隣り合わせの彼と彼女 田舎の電車は一時間に一本。
車両には私の他に一組の男女がいるだけのガラ空き状態。時々見かける彼らとは話したことこそないものの、もうちょっとした顔見知りだ。
私が電車に乗る時にいつも見るのは、活発そうな女の子がすらっとした長身の男性に話しかけているところ。側から見てもはっきりと分かる好意は微笑ましい。応援したくなるような健気さなのだ。
ある日は可愛い服と髪型でちらちらと男性の方を見て意見を聞きたそうにしていたり、またある日は少し距離を詰めて座ってみたり。
一方男性の方はと言うと……。
(うーん、なんか脈なさそうな感じなんだよなぁ)
会話は続いているものの、相手のことをもっと知りたい! とか仲良くなりたい! ……みたいな空気を感じない。懐いてくる部下に応答する上司みたいな感じ。いつ見てもそんな感じなものだから、私はすっかり心の中で女の子のアタックする姿を応援するようになってしまった。
そうして密かに女の子を応援し続けたある日、またいつものように電車内で二人組を見かけた。
(あれ……?)
いつも隣に並んで座る二人の間に人一人座れるくらいのスペースが空いている。いつも男性に積極的に話しかけていた女の子が一切話しかけていないのだ。電車内の微妙な空気は私も居た堪れなくなるほどで。もっとも、男性の方はいつもと変わらないように見えるけれど。
そうしているうちにガラ空きの電車はどんどん都心部へ近づいていく。座席も埋まってきて、このままだと二人の間に誰か座ってしまうんじゃないだろうか。ハラハラしながら様子を見守る。
ホームにはたくさんの人。
電車が止まって、ドアが開く。
雪崩のように人が入ってきて……。
(…………!)
途端に目の前で男性が一度立ち上がり、女の子との距離を詰める。詰められた距離に目を剥いた彼女はまた距離を取ろうとしたけれど、乗り込んできた人たちが座席を埋めてしまったのでどこにも行けない。
というか、彼女は男性に腕を掴まれているから逃れられないのだ。
(えっなに、どういう状況?)
普段は距離を詰めているのは女の子の方なのだ。それが今日は真逆の状況。
男性が女の子の髪を手ですくって、耳にかける。それから女の子に何かを耳打ちする。それから間を置かず、みるみる顔を赤く染める女の子。その様子を見る男性の意地悪そうな目つきといったら。
女の子は男性から顔を逸らしているせいで気がつかない。……別人みたいに優しい顔で彼女を見ているのだ。その顔は女の子が見ている時にすればいいのに、そう思う。
(ごちそうさまでした……?)
私はそんな感想を胸に抱く。
――この日を境に彼らの関係性は逆転したようだった。……何があったのか、ぜひ私にも詳しく説明してほしい。