尻尾の先まで恋してる 放課後の玄関、あの人が一人でいるのを見かけた。
これはチャンスだ。俺は急いで後を追いかけ考えるより先に声を掛けていた。
「あの! 今夜のお祭りに一緒に行きませんか?」
ぴんと尖った黄金色の耳、姿勢良くすらりとした夏服姿、そしてふっさりした黄金色の尻尾の毛先は純白。
これまで見つめるだけだった一学年上の憧れの先輩、きつね族の煉獄さんに自分から話しかけるのは今日が初めてだ。
覚悟を決めた俺を煉獄さんは丸い瞳でじっと見つめた。
紅玉を縁取る金環。綺麗だけれど強い眼差しと無表情にちょっと怯む。
一言のもとに振られるかもしれない。
その可能性は引き受けた上でけれど俺は一歩先に進みたいのだ。
「君は」
と言われてはっと気付いた。礼儀としてまず名乗らなくてはいけなかった。
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