの?と言われああ、と伏黒が答える。あのさ、そろそろやめよ?という何度目かになる悠仁の制止は聞き入れられることはなく、悠仁は仕方なくパンケーキを食べ続けた。
「……悠仁は、その五条と知り合ってどのくらいの付き合いなんだい?」
それまで騒ぐ三人を眺めていた夏油が口を開いた。お、と三人が反応する。
「ええと……入学してすぐだから、半年くらいかなあ」悠仁が答える。
「他にそのゲーセン仲間というのはいたの?」
「いや、いつも俺と二人だったよ」
「他に友人は?」
「うーん……」
「女とばっか遊んでたみたい。さっきラィンで友達に聞いたんだけどあの野郎、二人どころか何人もと同時に付き合ってたみたいだし」釘崎が言う。
「それで一・二週間もしないで全員ポイだって。ほんとサイッテー」
「……」
少し顔をこわばらせた悠仁の頭をまた撫でながら、夏油は少し困ったような、呆れたような顔をして、もう一つ確認させてと続けた。
「女の子とばかり遊んでいたというのは、五条は悠仁以外の男とは付き合っていなかったということかな?」
「え?うん。だって先輩男嫌いだし」
「嫌い?」
「前に伏黒や夏油先輩の話しようとしたらさ、すっげー不機嫌になって男の話はいいから、いらねーからって言われたんだよね」
「アンタよくそれで告白なんてしたわね」
「うーん、俺もテンパってたっていうか……誰かと別れたって聞いてさ、今だ!みたいな?」
「……そう」夏油はこめかみに指先をあてて小さくため息をついた。
「今の話を聞くに、どう考えても……」
「?」
「考えても?」
悠仁と釘崎が頭の上にハテナを浮かべる横で、「あ」と伏黒が声を上げる。
「なんだ、そうか」
何かに気がついた様子の伏黒は夏油を見て、そうなんだよ、と夏油は応える。
「でも……指摘したところで納得しないと思います」
「そうだね……どうにかして気付かせてやる必要があるね」
「え?なになに?」「どゆこと?」釘崎と悠仁を置いて話は進む。
「……ではこうしよう。悠仁、しばらく私と勉強しようか」
「え?」
「今までよりもっと勉強するんだよ。そうすれば気が紛れるだろう?中庭あたりがいいかな……校舎からよーく見えるからね」
「なるほど」
夏油の突然の提案に戸惑う悠仁を置いて、伏黒はうんうんと勝手に納得している。
「ちょっと!どういうこと!五条の野郎にに仕掛ける話はどうなんのよ!」
騒ぐ釘崎に伏黒が耳打ちする。釘崎は一転ご機嫌となり、悠仁は置いてかれたまま会議は終了、翌日から毎日のように勉強会が始まった。
🌃
「付き合ってねーじゃん」
「うん」
夏油と行動するようになった経緯を話せと言われ、悠仁は「ファミレス会議」を説明した。
「先輩は俺に勉強教えてくれただけだよ」
「……」
話が違う。全く違う。誰だ付き合ってるなんて言ったのは?誰だっけ?硝子か?いやそれより、どう考えても付き合っていただろうあれは。
「……でもお前ら抱き合ってたよな」
「あれは……夏油先輩がストレス緩和には人と触れ合うのがいいからーって」
「ストレス緩和だァ?」
「他にもね、屋外で開けた場所の方が開放感が増すから中庭でやろうとか、教科書持つより会話の中で一問一答する方が気楽にできるよねってカフェスペースで喋りながらやったり…いろいろ考えてくれたんだよ」
「……」
五条は嵌められた、と思った。付き合い始めたと家入経由で五条に伝え、悠仁といるところを見せつけ、いかにも幸せですとばかりに抱いたりしていたのは全て作戦だったのだ。
(あいつら……っ)
そうとは知らず二ヶ月も五条は彼らを視界に入れては腹を立て、夏油の思惑通りストレスを溜めていたことになる。
(…………?)
