むかしばなし 今よりずっと昔のこと、人と獣人は一緒に暮らしていました。小さな諍いはあれど、二つの種族は平和に共存をしていました。
しかし、とある年、それまでにない飢饉が起こりました。
人々と獣人達は、なんとか飢えを凌いで生きようと、ぎりぎりの生活を送ることになりました。
そんな中、一つの事件が起こります。
飢饉を凌ぐための食料を保存していた倉庫の中身がなくなっていたのです。
人々は犯人を捜しました。
そんなとき、誰かが言いました。
「犯人は獣人じゃないか?」と。
獣人は力が強く、体力も多い代わりに、食事を多く摂らなければならないのです。
それなのに飢饉が起こり、いつもより食事が少なかったから食料を盗んだのではないか、と。
もちろん獣人達は否定します。自分達はやっていない。確かに食料は少ないが、耐えられる量だ、と。
もちろん、獣人達を擁護する人もいました。しかし、人々の疑いは晴れませんでした。
獣人達は人々から仲間はずれにされたのです。
彼らは、故郷をかつての仲間によって追い出されました。
それから彼らは人々の手の届かない、山奥のさらに奥に、彼らだけの世界を作りました。
人々に見つからないよう、眼除けの結界を張って。
ただ、彼らは人々を完全に忘れることができませんでした。かつての仲間を、そう簡単に忘れることはできない、と。
そうして彼らは、人々にたった一つの道を、結界の出口を遺しました。
こうして、彼らは人々の歴史から、記憶からいなくなってしまいました。
彼らは人々を想いながらひっそりと人の目から隠れながら生きているのです。
最後に、人々と獣人の仲を分つ原因となった、食料を盗んだ犯人は、若い人間の男でした。
彼は飢饉によるひもじい思いから抜け出す為に倉庫から盗んだのです。これは奇しくも、人々が獣人達にかけた動機と同じものでした。人々がこれを知るのは獣人達が去ってしばらく経った時でした。
おわり。