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    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

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    現パロアンぐだ♀

    2022.6

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##現パロ
    ##成長童話作家

    答え合わせ「流行はおさえておくべき」と彼はよく言う。まずは情報を集めて、それから実際に自分でも体験してみたり。
     ――取材のため。そうすれば恋人でないわたしでも外出の約束を取り付けられる。

    「この喧しい列に並んであと何時間待つ必要があるんだ?」
     目当てのお店の前まで来て、早くもイライラしながら彼が言う。
    「待つ時間も取材みたいなものでしょ? 何かの参考になるかもよ」
    「やれやれ……お前は列に並んで待っていろ、名前を書いてくる」
     いつも通り彼が混み合う店先のボードに名前を書いて、その間にわたしは列に並ぶ。少ししたら彼が列に加わる。
     店が混んでいるほど彼と話をする時間がとれるのだ。お互いの近況報告と、近頃気になる他のお店の情報交換であっという間に時間は過ぎる。

     わたし達の関係は、一体なんだろう?
     彼が一人で入りづらい流行のスイーツを食べられるお店に出かける。一人で予約の取りづらいレジャー体験に出かける。わたしがデートだと思いたいそれが彼にとっては取材なのだ。

    「ニ名でお待ちの藤丸様〜」
    「なんだ、今回は思ったよりも早かったな」
     店内からの呼び声を確認して、彼はさっさと立ち上がり店内へ向かう。
     彼がボードに書く名前がわたしの苗字なのが気になる。けどいつも指摘できない。二人で来ているしどちらの名前を書いたっていいけれど、彼がわたしの名前を書いているのが落ち着かないのだ。
     彼は何とも思っていないのだろうけれど、なんだかカレシとカノジョ、みたいじゃないですか?

     店内は女性客ばかりで、時々見かける男性客は多分みんな恋人と来ている。恋人ではない私達もそう見えるだろうか。
     いつも通り二人で別々のメニューを頼んで、最初の一口は口をつける前に相手の皿に乗せる。いつだったか、シェアすればメニュー二つ分取材できるとわたしが主張した時からずっとそうだ。
     デートではなく取材だから、一緒にいる時間は短い。食べ終わって一息ついて、お会計は別々に済ます。
     彼はいつもテイクアウトできるものがあればたくさん買い物していて、そんなに買ってどうするのかと前に聞いたら編集社への袖の下のようなもの、ということらしい。(普通に差し入れだと言えば良いのに)
     その後お店を出たら用事は済んだとばかりに駅へ向かうのはいつものこと。わたし達は乗る電車が逆方面だから、改札前でお別れだ。
     今日もいつもと変わらず、駅前にたどり着いてしまう。

    「竹中先生! 外で会うなんて珍しいですね!」
    「作家の休暇に編集(しめきり)が顔を見せるな。休みの価値を下落させる気か?」
     じゃあまた今度と言おうとしたタイミングで彼が誰かに声をかけられる。先生、ということは仕事関係の人みたいだ。
    「あ、そんなこと言って! この間の締切調整したのが僕だって忘れてるでしょ」
    「過ぎた締切の話をするな。ついでに新しい仕事も手一杯だ。くれぐれも無駄に仕事を増やすなよ」
     そのまま話し始める二人に、離れるタイミングを失ってしまう。邪魔にならないようにそっと帰ったほうがいいだろうか。
    「すいません、いきなりお邪魔して!」
    「えっ! いやそんな、お構いなく!」
     彼の編集さんと思わしき人がいきなりこちらに話しかけてくるのだから、つい慌ててしまう。……挙動不審に返事を返した途端隣の彼が鼻で笑ったのは後で追及したい。
    「ここのところずっと忙しかったでしょう? 調整しましたからしばらくは少しお休みもとりやすくなりますよ」
    「は、はい……?」
     なんでこの人は彼のスケジュールのことをわたしに話すのだろう。
    「これ以上はさすがに怒られちゃうので! あ、でも締切前に家に匿ったりしないでもらえると助かります」
    「えっ」
     そう言って名刺を差し出してくるのを戸惑いながら受け取る。いや、彼の編集さんからそんなものをもらうのは明らかにおかしい。
    「あのこれ、何でわたしに?」
    「……あれ、もしかして藤丸さんじゃなかったですか?」
    「藤丸ですけど……何でわたしの名前」
    「道草はいいからさっさと仕事に戻れ、給料泥棒。お前はまだ勤務中だろう」
    「ちょっと、アンデルセン!」
     まだ聞きたいことがあるのに、無理矢理話を終わらせようとする。……怪しい。絶対何かある。
     話もそこそこに腕時計を確認し、慌てて駅を出ていった編集さんと見送る。改札前にはわたしと彼の二人だけが残る。

    「何でアンデルセンの編集さんがわたしのこと知ってるの?」
    「大したことじゃない。いつだったか流れで話した程度だ」
    「どんな話?」
    「くだらん話だ。何でもいいだろう」
    「……さっきもらった名刺の電話番号に連絡して聞こうかな」
    「おいやめろ! ああクソ、電話して聞くようなことじゃない、奴らが勝手にお前を俺の恋人だと思っているだけだ!」
    「…………こい、びと?」
    「違うぞ。俺がそんな虚言を吐き散らしたという話ではなくひとえに聞き手の想像力のせいであって」
    「それで、何でわたしがアンデルセンの恋人だと思ってるの?」
    「しつこいなお前は! ただの勘違いだ」
    「……何で、誤解を解かないの?」
    「それは、」
    「それは?」
    「別に、困るほどのことでもないだろう」
     そうやって投げやりに吐き捨てた彼が珍しく赤い顔をしているから。
    「困らないならホントに恋人にしてくれれば良いのに」
     そんなことを言うつもりはなかったのに、つい言葉に出してしまった。

    「……何だと?」
    「やっぱり今の忘れて! もう帰るね」
    「待て、まだ話の途中だ」
     もうほとんど告白になってしまった。今すぐ逃げ出したいのに、こんな時に限って彼に捕まってしまう。
    「長くなりそうだ。適当な店に入ろう」
    「ちょっと! わたしもう帰るから」
    「――帰るのは話を済ませてからにしろ」
     いつにも増して強引な彼に手を引かれるままに駅前の喫茶店に吸い込まれていく。いつもわたし達が行くのとは全く違う、取材とは無縁な駅前の喫茶店。

     上手い言い訳も見つからないまま、だけど少しだけ彼の顔色に期待してメニュー表を手に取る。頭の中は疑問でいっぱい。
     
     ……とりあえず、この喫茶店は「取材」 ではなく「デート」ってことでいいんですか?

     味も分からないままコーヒーを口に運びながら、わたしはそんなことを考えていた。
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