エンカ(煙霞)の話エンカにはとある大事な人がいて、その人をいつまでたっても救えないというジレンマを抱えている。
エンカは器(肉体)を得たばかりの子犬の頃、ぞの器を与えてくれたネロさん(実質親)とはぐれてしまい、同じく幼かったリリー(リディシア)に拾われる。
それから暫くエンカはリリーに保護され世話になったので、親とか姉とか、そういう家族のように大事に思っていた。
そうやって過ごして数年。
リリーはエンカの目の前で殺される。
この時エンカは落とされた首のみでその光景を見ていた。エンカの首を落とし、リリーを無残にも屠ったのが何だったのか、何故だかよく思い出せない。
それでも覚えているのは、リリーがゆっくりとその生を終えていく様子と、彼女が宝物だと言っていた指輪をこちらへ差し出してきた事のみである。
そうして輪廻へと還ったリリーがまた現世へと戻ってくる度、早世してしまう様を幾度となく見送ってきた。
彼女は必ず二十代前半までに死んでしまう。死因も享年も何もかもがバラバラで一貫性も規則性もない。それでも必ずリリーは死んでしまう。
どうにか救えないかと何度も試行錯誤はしてきたが、一度も救えた試しがない。
その内エンカは諦めるようになった。今まで一度も、リリーは老衰で死んだことがない。事故か事件に係わらず、何かに殺されて死んでいるのだ。
リリーが死んだあと、エンカはネロさんに回収されるよ。そこで何度も他人の夢を見続けるようになるのはまた別の話。
エンカは生物ではないので、何をしても死にはしません。でも器は壊れはする。
首にある傷跡はターニングポイントであるこの瞬間に巻き込まれた事が原因でいつまでも消えないで残っている。
あと貰った指輪もチェーンに通して大事に持ってるよ。
でもこの指輪、何だか曰くつきな気がしてならないね。
だからか、エンカはいつかこれをリリーに返そうとしている。自分が持っているから、本来の持ち主の手元に無いから、リリーは何度も死んでいるのではないか。
なんて根拠のない仮説を立てている。
でもリリーは毎回「リディシア」として生まれてくるわけでは無いので、エンカとリリーに接点はあったりなかったりする。
リリーの指輪はリディシアの持ち物であって、生まれ変わってくる彼女たちの持ち物と言えるかは微妙だし、何が起こるかが未知数すぎる。
ので指輪返還計画を実行に移すのはネロさんからストップがかかっている。
リリーだけでなく、他にどんな影響が出るとも知れないので。