そこで五条は疑問に思った。どうして夏油はこんな手を使ったのだろうか。おかしい。何故なら五条は相手に執着しないからだ。今まで付き合った誰にだってそうだった。別れたらそれまで、泣かれようが縋られようがその後のことなんて知ったことではなかった。例外は無い。
悠仁を除いては。
五条は悠仁を見た。もう泣いてはいなかったが、涙の跡や赤く染まった目元が暗闇でもはっきりと見えた。不安そうな顔で先輩、と見上げてくる。
面倒だ。と思う。そんな不安な顔ひとつで慌てたり心配したりすることが。真剣に向き合うなんて馬鹿馬鹿しい。疲れるだけだ。
だが、それでは悠仁が泣き止まない。
五条はそっと、悠仁の目元を人差し指で拭った。ん、と言って目を閉じた悠仁の仕草はなんだか猫のように見えて、可愛い、と五条は思った。
「それで、お前は……ストレスが取れたのかよ」
聞くと、悠仁は「それがさ、協力してくれた先輩たちには悪いんだけど…ぜんぜんダメだった」と苦笑した。
「ストレスの元は見ないようにって言われて先輩のこと見なかったけど、すっごく寂しくてさ……でも話しかけるなんてもう出来ねえから、ゲーセン通って、先輩のこと思い出してた」
先輩覚えてるかな、と悠仁は続ける。「クレーンゲームやっててさ、すげー変なフィギュア取った時……確か3千円くらいつぎ込んでやっと取れたんだよ。そしたら、先輩めっちゃ大声ではしゃいでさ、俺のこと抱きしめて頬ずりしてくんの。もう可愛くって……。それで俺先輩のこと好きになったんだよ」
五条は覚えていなかった。それを察したのか、悠仁は先輩あんなに騒いでたのになと笑った。
「……だからお前、あんなとこで突っ立ってたのか」
「うん。浸ってた。俺の先輩との思い出って、ゲーセンかマックだけだし……」
悠仁の声が小さくなった。言われてみればそうだった。学校で少し話すか、ゲームセンターか、そのあと軽食を食べ歩いて解散。時間にしてみれば随分と短い気がした。
「悠仁……」
着信音が鳴った。また悠仁の上着からだった。「夏油か」五条が睨む。
「違うと思う……先輩、めったに電話かけてこないし」
「じゃあ何で出ないんだよ。さっきだって、お前本当は夏油となんかあんの?」
「無いよそんなの……でも」
「でも何」
「電話出たら……先輩、帰っちゃう、だろ……」
「は?」
「もう話せないかもしんないのに、電話なんて出たら、やだよ、俺……やだ、帰んないで、先輩、お願い。今だけでいいから。明日からは……ちゃんと、先輩、諦めるから……っ」
悠仁の目尻にまたじわじわと涙が溜まっていく。五条は慄いた。全身から冷汗が吹き出る心地がして、たまらず「ば、バカッ泣くな!泣くなよ」と悠仁の肩を掴んで揺する。
「帰らねえから!」と叫ぶ。悠仁はしゃくり上げながら「本当?」と聞くので力いっぱいうんと言ってやる。するとあっさりと涙は引っ込み静かになった。
やがて着信音も止んで、悠仁がすん、すん、と鼻をすすった。
「お前さあ、何回泣くわけ?」
「……ごめん」
「どうしたら泣くのやめんの……」
呟いて、違う、泣かせているのは自分だと五条は気付く。手を伸ばしてまた悠仁の目元を指で拭ってやると、やはり猫のように目を閉じる仕草が可愛くて、五条は何度かそれを繰り返した。
五条は悠仁に泣かれたくない。だが五条のせいで悠仁は泣いてしまう。ではどうすれば、何を言えば悠仁に泣かれない?頭を総動員する。総動員して、悠仁のことを考えた。面倒だなんて思わなかった。
五条は悠仁と目を合わせて向き合った。
「……なあ、俺のこと好きなんだよな」
「え?」
「だよな?」五条は威圧した。
「う、ウス」
「だからゲーセン行ったり、今だけ一緒にいてとか言ってんだよな?」
「うん」
「今だけ一緒にいて満足して、明日から俺を好きなのやめるってことか」
「……うん」
「俺が何人もと付き合ってるのが嫌だから?」
「……うん」
「じゃあ、それをやめたら……まだ好きでいてくれんの?」
悠仁が目を見開いた。
「先輩……?」
「どうなの」
「どうって、」
「全員と別れる以外にどうしたらいい?傷付けたこと謝ればいい?許してくれる?」
「何言ってんの。変だよ、先輩」
「ごめん、悠仁」
「……!」
「ごめん」
さらに大きくなった悠仁の目を見て五条はまた泣きそうだなと焦った。
「泣くなよ……謝るから。お前の言うことなんでも聞くから。なんでもするから。ここにいろって言うならいるし、殴らせろって言うなら全力でやっていいから」言い募る。
「……せ、先輩が、一人とだけ付き合うルールはないって言ったんだよ」
「そ、うだけど、もうやめるから」
「先輩にとってそれが普通のことなんだろ?やめるって、そんなの無理だろ」
「無理じゃねえよ。お前が嫌ならしない。……つーか、いらない」
言いながら、そうだ、と五条は納得した。
「悠仁以外はいらないから、全員と別れるよ」
悠仁の顔が歪んだ。泣きそうで、でも怒っている。
「……信用できるわけねーじゃん」ぐずついた声で「ムリ」と言う。五条は眉を下げて「どうすればいい?」と聞いた。向き合って考えたはいいが、やはり初めてのことで対処法が浮かばない。悠仁の手を取って縋るようにぎゅっと握る。
「どうすれば信用してくれんの?」
「……じゃあ」
「ん?」
「好きって言って」悠仁は涙をこぼした。
「好きって言えばいいの?」
「好きって思って言って」
「悠仁が好き」
「俺だけ好きって言って」
「悠仁だけが好き」
悠仁はさらにぼろぼろと泣きながら「それ毎日言って」と言った。五条が「分かった」と真顔で了承すると、悠仁は笑った。
「ちゃんと毎日言うから。信用してくれる?」
「先輩、そういうの雑だからな」
「信用しろよ」
「……」
「俺のこと好きなんだろ」
「……」
「おい悠仁」
「好き。大好き」
悠仁は立ち上がって五条に飛び付いた。
五条がその背中を抱き締めると、やがて悠仁は小さく震えながら泣き始めた。
結局悠仁は泣いてしまった。五条の胃はやはり痛んだが、今までとはどこか違う痛みで、五条まで泣いてしまいそうだった。五条は悠仁の頭に顔を埋めた。
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「人を人とも思わない付き合いをしてる人間が一人とは続いて、あげく女性としか付き合わないのに突然男と付き合ってセックスまで、なんて普通あり得ないだろう?」と後日夏油は教えてくれた。
お前は虎杖悠仁が好きなんだと、そう突きつけたところで「そうですね」と五条が納得する性格とは思えなかったので、じわじわと嫉妬でもさせて自覚を促そうと考えたらしい。それが悠仁を傷付けた仕返しにもなるだろうと言われ、釘崎は喜んて賛成したというわけだった。
「何で俺には教えてくれなかったの」と聞くと、悠仁は顔と態度に出るからと言われてしまった。そこが良いところだけどね、とも言われ、そうかなと悠仁は調子に乗った。
五条は少し変わった。全ての彼女たちに誠意を持って別れを告げ、新たな告白も誠意を持って断って、周囲に対する雑な態度も、ほんの少しだけではあるが緩和された。そしてそれは新たなファンを生み、告白の頻度は増した。
「なあ、信用しろよ。悠仁だけ好きだって」
「ふうん」
「ちゃんと断ってるから。大事な子がいるって言ってるから」
「そーなん」
「そうだよ……反応薄いな。俺お前に会うために走って来たんですけど?そんな態度なの?」
「先輩が勝手にやったんじゃん」
「……生意気すぎんだろてめえ」
昼休みの屋上で、漫画雑誌をめくる悠仁を五条は背後から抱き締めた。
「重い」
「重くしてんの」
体重をかけて、身体の中に悠仁を閉じ込めてしまうと悠仁は重いって、と笑った。
二人は再び付き合ってはいるが、まだ(仮)であり、五条は未だ悠仁の信用を得ていない。おまけにかつて悠仁が目撃したホテルでの五条の乱行現場は想像以上に彼のトラウマと化していたらしく、一度戯れに服を脱がせようとしたら真っ青になって吐いてしまった。なので二人は抱き合ってキスする以上のことはしていない。
(先長すぎだろ)
それでも五条は他の誰かで発散しようとは思わなかった。悠仁が信用すると言うまで毎日告白するし、そのあとだって毎日告白してやる気で、悠仁以外は目に入らなかった。
五条は腕の中の悠仁を優しく抱きしめた。
「今日帰りどっか行くか?」
「ゲーセン?」笑いながら聞く悠仁にそうじゃなくて、と五条は言う。
「あー、遊園地とか、水族館……とか?」
悠仁は爆笑した。五条は赤くなって舌打ちした。
「笑ってんじゃねえよ」
「え、だって、ごめ、……それってさ、デート?」
「あーそうだよデートだよ。悪いか。……ゲーセンとマックだけじゃ味気ないだろ」
悠仁はぴたりと動きを止めた。「それ……先輩が考えてくれたの?」
五条がスマートフォンの画面を悠仁に見せると、近隣で流行りのデートスポットのスクリーンショットやリンクがいくつも保存されていた。
「……」
「なんか言えよ」
「うん……すげー……嬉しい」
「そうなの」
「うん……ありがと先輩。こんなに大変だっただろ」
感動した様子の悠仁に五条も感動した。3日かけて周囲に聞いたり調べたりした甲斐があった。必死じゃん、と家入にからかわれたが、気にしなかった。悠仁のために何かをすることが楽しかった。
「悠仁が好きだから何でもすんの、俺は」
そう言ってキスすると、悠仁は破顔した。 了